「英語を読む」 No.38


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「英語を読む」  No.38  1998-7-9 日 発行     

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みなさん、こんにちは。 「英語を読む」No.38をお届けします。

今回はIsaac Asimov特集です。

これは臨時号ということにします。私自身には面白いが、こうした趣味的な内 容は各人の受けとめ方が大きく違うと思います。興味がない方も大勢いると思 いますので、その方たちはこの号はパスしてください。

しかし私はもう少しAsimovを読んでいきますが、その結果見通しが着いたら、 Asimov関係は別のmailzineとするかもしれません。いろんな分野の本を扱うの ならば、「英語を読む」にふさわしいのですが、やはり同じ作家のもので、全 部を埋め尽くすというのを何回もするのは、少し気が引けます。

これからもAsimovを載せるかも知れませんが、分量的には半分を超えないよう にしたいと思います。

しかしAsimovでなくとも、現実の世界を忘れさせる作品を読むのは面白いかも 知れませんね。

1998-7-9

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Isaac Asimov 特集
(1) 我が名前はSで始まる('58)
(2) サリー('53)
(3) 暗闇は文明が滅ぶとき('41)
(4) 職業に適さず('57)
(5) 女主人('51)

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(1) 我が名前はSで始まる

*Spell My Name with an S (1958)

人間の運命は何で決まるのか。ほんの少しだけ、名前を変えただけでも、人の 運命は変わるかもしれない。

Marashall Zebatinskyは、核物理学者。しかし最近はどうも仕事が面白くな い。チームワークの仕事が苦手なようです。そこで妻の薦めもあって、現在の 状況から抜け出るためにはどうしたらいいか、numerologist(数霊術者)のとこ ろで占いをしてもらった。しかし核物理学者たる彼は、占いなどに頼るのが恥 ずかしかったからか、変装して行くわけです。numerologistは、生年月日や名 前などの総字数で占いをする人のこと。しかしこの占い師はなかなか博識で、 自分は数学者だといい、運命における確率論などを展開する。Zebatinskyは、 占い師のことなどあまり信じていないのですが、とにかく彼の薦めに従って自 分の名前をSebatinskyと変えてしまった。最初の一文字をZからS文字に変えた だけです。Zebatinskyは、これで自分の運命が変わるとは思えなかったけれ ど、もともとこの名前を嫌いだったからということにして、法的にも、正式に Sebatinskyに変えてしまった。

この話が書かれた時代は米ソの冷戦時代。この1人の核物理学者の名前変更が CIAの関係者の目を引いた。なぜ彼は名前を変えたのか。自分の出身を隠すた めに違いない。彼は3世代のアメリカ人らしいが、まだ親戚がポーランドかソ 連にいるはずだ。それで調べてみると、ロシアの MikhailAndreyevichZebatinskyという核物理学者が突然消えてしまっているこ とが分かった。これは何か裏があるに違いない、ということでいろいろ推測が なされます。CIAの調査力はなかなか素晴らしいのですが、その推理力という か想像力もなかなか面白い。実際にこんなことがあったかどうか分かりません が、ソ連や中国の情勢分析に写真での序列とか、少しの情報から大きな結論( もちろんとんでもない結論)を出すこともあったようですから、全く信憑性が 無いとも思えない。この作品で一番面白いのはこの辺かもしれません。

とにかくソ連のZebatinskyは、ガンマ線の反射シールドを開発する秘密プロジ ェクトに関わっている、しかもアメリカのZebatinskyも親類筋からそうした情 報を得て、それを隠すために名前を変えたという結論になった。しかし Zebatinskyをいますぐ現在の研究チームから外すとソ連側が秘密研究の情報が 漏れたかもしれないと疑うおそれがある。

それで彼にはプリンストンの物理学助教授の椅子が用意された。もちろん彼は 大喜び。妻には名前を変更したことと、運命が切り開かれたことには関係がな いと断言したけれど、翌日今度は変装もしないで、かつて数霊術師がいた場所 に入ってみると、そこには誰もいなかった。

普通ならここで終わると思うのですが、最後にHaroundとMestackという2人の 人物が話す場面になる。これが神であるなら、まあありふれているかなと思う のですが、はっきりは分からない。どうやらこの2人が賭をして、名前を変え るというClass F stimulus(つまりはつまらないこと)がClass A effect(大き な影響)をひきおこすかどうかを試したらしい。The Watchmanにそのことがば れるのを畏れているらしいのだが、やはり彼らは神と言うことになるのでしょ うか。この最後の部分だけは少し不安になったので、日本訳を読みたくなりま した。 (^^;

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(2) サリー

*Sally (1953)

前書きで、Asimovはこの作品は自動車に対する彼の感情を表している、と書い ています。ペーパーバックのNightfall 2にもこの作品は収められています。

登場人物の私はJakob Folkers。Samson Harridgeが創設したFarm for Retired Automobilesで51台の引退した車の管理をしている。といってもこの車は、現 代風のmanual car、つまり人間が運転する車ではない。positronic brainを持 った車だと書いています。行き先さえ告げれば、道のりなどを選んで目的地ま で無事に運んでくれる。判断力もすばやい。こうした車が出来たおかげで交通 事故もなくなった。ただこの車、値段が普通の車より10倍から100倍も高く、 普通の人はなかなか所有できない。普通はomni-bus-automaticsとして利用す る。バス会社に電話すれば、すぐに迎えに来てくれるわけです。

