遺伝子戦争 (6-8)


先週に続いてNewsweek 6/8では、遺伝子研究の記事を読んでみました。

*Biotech Brawl (p.42-43)

遺伝子の構造をめぐって、公共と民間の研究所の間で厳しい論争が起こってい るようです。その代表例として2つの研究施設の研究方法の違いを描いていま す。

1つはイギリスのCambridgeshireのWellcome Trust。ここは英米独仏、そして 日本の公共的研究所や政府の援助を受けているようで、現在300人の科学者た ちが人間のDNAに含まれるすべての情報を2005年までに解読しようとしてい る。このプロジェクトの名称はHuman Genome Project。これが実現できたら、 原子の分割、月面着陸と同様の歴史的偉業になることは間違いない。

彼等は人間のゲノムに含まれる30億ものlettersを解読し、それらを毎日 Internetで公開している。彼等の研究が結果として新薬、新会社、雇用創出に 結びつく可能性はあるが、あくまでも中心は純粋な科学研究ということにあ る。

これに対してアメリカの科学者J.Craig Venterの計画は違う。彼は人間のゲノ ムの解読を3年以内に、しかも3億ドルの(安い)費用で完成させると発表した。 彼はhigh-speed DNA sequencing instrumentsの生産会社Perkin-Elmerとの共 同研究をしているようです。ただこちらは、民間会社が入っていますから、 こうした研究をcharity projectでするわけにはいかない。あくまでも、ビジ ネスチャンスを求めているわけで、これをめぐって関係者の意見が2つに分か れているというわけです。

もちろん人間の遺伝子研究は大分前から始まっている。そしてバイオテク企業 は、金になる新薬を製造できるという見込みから、研究成果の特許をとろうと しているわけです。だが存在が信じられている約100000の遺伝子は、ゲノムの ほんの一部に過ぎない。その他にmillions and millionsの働きが全然分から ないlettersがある。科学者たちの中には、それをjunkと呼ぶ人もいるようで す。そしてこのjunkの研究をすることは、ビジネスライクなVenterのような科 学者たちにとっては、時間の無駄だということになるらしい。だからすべての ゲノムの解明をするよりも、より実用的な少数の遺伝子の解明をより速く、よ り安く解明できるということらしい。このへんが公共的研究所の存在意義が問 われると同時に、アメリカのバイオテク産業支配の有無とも絡んでくるだけ に、いろいろ議論になっているわけですね。

もともとVenterもNIH(National Institutes of Health)、つまりHuman Genome Projectのアメリカ側研究所で働いていた人間ですが、特許をめぐって対立 し、独自の研究所を設立した。だから研究成果が、特許化されるかどうかとい うことは、最初から大きな対立点であるようです。さらにはVenterの個人的恨 みもいくつかある。

Venterの研究方法には、まだ未確認のテクノロジーを使ったりして、必ずしも Human Genome Projectの研究成果とは一致しないかもしれない。しかし彼の研 究方法は最も価値のある新薬を作るのに必要な200から300の遺伝子解明には有 効であるらしい。いわば、おいしいところをつまみ食い、という感じですね。 さらに公共的研究所が、研究成果をすぐに発表しているのに対して、Venter側 は3カ月ごとにしか発表しない。最も重要な部分を特許申請するためのようで す。

特許が認められるためには、ただの研究発表だけではダメで、それが例えばイ ンシュリンのような薬を作れるというように、どのように実用化されるのかを 示さなくてはいけない。だから時間と金がかかる。既にHuman Genome Science やIncytePharamaceuticalsのような会社は多くの遺伝子特許を持っている。前 者のCEOのWilliam Haseltineによれば、彼の会社は既に人間の遺伝子の95%の mappingが終わっている。しかも全遺伝子の中で役にたつ情報を提供してくれ るのは、わずか2〜3%。今更、全遺伝子の解明など意味がないということのよ うです。「我々は既に月に行ってその石を持ち帰った。いまの状況は宇宙飛 行士に月のすべての石を持ってくるようにというようなものだ。おそらく可能 だろうが、それが何の役にたつのだ」というわけです。彼から見たら、両者の 議論は馬鹿げている、既に勝負はついているということでしょうか。

Ventorに対するウォール街のbiotech analystの評価も分かれているようです。 さらにWellcom TrustもVentorに対抗するべく、1億8100万ドルの資金追加を発 表した。科学者たちの戦いはさらに続くようです。

DNAの写真を始めて見ました。多分1つ1つの赤や黄や緑や青の点が本文でふれ られているletterなのだろうと思います。人間が何であるかの解明が着々進ん でいるようです。人間のすべての遺伝子的構造が究明されたとき、人間は己の 生物学的限界を超えられるのか、絶望しないでおられるのか、この記事を読み ながらふと考えました。



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