加藤仁 ”職”は地球にあり


読書、というよりも、現在にかんする情報を得るための本を2冊続けて読んだ。いずれも、そんなに時間はかけなくとも、すぐに読めた本である。

*落合信彦 勝ち残りの「生き方」 ザ・マサダ 1999年1月26日発行

落合信彦の本は何冊か読んでいる。本のタイトルがうまいのか、それとも新聞広告などのキャッチフレーズがうまいからなのかよくわからないが、つい手に取ってしまう。それに2・3時間で簡単に読み終えることが出来るし、読み終わったあとになにかすっきりした印象を持つ。映画を見た後の余韻に似ている。いわばカタルシスの発散とでも云ったら良いのかもしれない。ただしその内容は、後日まで覚えているかどうかとなると、どうもはっきりしない。私の場合、新聞記事を読み流すような感じに近いが、もしかしたら複眼的思考をする上で、知らず知らずのうちに影響を受けているかもしれない。

今までは彼の国際政治の本を中心に読んだのだが、この本はこれからの時代を生き抜くために何をしたらいいかというハウツー本である。住宅・時間・情報・英語に関して、それぞれどのように活用したら良いかということを、具体例を挙げていろいろと書いている。親切にもAAAからBBBまでのランク付きである。面白いものもあるけど、これを実践したら、はたしてどんなビジネスマンになれるのだろうか。田舎に住んでいてビジネスマンでもない私は、あまりまじめには読まなかったが、今までも私はこうした本は結構読んでいる。少し刺激が欲しいのかもしれない。

単なる読み流しにしか過ぎないのだが、少しは面白いと思ったことを書いて見る。

ランクの中には入っていないが、住に関しては作者のホテル住まいのことがかいてある。しかも常に旅人のような気持ちでいたいがために、長期貸借契約のようなものは結ばず、1日ずつ更新するらしい。ホテルの広さは50平方メートルくらいらしいが、そこに1月100万円も払うのだとか。ホテル暮らしの快適さをいろいろ書いているが、私にはさっぱり魅力的に思えなかった。この人、本当にこんな生活が楽しいのだろうか?

情報のランク付けも面白い。BBBにあげられているのは、怪文書とか中傷記事などである。私には興味があるが、残念ながらこれらは私にはほとんど縁がない。だから知らず知らずこうしたガラクタ情報には振れないでいるわけである。AAAとしてあげられているのは、医者のカルテとか、不動産の登記簿とか、良心にもとずく内部告発とかだそうである。登記簿は、会社情報としても四季報などと並んで基礎資料だと思うが、わざわざあげる必要があるかどうか。しかし登記簿謄本も法務局まで行かなくても、郵送以外に自宅からインターネットで手に入れる時代がそこまできている。CNNなどにしても、これを含め多くの新聞などがどんな田舎でも利用できる時代になっている。情報に限らず、作者のランク付けは、私にはあまり理解できない。

英語の項目も面白い。聖書がAAAA(4A)とある。3Aのさらに上である。しかし電話帳をAAAに持ってきているのには驚いた。新聞などでは、USA TODAYが一番高い評価を受けている。TIME, Newsweeなどは教材価値は高いらしいが、付加価値はAとか。New York Timesは本文は評価していないが、広告がAAAaだとか。3.5Aという評価らしい。よほど暇な時には広告も面白いかなと思うが、そうかといって広告に時代の最新情報が詰まっているといえるのか?

作者はどんな人をこの本の読者対象と考えているのだろう?私のようなものでないことだけは確かである。しかし国際ビジネスマンなら、こうした情報はあまり必要ないのではないか。他人の情報利用は、所詮他人のものでしかないし、自分の情報のランキングは自分で決めるしかないのだから。

雑誌みたいに読み流す分には楽しめる本である。しかしこの人多作だが、資料も何もないホテルで執筆しているのだろうか?インターネットは当然いつでも利用できるだろうが、この点だけは、今のところうらやましい。

*加藤仁 ”職”は地球にあり リブリオ出版 平成10年5月28日発行

この本は純粋な意味での情報本ではないのだろうが、私にしてはこれもそんな気持ちで読んだ。

タイトルのように、日本の外に自分の仕事を求めた人たちのことをルポした本である。

作者も書いているが、今ではどんな小さな国にでも日本人は住んでいるらしい。日本人が鎖国主義者だとか、外国人とつき合うのが苦手だとか、そうした巷間云われる通説がいかに間違っているかは、この本を読むとよく分かる。確かにまだ日本国内では主流ではないのだろうが、日本を脱出して、海外に住もうとしている人は、急激に増えているようだ。私のような田舎に住むものでも、そうしたことを近くで聞くことがある時代だから。しかし戦前の日本を考えるまでもなく、案外日本人は昔から、海外に関心を持ちつづけていたし、交流もしていたのではないかと思う。

海外に自分の人生をかける女性たちや若者、あるいは会社の海外進出に伴って赴任する会社員なども描かれているのだが、私が特に関心を持ったのは、40代から70代くらいまでの、中高年齢者たちが若々しいチャレンジ精神を持って海外移住を決断した話である。人生、いつでも遅すぎるということは無いらしい。

定年退職したら、日本では以前の仕事を続けることが出来なくなっても、海外途上国では自分の仕事は立派に役立つ。だから生涯現役で仕事を続けることに誇りを持っている人たちが、どんどん海外に飛び出しているらしい。特に技術系の人は、日本では古くて見向きもされないものが、海外では大いに評価されうる。この辺は私から見れば、うらやましい限りだ。日本での退屈な年金暮らしの老後に我慢出来ない人がこれからもたくさん出てくると思う。

英語とか語学力不足は、人に教えることの出来る確かな技術を持ってさえいれば、何とかなるらしい。もちろん全編そうしたエピソードを書いた本だから、読んでいても面白い。世の中にはいつまでも夢を捨てない人は結構いるらしく、このあたりも頼もしい。

私のe-palのなかにも、年取ってから日本語教師として、外国に住むことを夢見ている人が2人いる。そういえば、この本のなかにも、年取ってから日本語教師の道を選んだ人が結構出ていた。私も冗談に日本語教師の資格を取ろうと云っていたが、試験を受けてみるのも面白いかもしれない。しかし資格云々よりも、どうやら一番大事なのは現地社会に溶け込んでいける適応性のようだ。作者は若者には順応できるという言葉を使っているが、人生観が定まった高齢者には適応という言葉で使い分けている。

作者が云うように、今多くの人々の日本で閉じこめられていた野心が海を渡っている。60才になっても、70才になっても「今、人生の幕がひらいた」と語る彼らには、後悔は無いだろうと思う。失敗しても、結局は自分の人生だから。日本人のライフスタイルが変わりつつあることを、この本は教えてくれる。

2000-2-21



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