THE KISS by Kathryn Harrison (C. Nakagawa)


THE KISS by Kathryn Harrison
Published by Fourth Estate; 207pages

父と母は17歳のとき出会って結婚、私が生後6ヶ月のときに離婚した。私は父を全く認 めていないユダヤ人の祖父母のもとで育てられた。母は祖母との確執から逃れるために結 婚、出産をしたが私が6歳のときに1人で家を出た。私は母に捨てられたという思いから 抜け出せなかった。

私が20歳のとき、10年ぶりに父が訪問しすべてが崩れ混乱した。父は神父となり家庭 を持っていた。私をよく世話してくれた祖父は、私が思春期になると距離を置いて接する ようになったが、父は正反対で私の一挙手一投足をじっと見つめた。母と私は戸惑いなが らもだんだん打ち解けて、父の滞在中あちこちへ出かけて楽しく過した。

母の具合が悪くなって、私がひとりで空港へ父を送りに行ったとき、父が私の唇にキスを した。私は驚き、そのキスは口から脳へと広がり私を破壊してしまうように感じた。キス のことが頭を離れず、大学は休学し学生寮を出てアパートに移った。毎日のように父から は電話がかかり同じ人、父にとっては妻、私にとっては母に同じように拒絶された思いを 語り合った。父と私は1人の人の悪口を言うことに陶酔していた。20年間の空間を埋め るかのように、求め合った。

私は体と精神からくるストレスが原因で帯状疱疹や眠りつづけるというような体の変調に 悩まされた。そんな私を見て母は父の私に対する愛情は度を越えていて異常なものだと気 づいていた。父は悩む私に、神があなたを私につかわしたのだ、と言った。それを聞いて 私は父は神以上に私を愛したのかと思い愕然とした。

祖父の葬式の時に聞いたラビの、熱心に正直に生きるようにという言葉に強く動かされた 私は、実りのない父の関係を終わりにすることを決心した。

乳がんの再発で死の床にある母に付き添い看取ったが、最愛のという文字を墓標に彫るこ とができなかった。

ずっと後になって家庭を持って、家族のためにキッチンで朝食を作っている私のところに 生前には見せなかった親しい笑顔で母が現われた。母と私はお互いに長い間見つめあって、 ようやく分かり合えたのだった。

重いテーマにもかかわらずさらっとかかれているので、かえって身動きの取れなかった苦 しみが伝わってきました。気づいたときには、坂を転がり落ちていて後戻りができず、す べてが遅すぎると感じ、ますます深みにはまっていきます。母を愛しても、愛してもらえ なかったつらさと、父を求める気持ちと、いろいろの屈折した思いで悩んだ作者です。



感想はこちらに・・・・・・ohto@pluto.dti.ne.jp


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