記憶とは何か(6/15)


Newsweek 6/15の特集記事からです。

*Memory (p.44-50)

アメリカでは、ベビーブーマーたちが年をとるにつれて、最近は頭脳の健康へ の関心が高まっている。記憶力が衰えていくことへの恐れは、必ずしも年齢に は関係ないでしょうが、やはり大きい集団が年をとってくると、社会全体の興 味がどうしてもそちらの方に向かうのでしょう。彼等が30代・40代の時は、健 康ブームだったが今やmental fitnessの時代だというわけです。

忘れっぽくなるのは年をとると共に避けられないのでしょうが、果たして megamemoryはいいことなのか。megamemoryというのは、優れた記憶力というこ とでしょう。脳の働きは徐々に解ってきているものの、まだ完全というにはほ ど遠い。

人間の脳が莫大な情報を処理していることはよく知られている。コンピュータ とは違っているが、仮にコンピューターに例えるならば、人間の脳も2種類の 記憶から成り立っている。つまり現在使用中の短期間の記憶と長期間にわたっ て保存される記憶とにである。

そして現在使われている記憶は、コンピューターで言うRAMに近く、やがては 消えてしまう。この辺は1度経験したことは脳のどこかに保存されている、と いう普通考えられているのとは違うようです。これには単純計算とか、電話を かけているときにその番号を覚えていること、などがあげられる。

これに対し、長期間の記憶はHDに保存されているようなもので、大脳皮質に保 存される。大脳皮質は100億の神経細胞から成り立っており、化学的・電気的 刺激を伝達しながら情報交換する。私たちが記憶と呼ぶものも、この神経細胞 間の情報交換に他ならないが、それが繰り返し使われて初めて、そのパターン が神経組織の中に定着し、そうでなかったら消えてしまう。これは無意識のう ちに行われるが、その働きをするのがhippocampus海馬状隆起である。

ではこの海馬状隆起の働きが活発になるのはどんな場合か。1つは伝えられる 情報が感情的に重要かどうかと言うことだ。興味ある情報であれば、活発な活 動をする。

2番目に新しい情報が既に知っている情報と関連あるかどうかということだ。 つまり過去に経験した情報に関連した新情報は容易に情報化する。このへんは コンピューターと違う。人間は脳に蓄積した情報がそれぞれ違うから、同じも のをみても、各自違った意見をもつのはそのためだ。

そして自分が関心ある情報だけを記憶しているから、人間は生きていける。完 璧な記憶力は、必ずしもすばらしいことではない。ときどき超人的な記憶力を 有しながら、抽象的思考が出来ない人がいるのはその例だ。彼等の場合、海馬 状隆起が過度の情報を取り入れ、フィルターの役目をしていない。

それでは海馬状隆起を取り除いたら、どうなるか。これには1953年にH.M.とい う人に行われた実験があるようです。ひどい癲癇で苦しんでいた27才の労働者 を、その苦しみから救ってやるために、そして過去の記憶は消さないように、 海馬状隆起除去の手術をした。しかしH.M.は実験後新しい記憶を生み出せなく なった。朝食に何を食べたのか、誰と会ったのかをさっぱり覚えていない。40 年たった1993年段階でも、自分が何歳であるか、今が何日で、どこに住んでい るかがさっぱり解らなかった。

しかし海馬状隆起が崩壊するのは手術によってだけではない。アルツハイマー 病の場合、海馬状隆起が徐々に壊れていき、新しい記憶が定着出来なくなる。 しかも人間の脳は60代から70代の10年間に、5〜10%萎縮するし、海馬状隆起も frontal cortex(前頭葉?)もより不活発になる。

しかし必ずしも悲観することはない。アルツハイマーやvascular disease(脳 梗塞?)にかからなければ、年をとったからと言って記憶力がダメになるわけで もない。最悪の場合でも、少し衰えると言うだけだ。確かに細かいことへの記 憶力は衰えるが、経験がそれを補ってくれる。80代になっても、大学生よりも 頭がsharper and quickerな人もいる。

年齢に関係なく記憶力の差は大きい。高血圧は脳の働きには悪い。睡眠不足は 新しい記憶の定着を妨げる。過度のアルコール摂取や甲状腺機能不全も同様で ある。さらに意気消沈したり、心配したり、刺激が少ない生活も同様だ。

さらに現代でこわいのは、過度の情報を取り入れることが記憶力に悪い影響を 与えるということ。昔のように情報を自分の判断で取捨選択することが必要な ようです。情報の洪水にそのまま身を任せてはいけない。しかもこうした情報 の不消化は不眠・注意散漫・過度の飲酒・慢性ストレスの原因になり、結果と して脳に影響を与える。長期にわたるストレスは海馬状隆起の神経を殺す結果 となる。

ではどうしたら記憶力を保持できるのか。よく眠り、ストレスのない生活をす ればよい。これは現代においては言うは易く、実行は難しいかもしれません。 さらに果物・野菜・食物繊維を摂取した方がよい。70代の人が運動をしている 間は、3年間は記憶力が他の人と比べて衰える割合が低いという研究もあるよ うです。

記憶力の衰えを防ぐために、アメリカでは様々なセミナーが開かれたり、薬な どが利用されている。p.50には、銀杏(ぎんなん)の葉、・ビタミンE・DHEA・ アスピリン・エストロゲン・DHAなどがあげられています。以前にTIMEや Newsweekなどでもいつまでも若さを保つ薬として紹介されたものが多いです ね。

しかし日頃、新しい名前を覚えるためには注意深く聞いて、それを反復したり する努力が大切なようです。銀杏などは健康な人に対しの効用ははっきりとは 解らない。エストロゲンの効用については詳しく書かれていますが、こうした ものについてはここでは省略しておきます。

人間の記憶装置は数百万年をかけて作られてきた。もしそれが薬などで容易に 効率的になるものならば、今までに進化の過程でそうしたことが発生してきて いたのではないか、Newsweekはそう言いたいようです。それにmaximal memory とoptimal memoryは同一ではない。優れた記憶力を持っている人間が、必ずし もいいとは限らない。時には忘れることも必要だ。だからあまり欲張るな。こ れがNewsweekの結論です。

この記事感想を書くときに専門語を調べながら、少しずつ読んでいきました。 大体のことは解ったし、少しだけ賢くなったような・・・私も、物忘れがひど くなったり、新しいことを覚えられないということが、ひと事ではない年です から、こうした記事は非常に気になります。しかし私は概して若いときから、 昔のことは忘れるのが得意だった。他の人が昔の細かい出来事を詳しく覚えて いるのに驚くことが、よくあります。さらに私の周囲には70代や80代で、本な どは全然読まないような人が、自分に起こった出来事を日時から、そのときに 誰がどうしたことを言ったかということまで詳しく再現できる人がいる。私も 確かにその場に居合わせた筈なのに、私の頭からはすっかり消えている、とい うことがときどきある。もちろんそうした人は、頭の健康状態もいいわけで す。私も少し努力する必要があるかもしれない。 (^^;



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