マネー革命


競争の厳しい金融界に関する本を2冊、続けて読んだ。ノンフィクションとフィクションの違いはあるけど、どちらも面白かった。

*相田洋・宮本祥子 マネー革命 1 NHK出版 1999-3-25 第1刷

これは3冊シリーズの第1冊目である。NHKスペシャルとして、放映されたものをまとめたものである。TVでは、4回放映されたらしい。この本が扱うのは、そのうちの第1回分と第2回分である。「巨大ヘッジフォンドの攻防」という副題がついている。放映の時のサブタイトルは、第1回が「一日で50億円失った男」、第2回が「世界は利息に飢えている」らしい。

ただし分量の大きさからいって、放映はされなかったもので、その基礎資料となったものがかなり入っているようである。そうしたものを収録しているし、著者たちの感想も交えているから、この本はTVの番組とはまた違った面白さがあるのだと思う。今までに何冊か金融関係の本を読んだが、この本で書かれていることが一番わかりやすかった。金融派生商品などと訳されるデリバティブに関しても、私はこれを読んでようやく納得できたように思う。先物取引くらいは、何となく分かるがオプションとかスワップ契約とか、今まではさっぱり分からなかった。株式市場は言うに及ばず投資信託とか、商品市場、為替市場でも、現在ではこうした技術をいろいろと使っているらしい。

それにしてもすさまじい世界である。金融工学という言葉も初めて聞いたが、アメリカのノーベル賞級の頭脳が何人も、ヘッジファンドとか、その小型版とでも言うべきマネーブティックに参加し、破産したものさえでている。この本がでたときにはソロスと並んで有名だった「タイガーマネージメント」のジュリアン・ロバートソンも、この本の中でもなかなか景気の良いことを言っている。その彼が投機に失敗してこの世界から手を引くという記事を日経新聞で読んだのは、たしかつい最近のことであった。この本では天才投機家と言われたビクター・ニーダーホッファーの破産に関して、詳しい取材がなされている。TV放映時のタイトルにもなった「1日で50億円を失った天才トレーダー」というのが彼のことである。彼以外にも、多くのトレーダーやらアナリストが紹介されているのだが、この世界で生き抜くことがいかに大変であるかは、彼らの言葉が語っている。

そして著者たちが最後に疑問を投げかけている言葉、これは案外正鵠を射ているのかもしれない。それは「生産力の衰えたアメリカが、その建て直しに努力するよりも、金融という手段で、他国民が汗して生み出した富を、自国に還流させようとしているのではないか」という言葉である。しかしそうだとしても、彼らの金融技術に太刀打ちできなかったら、日本を含め多くの国が自らが稼いだ富をも失ってしまうのも、これまたグローバル化した世界の事実なのである。日本でも最近はファンドマネージャーが、個人として表舞台に出るようになっているが、特にアングロサクソンの金融技術は、ユダヤ人をも上回り、ドイツ人と日本人はとうてい足下にも及ばないというのが、世界の定評らしい。

続編は、より技術的なことが中心になるらしいが、すぐにでも読みたいと思っている。

*マイケル・リドパス著 染田屋茂訳 架空取引 NHK出版 1995-11-25 第1刷

これは先月長崎に行ったときに前半部は、フェリーのなかで読んでいた。しかしその後10日くらい中断したままになっていた。これほどの時間をおいて、はたして前と同じようにフィクションの世界にスムーズに入っていけるかと心配したが、内容の面白さはそのままだったから、後半部も一気に読むことが出来た。480ページ近い本だし、こうした本は少し前なら敬遠したのだろうが、最近はあまり気にならない。少しは読書の勘が戻ったのかもしれない。

解説ではこの本を「金融スリラー」と言っている。私はどこがスリラーなのか分からないが、ミステリー・サスペンスものであることは確かである。主人公は債権トレーダーで、公債・私募債の業界を舞台にしている。そこで起きる国際詐欺事件とそれに関する殺人事件が物語の中心である。

この作品が作者マイケル・リドパスの処女作だったらしい。このところこうした作家が多いのか、第1作からオークションでものすごい高値がつくというのも、日本とは大分違うようだ。まだ書かれていない作品に対しても、高値を付けるというのも、日本の場合とは大分違うかもしれない。

作者は金融界で働いていた経験があるだけに、この世界の実情を知るのにはいいほんかもしれない。日本の企業とか、日本人が遠景としてあちこちで出てくるのだが、ここではいつも金持ちの日本人ということで、金融技術のほどは分からないが、なかなかいいお得意さんとして描かれている。日本は国としては膨大な借金を背負っているが、膨大な民間資金は世界の金融界を動かしているのが分かって、面白い。

私はほとんど読んでいないが、かつてはリーガル・サスペンスというか、法廷ものや司法ものが人気があったようだ。最近ではこうした金融関係のものが増えているのかもしれない。業界の勉強にもなるのは、日本のビジネス小説と同じだろうか。もっとも私は、本を選ぶにあたってはあまりそうしたことは考えない。読書に関しても、自分にとって全く未知の分野のものを読んでみることで、思いがけない発見をすることがある。食わず嫌いだけは、改めようと思っている。そう考えて、最近は著者もタイトルも全然聞いたことのない本でも、手にとっておもしろそうな本なら読むようにしている。案外いい本に出会う確率は高いようだ。

2000-4-7



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