船井幸雄の本


*船井幸雄 21世紀は「クチコミ」と「自主性」の時代 徳間書店 1999-11-30初刷

えらく長い題名だが、実際は副題もついていてもっと長い。「船井幸雄が斬るネットワークビジネス」というのである。どうしてこの頃私が読むビジネス本はこんなに題名が長いのだろうか?

私はこの本をニ重の意味で勘違いして、図書館から借りてきた。著者については朝日新聞の有名な記者船橋洋一と勘違いしていたし、ネットワークビジネスというのはインターネットを利用したビジネスのことだと思ったのである。まあ、読んですぐ勘違いに気づいたし、無いようもあまりに宣伝臭さが目立ったから、途中で止めようとも思ったのだが、結局最後まで読んでしまった。

著者は有名な経営コンサルタントであるらしい。主に流通業のコンサルティングを専門にしているようである。著者の率いる船井総合研究所は、コンサルタント会社としては唯一上場もしているようだから、有名な人なのだろう。私は勘違いをするくらいだから、これまで全然知らなかった。

ネットワークビジネスとは、インターネットとは直接は関係ない。マルチ・レベル・マーケティングの別名である。これは日本語でいうとマルチ商法のことである。いわゆる悪徳マルチ商法と同じとは言えないが、商品の価格に制限があることを除けば、理屈は同じだと思う。つまりディストリビュータによる健康食品や日常品、または化粧品などの直販システムの一形態である。その特徴として商品販売者の間に階層関係があって、下位層の売り上げが何代かの上級階層者の利益として配分される。何代目までの売り上げがボーナスとして上級者に入るかは、組織によって違うようだが、大体は6代めか8代目までのようである。

作者によれば、ネットワークビジネスこそ未来のビジネスだという。それを担っている人は、自主性にあふれた信用できる人であり、これからは現在の複雑な流通機構に替わってこうした人が日本の繁栄を導くのだとか。

私は日本にここまでネットワークビジネスの従事者が多いとは知らなかった。どうやら何百万人もいるらしい。もちろん自分で消費する商品だけの購買者もいるし、副業的な人も多いのだろうと思う。さらに最近の経済情勢では、リストラ・失業などで一時的にこうした経済活動をしている人も多いようだ。

私もネットワークビジネスの代表とでも言うべきアムウェイの名前はどこかで聞いたことがあった。この会社日本におけるネットワークビジネスの先駆者みたいなもので、長野五輪の協賛企業でもあったらしい。

日本アムウェイは、現在上場もされているし、他にも多くの企業が名前を挙げられている。ニュースキン・ジャパン、三基商事、シャルレ、ジャパンヘルスサミット、FLPジャパン・リミテッド、サミットインターナショナル、エリナ、ハーバーライフ・オブ・ジャパン、シャンデールなどなど。どうも日本の売り上げだけで、全世界のネットワークビジネスの約40%を占めるのだとか。これを作者は日本人の長所としてみているようなのだが、本当なのだろうか?

確かにこれらの名前は全国紙でも、ときどき広告を見ることがあるし、社会的には認知されてきているのではないかと思う。だが、例えばいくらムーディズによるアメリカアムウェイの格付けが最高であったとしても、どうもこれこそ未来の流通業といわれると、少しおかしいと感じてしまう。筆者はこうした企業が価格の60%とか70%を、会員たるディストリビューターに分配しているのを、中間に問屋などをおかなくてもいいから、不必要な経費がいらないからだと称賛している。しかしこれは、明らかに原価と比べて、ただ単に売値が高いということではないのだろうか?

それに商品構成にも、いろいろ問題があるようだ。アロエとか、ノニジュースとかをあたかも奇跡の食料・飲み物みたいに持ち上げるのはどうだろうか?実際、HPを検索すれば、例えば奇跡の洗剤といわれるものが、他の安い洗剤とほとんど変わらないといった苦情はいくつでも見つけることが出来る。自然食品や環境問題にやさしいというキャチフレーズを否定するつもりは無いが、こうした活動に従事している人たちは、あまりにも思い込みが激しくはないか?それに、いろいろ否定してはいるが、最初にディストリビュータになった人が有利なことは、仕組みそのものがおのずと語るところである。こうしたことに興味を持つ人間の数に限りがある以上、どこかでうまく行かなくなる思う。

ネットワークが未来のビジネス足りうるというならば、何故扱う商品が限られているのか?ここには書籍もPCも無い。そうした商品は、各人の好みがはっきりしているし、個性が強いからだろ思う。逆にいえば、本当に品質だけで勝負するような商品はネットワークビジネスに向かないのではないのか?

細かい間違いや、おかしな所も目に付いた。株価がかつて40,000円を越したとか、ベルリンの壁崩壊を1988年としたり、簡単な間違いを見ていると、作者はこの本をあまり本気で作っていないのではないかという感じも持つ。この辺は多作の筆者にありがちなことなのだろうか?ましてや、作者は上場もしているコンサルティング会社の代表でもある。さらに一時はやった尿健康法、つまり朝一番の自分の尿を飲むことで健康になるという民間健康法に関しても肯定的なようだし、私の感覚と少し相容れないところも多かった。

後半は各ネットワークビジネス会社の経営幹部たちとの座談記事になっている。なかなか面白いが、ネット上で見た批判を覆すだけの説得力は無いように思える。商品そのものは、そんなにいい加減ではないかも知れないし、流通業界の再編ももうすぐそこまで来ているとは思う。だが、例えば私にしてみれば、ネットワークビジネスが扱っているような商品が無くても別に困らないし、対面販売がこれからの重要戦略になるといっても、ここで扱われている商品にそこまでの詳しい説明が必要なのだろうか?「友達の輪」を広げることで、ビジネスチャンスも広がるというが、私には人間関係が複雑になってくる心配の方が大きいようにも思える。

このビジネスは、人間の欲望をうまく利用しているなという感じがしてしまう。まあ、私もこのごろそうしたことに関心を持ち出しているから、この点に関してはあまり大きな事もいえないのだが。これが未来社会のビジネスの先取りだ、と云う意見には私はどうしても組することは出来ない。

2000-3-21



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