フィリップ・カー エサウ


 

*フィリップ・カー エサウ・・・封印された神の子 徳間書店 1998年10月

作者についても、本の内容についてもほとんど知らなかったが、タイトルだけはGreenyさんのHPの紹介で知っていた。これくらいの分量の本を英語で読みとおすエネルギーは現在の私にはありそうにないから、最近はまずは翻訳でいろんな本を読むようにしている。

最初の30ページくらいは、あまり面白くなかった。投げ出したいとは思わなかったが、なかなかその世界に入って行けなかった。物語の舞台がヒマラヤからいきなりペンタゴンに移って、登場人物にまだそんなに親しみを感じていなかったからだろう。

しかしやがてぐいぐい作品の中に引きずり込まれて行った。今読んでいる「イエスの遺伝子」もそうだが、500ページくらいの厚さが少しも気にならない。どうやらこれは映画化が決まった(あるいは、された)ベストセラー作品らしいが、なるほど面白い。現代科学の先端情報を取り入れつつ、物語を展開するような作品は私も好きだと言うことがよく分かった。日本の現代作品にも、こうした作品があちこちで現れているのではないかと思う。考えて見れば、北岡類の「神の柩」もそうだった。私があの作品に多いに感心し、同時に同じ作者の他の作品には失望したのは、もしかしたらそのテーマのせいだったのかもしれない。

私はSFやファンタジーも嫌いではないし、そうした作品のあるものは好んで読むのだが、ただ現代を舞台にした荒唐無稽な作品にはやはりあまり食指は動かない。この辺は微妙なところだが、さらに私小説にはもともと興味がない。年齢を重ねても、時代小説には全く興味がない。それとノンフィクション的小説もだめなようだ。これは経済小説を読んでいても、モデルがある作品の方が、いくら世間の評価は高くても、私にはあまり面白く感じられないということと関係があるのかもしれない。しかし全く異質の世界とか、現代を舞台にしたアドヴェンチャー的なものに、は強く興味を覚えるようだ。もちろん作品の出来の良し悪しが、一番大事であるとは思うのだが、案外こうした要素も重要な気がする。

この作品はヒマラヤの高い場所にある洞窟から、類人猿と思われる化石が発見されたことから始まる。それは今までの考古学の常識を覆すものだった。それに核戦争の危機が高まるインド・パキスタン情勢と、アメリカの秘密軍事衛星の墜落が重なり、舞台設定が分かってくると、最後まで飽きることなく物語を楽しむことが出来た。いろいろな思惑はあるのだが、いわば表面上はmissing linkを求めて旅立った探検隊の背後に国際情勢の暗雲が影を落としているわけだ。それと高山の洞窟の中に存在する不思議な世界。私はジュール・ヴェルヌや橘外男などの洞窟物語、あるいはシャンデリラ伝説も好きだから、大体こうした舞台装置だけでも条件反射的に夢中になってしまう。

イェティなどの存在には普段はあまり興味はなかったのだが、この作品の扱いではなかなか面白かった。それにイェティが人類と共通の先祖を持つのではなく、人類から進化したものという設定もなかなか面白い。それに人類とチンパンジーのDNAの差異は、チンパンジー同士、ないしはゴリラとチンパンジーとの差異よりも少ないとか、いろんなことも知った。1・2年前、TIMEやUS Newsで読んだ時には、そうでもなかったのだが、最近ヒトゲノムとかDNA関連の本や記事を立て続けに読んでいるせいか、この方面に興味を持ちだしている。生命科学の進展はわれわれの人間観・宗教観を根底から覆すことになるだろう。

原作は1996年発行のようだが、今読むと印パ両国の核戦争の危機は現実化しているわけだし、まるで最新作の本を読んでいるような感じだった。

作者はもともとミステリー作家らしい。それと最後に気になったのはこの作品、既に映画化されたのだろうか。

2000-1-16



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