過疎の島に日本の将来を見る(99/8/1)


8月1日のNew York Timesに日本社会の高齢化と過度の過保護行政が日本の社会を衰退させるという長い文章が載っている。

二部から成り立っているのだが、日本の未来の象徴として1つの小さな島のことを詳しく述べている。問題の過疎の島は五島列島の中でもさらに過疎化が激しい赤島。黄島と並んで福江島沖に浮かぶ島である。もちろん私もその名前は良く知っている。過去にその島に住んでいた人も知っている。しかし私自身が、知らないことがいくつかあった。

*Empty Isles Are Signs Japan's Sun Might Dim
By NICHOLAS D. KRISTOF

この文章は、日本社会の高齢化・出生率低下に伴って、労働人口が減少した21世紀の日本は、どうも輝かしいものにはならないだろうということから始まっています。まあ書かれている事実と同じような内容は何回か読んだこともありますが、この文章は途中まで読んでいたら自分の住んでいる場所が出てきたので、思わず引きずり込まれて最後まで夢中で読んでしまいました。以下自己流に、勝手に抜き出してみます。

20世紀は日本にとって輝かしい世紀だったが、多分21世紀の日本は明るくない。それは現在の経済不況とはなんら関係ない。問題は日本の労働力人口が急速に衰えていくからである。しかも日本政府はそのことの対策を取ろうとせずに、過疎地・衰微産業に多額の補助金をつぎ込むという弱者保護の産業政策をとり続けている。 日本経済は将来も沈滞したままで、他の諸国が経済成長を続ける中、相対的にその世界の中で占める割合は、低下していくだろう。

日本の労働人口は1995年にピークに達し、それ以来急速に減少し続けている。全人口は平均寿命が高くなっていることもあって、2007年までは増える。しかしそのあとの見通しは暗い。現在の1億2600万人の人口が、2050年には1億、2100年には6700万人になる。

同様の問題を抱える他の先進諸国は、移民と産業構造の変革でそれを乗り切ろうとしているが、日本の場合現状で見る限り、いずれも期待できない。もっとも日本が世界の中でのBig Powerで無くなることを、中流国となって生活をより楽しめると考えて必ずしも悲観的でない人もいる。

しかし多数派の意見は違う。日本の変化が世界に与える影響はあまりに大きい。

日本の経済が活力を失ったのは、シュンペーターのいう「創造的破壊」を失ったからに他ならない。日本は公共福祉の制度を整えてきたわけでは無いが、企業や市町村それに、衰微していく産業に多大の税金を補助金ということでつぎ込んできた。いわば勝者を育てるのでは無く、敗者に優しい政策をとり続けてきた。

その1つの象徴として筆者は赤島を取り上げているわけである。赤島の現状から、日本が現在抱える問題点と将来の日本を予想しようというわけですが、どうも未来に関しては問題のすり替えという感じがする。

かつて300人の人が住んでいた128エーカーの赤島には現在、わずか5人が住むに過ぎない。その赤島でどんなことが行われているか。住人5人の赤島に先日約3億の港拡張工事が始まった。隣の黄島(人口70人)と赤島に、1日2回フェリーを就航させるために、年に約6000万円の補助金を拠出している。さらに赤島に電力を供給するために、政府は多額の金を出して、海底ケーブルを2本もひいた。海底電話ケーブル、郵便配達、週1回の公立病院の医師巡回などもある。黄島では3人の生徒に対して9人の先生がいる。

すべては本土並の生活を住人に与えるためである。若者がいなくなり、老人だけの島、それが赤島である。若者が少なくなっているのは、日本のどこでも見られることで、それに対する解決策は見あたらない。竹下元首相の言葉によれば、2500年には、日本の人口はわずか1人になるということだ。まあここは真面目な議論では無いと思いますが。筆者は赤島が将来の日本の象徴だと言いたいのでしょうが、赤島の老人たちには大勢の子供や親戚が日本各地にいるわけです。

人口問題が日本で特に将来に不安を投げかけるのは何故か。これは単に国内問題だけにとどまらない。世界第二の経済大国が出生率低下に苦しみ、高齢化していくことの世界経済に与える衝撃も大きい。

政府予測ではこれから50年にわたって、日本の労働人口は年に65万人ずつ減っていく。女性・老人の就業者割合が増加し、生産性は1990年代と同じように増加したとしても、2050年にはGNPは現在よりも5%減少する。これに反し他の諸国は確実にGNPを増加させるから、日本の世界経済に占める割合は現在の3分の1程度になるだろう。

さらに日本社会の高齢化の結果、21世紀半ばには1人の労働者がそれ以上の非労働者を養わなければならなくなる。当然GNPも1人あたりの国民所得も減り続けるという暗い未来が紹介されています。まあこの辺は今までにもよく聞いたシナリオです。もちろんあまり楽観できるような見通しでないことは、私にもよく分かります。

続けて第二部に移ります。

*The Puzzle: A Future Hampered by Past's Subsidies

もちろん日本の生産性が劇的に向上するかもしれない。しかし生産性の向上だけでは必ずしも楽観できない事情がある。

何故か。赤島は日本各地にあるからと言うわけです。その結果、税金は高くなり、生産性は確実に落ちてくる。日本の技術革新はめざましいものがあったが、今や多くの規制 と弱体化した産業に対する保護政策により、その障害が増加していると言うわけですね。

