斉藤貴男 精神の瓦礫


*斉藤貴男 精神の瓦礫 ニッポン・バブルの爪痕 岩波書店 1999年9月24日発行

80年代のバブルがはじけた日本は、90年代を通じて長い不況に苦しむことになる。しかしバブルが残したものは、単なる経済崩壊ではなく、社会的・精神的にも多くの傷跡を残したということを、12のテーマに絞って検証したものである。雑誌「世界」に1年以上にわたって、連載されたものがもとになっている。

地上げ騒動は、あまり縁がなかった私の住む田舎にも、その狂乱ぶりは伝わってきた。東京都の土地代だけで、全アメリカが買えるとか、信じられない話も聞いた。あるいは千代田区だけの値段だったかもしれない。そして今なおそれを信じている人がいて、土地神話の再来を願っている人もいるらしい。

携帯電話に関しても、良く知られている問題があげられている。運転中に携帯電話を使えば、許容限度ぎりぎりの血中アルコール濃度で運転するのと同じだという実験結果。女子中高生を援助交際という名のにわか売春に駆り立てる動機であり、必要道具であるという事実。さらには医療用電子機器への悪影響。さらにはモラル低下の問題。これらは今なお解決されてないし、今後も大きな問題として残っている。

東京都湯沢町の項目では、新潟県の人口約9500人の小さな町に約15,000近くのリゾートマンションが立ち並ぶという異常さを書いている。そのリゾートマンションのほとんどが、オフには空き家であり、ゴーストタウンのような観を呈しているとか。こうしたものが地域社会に与えた問題も多くあるのだが、さらに多くのオーナーが東京にの古い都営住宅や小さなアパートに暮らしており、固定資産を滞納しているという事実も信じられないことだ。あの時誰もがバブルの波に乗り遅れまいと一生懸命だったのだが、終わってしまえばここでも空しさだけが残る。

破綻した日本長期信用銀行は、その破綻後も何人かの行員をアメリカの大学に留学させていたという。長銀広報室はその事実をを認めながらも、留学の目的を「業務に必要な知識や、能力を身につけること」だと答えたという。なぜホワイトカラーの犯罪を含めて、指導者たちがこんなにも無責任になったのだろう?どんな凶悪犯罪よりも、こうした無責任のシステムははるかに、この国をダメにすると言うのに。

階層社会を論じた記事では、日本社会が戦後ずっと不平等だったこと、そしてますますその格差がひろがっていることを論ずる。ジニ係数によれば、90年代はじめの時点で所得分配にかんする限り、日本は先進国中もっとも不平等な社会だとか。私たちの持つ多くの幻想がここでも、崩れていく。

バブルが私たちに残したものは、日本の企業社会の荒廃であり、それは私たち個々人の精神的疲労なのかもしれない。作者も最後に書いているように、オカルト教団の隆盛も、おそらくはそれに関係があるのだろう。

定期購読している「世界」に載った文章であるが、私はほとんどの記事を、この本で初めて読んだ。そういえば、このごろ雑誌もツンドクになっている。もっとも定期購読でもしなければ、この雑誌は私の住むところでは手に入らないから、そうしているのだが。

2000-3-5



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