副島隆彦 悪の経済学


*副島隆彦 悪の経済学 祥伝社 平成10年7月25日発行

副題は少し長くて、「覇権主義アメリカから、いかに日本が自立するか」である。今や政治の支配に変わって、アメリカ財務省=Wall Streetの結託したEcono-Globalistsが、日本を始め各国経済を蹂躙しつつあるという認識の下に書かれている。

それにしても作者はよほど血の気が多いと云うべきか、熱血漢らしい。あとがきの一番最後は、ということはこれが作者のメッセージなのだろうが、こう締めくくられている。「日本人は、いざとなったら昔のように、煮干しと味噌汁だけの生活に戻ればよいのだ。こんな金融恐慌ぐらいでガタつくことはない」 確かに、大多数の日本人がこう感じているのなら、あまり現在の危機を心配する必要も無いのかもしれない。だが、気持ちは分かるとしても、今時こんな日本人は少数派だろう。

Globalsimの解釈を、作者は否定的に捉えている。地球全体が米国の意志と力で管理するべきだという覇権思想だというのだ。そしてかつてはそれを実現するためには、キッシンジャーに代表されるように政治家・官僚たちが主導権を取っていたが、現在はソロスを初めとする国際投機筋がその代表だという。特にソロスに対する作者の批判と反感は激しい。多くの国の金融・為替システムを崩壊させることで、多額の金儲けをしながら、火の粉が自分たちにふりかかってくるとみるや、投資市場での規制を打ち出す。このへんは前に読んだソロスの伝記を思い出しながら、なるほどと思った。

たしかに、文章の言い回しは明快だし、読んでいてもすっきりするのだが、実は私には良く分からないことも多かった。確かに納得のいく説明もあるのだが、発行後1年半たった現在、どうも事実は違っているのでは無いかと思われるところも、結構あるのだ。

日銀が現在流通している紙幣に匹敵する日銀券を刷っているから、もうすぐ日本には急速なインフレが押し寄せるというのもその1つ。これに関しては、現在国内の現金紙幣として出回っている資金は合計で15兆円だから、国民1人あたり10万円くらいだというが、これは少ないような気がする。本当にこんなものだろうか。さらに世界最大の債務国アメリカも似たようにドルの大量印刷をしているが、これは早晩たちゆかなくなるからやがて金本位制が復活するというのもいまさらながら、という感じがしないでもない。但しアメリカは、いざとなったらもちろんそれくらいのことはやりかねない、と私も思う。

アメリカ経済は景気循環を脱したとするニューエコノミー論の主張は、私でもさすがに信じることは出来ない。財政赤字と貿易赤字の2つの巨大な欠陥を抱えたまま、いつまでも唯一の超大国としての力を誇示できるだろうか。作者は資本主義の論理の貫徹の信奉者のようで、投機筋に対しては、はっきりと責任を負わせるべきだと感じているようだ。世界の金融為替市場を荒らしまくり、多くの国民経済を狂わせた責任は、彼らの論理で裁けということか。

面白く読んだが、この書に対しては、どことなく陰謀史観の本を読んでいるような気にさせられたことも事実であった。もう少し私の方の知識を充電させる必要があるのだが、このごろこうした本を読んでいて、時々いらいらする気持ちを抑えることが出来ないことがある。この本でも、アメリカの属国日本という表現などが出てくる。あるいは西太平洋地域はアメリカの裏池だという表現もあった。日本のマスメディアが、大切な情報を知らせていないという気はこのごろ特に感じている。経済情報でもそうだが、鋭い分析批判力が衰えているように感じている。

アメリカに従属するばかりで、結局長期的視野を持って日本のことを考えている指導者は、もうこの国にはいないのか?時代の閉塞状況はより悪化し、国としての日本の評価も、海外では急速に失墜しているような気がしてならない。globalistと言おうが、国際主義者と表そうが、それをふまえた上でもう少し、自主的な立場を取れないものだろうか。

2000-2-28



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