もう少し具体例を見ると・・・・

NTTは赤島のようなところに海底ケーブルを引かなくてはいけないので、Internetの整備に全力を注げない。

その結果電話代が高くなり多くの日本人がnet surfingを楽しめない。

再販制を維持しようとするから、日本にはAmazonのようなweb上の大型安売書店はない。

電気代・郵便代も高すぎる。国内郵便よりも、アメリカから日本への郵便が安いのは何故か。

こうしたことすべては地方がその人口比率以上に、大きな影響力を行使できるという現在の選挙制度にある。その結果各種の利益集団が形成され、市場経済の論理が働いていない。こうして大きな経済がそのdynamismを失っていく。

だがこうした背景には弱肉強食を嫌い平等を求める日本人の指向が背景にある以上、その変革は容易ではない。

こうした日本の温情資本主義は、滅びいくべき産業を人工的に生きながらえさせている。ここで今度は当然滅亡していいはずの産業が槍玉に上がります。例えば銭湯である。銭湯は過去のものであるし、将来的にもほとんど競争力が無いにも関わらず、政府は毎年120億もの補助金をつぎ込んでいる。銭湯だけを滅びゆく産業の代表例として挙げるのは、ちょっと気になるところです。

誰もが経済の活性化の対策は知っているのだが、誰もそれを実行しようとしない。日本が20年間も出来なかったことを韓国は過去18カ月でやり遂げたというのに。

労働力人口の急激な減少を補う可能性のある移民についてはどうか。アメリカの場合、出生率の減少を移民が補ってきた。シリコン・バレーのダイナミズムも彼らによるところが大きい。しかし日本は外国文化を容易に受け入れようとしない傾向がある。外国人にとっては、他のどの先進諸国でよりも、日本人と結婚しないで日本国籍を取得するのは難しい。さらには言語の問題もある。

出生率の増加に期待するのは、現状からしてかなり、難しい。退職年齢の引き上げと女性の就業者の増加はある程度期待できるとしても、抜本的な解決策とはなり得ない。だから日本の労働人口が低落傾向であるのはどうにも出来ないという結論のようです。

赤島の近くの姫島は完全に無人島になった。赤島の現状はたとえ様々な施設に恵まれていても、老いていく社会がどんなものかを暗示している。赤島の住人たちには活気のあった昔がなつかしいが、それは多分二度と戻ってこないだろう。

こうした厳しい論調は、アメリカから見ると多分常識なのでしょう。1年位前に読んだForeign Affairsの記事も、論点を労働力問題だけに絞っていたものの、日本の将来には厳しい評価を下していた。この記事は労働人口が減り続けていること、日本全体に資本主義精神というか、そうした厳しい思考法が存在しないことが、日本に未来は無いということを暗示していると言っているようです。

小さい間違いにはいくつか気づきました。赤島が日本海にあるというのは愛嬌ですが、姫島が島全体が高齢化したがために、無人島になったというのは違う。ここは全住民がカトリックの島だったと思いますが、日本全土が高度経済の最中の昭和30年か40年頃に集団で島を離れたと思います。社会の高齢化とは関係なく、むしろ資本主義の論理が多くの人から故郷を捨てさせたのです。

赤島の現状は、近くに住む私でもあまり知りませんでした。赤島や黄島の人々は、例えば福江島を本土と呼びます。そして共同体が崩壊し、老人中心の島になった島が、日本全国の他の過疎地と同じ悩みを抱えていることもまた同じでしょう。もしも本文で触れられているような行政サービスが無くなったら、その時点で島は多分無人化するでしょう。人口約5万人を抱える福江島全体を取っても、子供たちは全員島外にいるから、年を取ってから本土の子供たちと同居するために島を離れるという老人の話をよく聞きます。老人たちはあまり住み慣れた島を離れたくないようですが、そうせざるを得ない。

果たして赤島が日本の未来の象徴となるのか。この結論にはあまり納得は出来ません。ただし文章全体の日本の高齢化が及ぼす影響とか、補助金制度のあり方などには納得出来るところもあります。私はもう少し長期的な視野を持っていれば、何とかなると思っていますが、日本は衝撃に弱いからその時まで待たなくてはいけないかもしれない。しかしその内に取り返しがつかなくなるかも・・・どちらにしても、これが日本にとっても大問題であることだけは確かです。

島に住むことには様々な不便があります。ただ島はすべてにおいて本土並みの施設を持つ必要は無い、と私などは思います。もう基本的インフラは整備されているし、これ以上本土の真似などする必要は無い。少数者の意見ですが、そう思うことがときどきあります。そのかわり、他では出来ないものを、未来への一歩となるものに力を注いだらいいのに・・・と思うのですが、しかしこれは多分、他の地域にいても大なり小なり考えるだろうなと思います。

作者と似たようなことは、全体的にみると私もときどき考えます。そして多分多くの人が抱いている不安でもあるだろうと思います。だからこの予想通りの未来にならないために・・・などと考えるのですが。

自分がよく知っている世界についての記事でしたから、一気に読んでいろいろと考えました。

1999-8-3 




感想はこちらに・・・ohto@pluto.dti.ne.jp


ホームページに戻る 

New York Timesのホームページに戻る