落合信彦 ジョークでさらば20世紀


*落合信彦 ジョークでさらば20世紀 青春出版社 2000年1月14日

作者の2000年初の書き下ろし作品。発行されてまだ1月もならない最新作である。主に第2次大戦後の世界の動きとその関連のジョークを紹介している。

この作品も他の落合信彦の作品と同じく、とてもすっきりして一気に読めた。時間もそんなにかからなかったから、こんな本ばかりだったら、1日に1冊くらい読むのは、案外簡単かもしれない。それぞれのジョークの前に詳しい政治背景は説明しているから、理解困難なジョークは無かった。おまけにいろいろな歴史事実も思い出せたし、なかなか楽しめた。

最初に日本人がいかにユーモアセンスが無いかのジョークから始まっている。おまけに事実の落ちまでついている。実際エスニックジョークは私もいくつか読んだことがあるが、日本人を対象としたものはあまり面白くない。アメリカ人にもジョークの類は嫌いな人は多いことだし、こうしたものはただ笑い飛ばせば良いのだろうけど、もう少しジョークの世界でも日本人が活躍するのが読みたいものだ。

私は、昔からジョークは好きで、結構読んでいる。作者は最初に日本の落語は駄洒落だけのおもしろさといって、世界には通用しないものとして切り捨てているが、これには必ずしも賛成できない。ドツキ漫才のようなものは見ているだけで分かるから、もしかしたら世界的普遍性が有るのかもしれないが、私は漫才にはあまり興味がない。笑いというものには特殊民族的なものもあるから、翻訳したらその面白さが無くなるというようなことがあるのでは無かろうか?まあ、この本で扱うのはそうした民族特有なものではなくよりグローバルな政治の世界のジョークの話である。

私も英語のジョークはかなり読んできたと思うから、大体そのおかしさは分かる。ここに収録されたジョークは一応政治的ねただし、今までに新聞などで読んできたのも結構多いから、その意味でもわかりやすいジョークと云えるかもしれない。

しかし、毎日いくつかの英文ジョークのMLが届くけど、もちろん分からないものも時々ある。商品名や私が知っていない有名人をからかったジョークなどに多いようだこの辺は、その背景が無いから分からないのは当然だと思う。ただジョークを読んだり聞いたりしても、そうしたことを楽しむ人がまわりにいないときはあまり笑うことは出来ない。さらに日本語のものであって周りの人が楽しんでいても、さっぱり面白くないものもあるから、ジョークは極めて個人差も多いとは思う。

イスラエルの情報機関、モサドの創設者、イサー・ハレルはおよそジョークとは縁の無い人物だったらしい。その彼の最初にして、最後のジョークとされるものが紹されている。何人かのエージェントたちが宇宙に知的生物が存在するかどうかを話していた。そこに彼が来たので、どう思うか聞いた。ハルはちょっと考えて云ったそうだ。「さあね。この地球上にさえ、知的生命体があるのかどうか、わからんからね」

これが今に伝えられている彼の唯一のジョークらしいが、普通にはいやみにしか聞こえないだろう。私はこれを聞いたらにやりとはするかもしれないが、自分で云ったら多分皮肉と取られるから云わないだろう。しかしもしかしたら、ハレルは普通語られるジョークをすべて理解していて、そうしたものと無縁であると装っていたのではないかという気もする。ジョークをジョークとして相手に伝える技術もかなり難しいと私などは思うから、それなら誤解を与えないように最初から云わない方が良い、とつい考えてしまう。とにかく理解と実践が全く別物であることは、ジョークに関しても真理だと思う。

ともあれ、圧制があるところ、風刺やらジョークは常に栄えてきた。新聞の政治欄の風刺漫画は私も楽しんでいるが、日本ではジョークでパンチの効いたものは少ないような気がする。和の国、日本ではジョークが芽生える余地が少なかったのだろうか?

日本人を対象にしたエスニック・ジョークでは、何でも本社に問い合わせたりして、自分の意見や判断力の無いビジネスマンが良く出てくる。この本でも天国に行っても、なにも判断できない政治家が出て来たりする。常にFAXで問い合わせようとするところが、テクノロジーの国日本を現していて、少しいじらしい。

生きる知恵としてのジョークの役割は大切だと私も思うが、いくらジョークを理解していても、ジョークにはジョークで切り返す機敏さは、私にはとても出来ない。これは若い時からかなりの訓練を必要とするかもしれない。ただ、若い世代のメールを見ていると、なにかが明らかに変わってきているような気もする。もしかしたら日本人のユーモア感覚も今変わりつつあるのかもしれない。そして日本人のジョークが、より鋭く洗練され世界的なものになる日が、そのうち来るかもしれない。

2000-2-10



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