高任和夫 架空取引


*高任和夫 架空取引 講談社 1997年11月5日発行

マイケル・リドパスの「架空取引」に続いて、全く同じ題名の本を読んだ。この作者についても、この本を読むまでは全然知らず、ただタイトルだけで読んで見る気になったある。作者は三井物産の審査部の勤務経験が長いようだから、この作品の舞台となるリース会社の審査部とも重なるし、こうした会社の審査部門と言うのが、多分作者の知り尽くした分野なのだろう。他にも「商社審査部25時」とか「銀行審査部25時」の作品もあるようだから。

リース会社で取り込み詐欺というか、空売り事件が発生した。同様な事件が前にも起きていた。8年前に主人公が味わった苦しみと新たな架空取引の解明が、やがて少しずつ収斂していくところが面白い。楽しく読めた作品だが、リドパスの作品と読み比べたら、日本と欧米の企業風土の違いが浮かび上がる。日本企業は闇社会との関係は至極普通なようであるのが、どうやらこうしたことが現在他の先進諸国から疑いを持たれているらしい。問題は私たちの文化であり、精神構造であるから、このへんはなかなか厄介な問題である。

*宮本輝 私たちが好きだったこと 新潮社 1995年11月25日発行

初めて読んだ宮本輝の作品。私がそれまで知っている作品では無かったし、たまたま図書館で見つけた本を手にとってみた。「蛍川」などの作品は、ハードカバーでは見当たらなかった。

男女4人が同じ公団住宅で2年間にわたって暮らすというストリーである。男2人は、どうやら私とほぼ同じ年齢らしい。設定は1980年の初夏から1982年の春までということになっている。文体は読みやすいし、一気に読んだ作品ではあるのだが、感想はとなると、今でももやもやとしていて、よく分からない。最後まで作中人物たちに感情移入が出来なかったからかもしれない。

あるいはその自由な生き方が私とは違うからか?それとも私には、作品全体がなにか蜃気楼のように見えるからなのか?もちろん私小説ではないのだが、それにいろいろな事件も起きるのだが、こうした日常的小説と言うか、等身大の人物を描く小説は、私にはあまり興味が無いということもあるのかもしれない。登場人物すべてが、みんな自分のためにではなく他人のために生きると言う設定になっているらしいのだが、私にはここで描かれていることが,なんとなく嘘っぽく中途半端に感じられるからなのかもしれない。

この小説、私にとってはなんとなく不思議な余韻を残した。すっきりしないのである。しかしあと1冊くらいは、この作者のものを読んで見よう。

2000-4-9



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