Unabomber裁判(WP, 97-11-9)


今週は、News雑誌は各誌ともUnabomberの裁判を取り上げているようです。ざ っと見た限りでは、Ted Kaczynskiの言行で、各誌の取り扱いが変わっている とは思えません。US Newsは、弟のDavidの文章を載せていますし、関連記事を いくつか読めるようになっています。TIMEも、特別枠を設けていました。 Newsweek日本語版は、関連記事はのっていませんでしたが、Asia版は、果たし てどうでしょうか。今回は、The Washington Postの11/9の日曜版から、この 事件についての感想を書いてみます。

歴史上もっとも広く知られた連続殺人犯、UnabomberことTheodore JohnKaczynskiが、モンタナの山中でFBIによって逮捕されたのは、去年の4 月。その小屋の中からは、Unabomber式の爆弾ばかりでなく、35000語に及ぶ技 術文明を批判する声明文、彼の思想行動を詳細に記した日記などが見つかっ た。これが検察側(連邦政府側)の証拠の中心となる。そして水曜日に、陪審の 選出が始まるようですから、いよいよ裁判が始まる。4カ月後には判決が出る ようですが、日本と比べると早いですね。

カジンスキーは無罪を主張。彼の弁護士は、検察側の証拠については、争わな いようです。ということは、裁判の焦点は、彼が犯行を犯したかどうかではな く、彼に刑事責任能力があるかどうか、つまり弁護側が主張するように、彼が 誇大妄想的精神分裂病にかかっているかどうかの判定にかかっている。しかし カジンスキー本人が、精神科医の診療を拒否。

弁護側としてはかなり苦しい。しかし死刑判決を免れようと思えば、これが有 力な選択肢であることは、多数の専門家が一致しています。彼らの法廷戦術が どうなるかは不明ですが、カジンスキーの有罪を認めるとしても、彼の現実感 覚は極めて異常であり、妄想的であるから、責任能力はない、ということのよ うです。それを確認するために、弁護人としては、モンタナから裁判の行われ る地サクラメントに移送されてきた、彼の小屋に入ってもらいたいようです。 電気も水道もない小さな暗い小屋。そこに25年間も社会から孤絶して1人だけ で住んでいたら、どうなるのか。まあ、たしかに晴れた日は気が紛れるでしょ うが、雨の日とか、夜には何を考えていたのだろう。かつての天才数学者とい えども、数学のことばかりを考えていたとは思われない。しかしこれは世捨て 人にとっては、そんなにつらい生活でないかもしれない。このへんのことをど う評価するかが問題ですね。

カジンスキーはevilか、sickか、これが争点になりそうです。限定責任能力 が、認められるかどうか。弁護側は、彼の精神異常を示すあらゆる証拠を提出 してくる、と予想される。彼の後半生は、エピソードが多いとも思えないけれ ども、青年期までにかけてのあらゆる出来事が集められているのでしょうか。 彼の2人の弁護士は、いずれもやり手のようで、3件の死刑判決を覆したQuin Denvirと、Susan Smithに終身刑を勝ち取ったJudy Clarkです。これは前にも 話題になった息子2人を池に沈めた母親の事件だと思います。

しかしカジンスキー本人が、検察側の精神科医の検査を拒んだ。これは、精神 科医ばかりでなく、すべての医者の診察を拒んだと他の記事では書いてありま した。これは弁護側には不利ですが、家族の証言で代用できるかもしれませ ん。弟のDavidか、母親が証言台にたつかどうかは、まだわかりません。カジ ンスキーは、逮捕以来家族との面会は拒んでいるようです。

検察側の方針ははっきりしている。彼が冷血で、計画通りの殺人を行ったの は、日記からも明らかと言うことです。その中で、彼は憎むべき人を殺した り、社会への復讐をにおわせている。爆弾を作るに当たっても、かなり細かい 細工をしていたり、被害者になったのが、彼の反テクノロジーの感情を満足さ せるのにふさわしい人ばかり、ということも検察側の主張を裏付ける。彼は単 なる殺人ではなく、殺意及び人を負傷させる目的で爆弾装置を輸送したり、郵 便で出したことで起訴される。このへんの説明は良く分かりませんが、心証と しては単純殺人よりも悪いのだろうと思います。

検察側の重要証拠として挙げられているカジンスキーの日記には、犯行前後の 詳しい様子が書かれています。弁護側は、小屋で発見された書類・日記がカジ ンスキーによって書かれたことについては争わないようです。ただ表現の自由 とのかねあいで、争う可能性はある。日記のような私的な文書を本人の利益に 反する形で利用することが許されるのかどうか、違法捜査の可能性とも絡んで くるようです。

ただし、裁判官は、弁護側の主張は退けたようです。日記の記述について、死 刑宣告することが許されるのか、ということについては論争が起きるかもしれ ません。

彼が起訴されるのは、16件の爆弾事件と3件の殺人全部についてではなく、 1985年から1995年にかけての4件の爆弾事件と2件の殺人事件及び2件の重大 な傷害事件についてだけです。これだけで、事件の凶悪さは十分証明できると いう事でしょうか。地下鉄サリン事件も、こうした訴訟形態を取るようです ね。

彼は今、ぼさぼさの髭も剃り、刑務所の図書館から借りた本を読んで1日を過 ごしているらしい。刑務所でも、他の被告からは遠ざけられ、24時間監視体制 の下にあります。はたして彼は自分の生の声で、声明文に書かれたのと同じ思 想を語るのでしょうか。

記事の最後にUnabomberの18年間にわたる犯行リストが載ってあります。16件 の爆弾事件で、3人の死者,29人の負傷者を出しています。



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