私ことJakobも、かつてはSamson Harridgeのおかかえ運転手だった。この positronic carをHarridgeが購入したときは、失業することを覚悟したが幸い そうはならなかった。そして彼の遺言通り、引退した車の世話をしているわけ です。といっても車は自分で洗車したり他のことが出来るから、あまり手間は かからない。いわばそれぞれの車は牛を放牧するようにしておけばいい。Farm という名前の由来でしょうか。長年の勤務を経て車は今優雅な引退生活を送っ ていると言うわけです。

ところがこのFarmがなんら盗難対策を採っていないことに目をつけたGellhorn が、盗みに入った。彼は数日前Jakobに取引を申し出ていたのですが、Farmの 車たちは売り物ではないといって断られていた。Gellhornが特に欲しいのがモ ーター部分。これに他の安い車の車体をつけて売り出せばぼろ儲けできるとい うことで、今度は3人の男を連れて押し入ったわけです。

ところがこの車たちは、普通のmanual carではない。思考・判断力を備えてい るし、どうやら感情も持っている。もともとこのFarmが盗難防止策を採ってい ないのは、それぞれの車が盗難に対して自衛が出来ているから。事実Gellhorn が雇った3人組は大勢の車から追いかけられる。しかも生かさず殺さず式に、 どこまでも追いかけるから始末が悪い。GellhornはJakobを無理矢理自分が乗 ってきたpositronic busに引き込んで、Jakobが一番気に入っているSallyから 必死に逃れようとする。Sallyは数日前にGellhornにひどい目にあったことを 忘れてはいないし、自分を可愛がってくれるJakobが危険だからどこまでも追 ってくる。

Gellhornが載ってきたバスはいろんな部品をつぎはぎしたもの。車を愛してい るJakobの目から見たら、そのモーターに対する取り扱いは野蛮そのもの、と ても許せたものではない。バスとサリーの間にカーチェイス繰り広げられるの ですが、Gellhornはmanual方式でバスを運転していたのですが、どうやら最悪 の結果は免れて、Jakobはバスから放り出され、Gellhornを乗せたままバスは 猛スピードで走り去ってしまう。

翌日JakobはGellhornがバスにひき殺されたことを知る。明らかに彼を乗せて 走ったバスが彼をひき殺したのだ。それから注意していると、Farmを訪ねてく る人が乗ってきたpositronic carやbusの様子がどこかおかしい。Farmの車と 何かを相談しているように見える。そういえばGellhornのバスも、最終的には 持ち主を殺すという信じられないことをしでかした。If they begin to think the way Gellhorn's bus did ....

Jakobにはそれ以来心休まるときはない。一番お気に入りのSallyを見ても、以 前のように挨拶をするどころかつい避けてしまう。

なにやらOrwellのAnimal Farmを思い出させる作品です。しかし人工知能が車 に搭載されたら、車同士が団結すると言うこともあり得るかもしれません。と ころでNightfall での説明によれば、Sallyに対する思い入れはAsimov自身の 経験を書き込んでいるようですし、フロイト的分析も可能だとか。私にはよく 分かりませんが、分析してみるのもなかなか面白いかもしれません。

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(3) 暗闇は文明が滅ぶとき

*Nightfall (1941)

この作品でAsimovはSF作家としての地位を築いたようです。この作品は読者投 票によっても、the Science Fiction Writers of Americaによっても、もっと も優れた作品として選ばれているようです。ただAsimov自身は一番のお気に入 りというわけではない。ペーパーバックでは35ページです。日本ではSFマガジ ンが創刊500号に当たる98年1月のAll Time Best SFで、短編部門の12位に入っ ています。訳は「夜来る」になっているようです。

6つの太陽が輝き、決して暗くならない惑星Lagashの物語です。もちろん Lagashがその周囲を回転するの太陽は1つしかなくAlphaなわけですが、これは Betaと2つ星のようです。その他に光が届く4つの太陽があって、今まで夜とい うか暗闇を知らない。ところがどうやらカルト教団の黙示の本Book of Revelationは2500年に1度文明が滅びることを伝えている。それに現在の考古 学の教えるところでは、Lagashの文明は周期的な性格を帯びているらしい。数 千年に1度文明が絶頂期に達したかと思うと、没落してしまう。しかも常に火 災によってすべてが破壊され尽くしてしまうようです。

そして今saro Universityの理事Aton 77をはじめ天文台の専門家は、Lagashが Darknessに突入することを予告していたが、それは人々からは信じられていな かったらしい。物語は、6つの太陽の中でもっとも明るいGammaが日没するとこ ろから始まります。そして空にはBetaがただ1つだけ。どうやら言い伝えで は、最後の星の日食の瞬間空に多くの星が現れるという言い伝えがあるらし い。専門家は空に多くの星があるという妄想を誰も信じていないが、今日Beta の日食があり、そしてそれが終わってBetaの日没後、惑星Lagashに恐怖をもた らす暗黒の世界がくることは分かっている。そしてすべての人が狂ってしまう ことも。この作品は日没後暗闇が訪れる時までを描いています。

太陽が6つあるということは、平均したら3つの太陽が常に空にあることになり ます。どうやらマッチらしきものはあるらしい。ろうそくとかたいまつのよう なものは、科学者が工夫して作りだしたものがあるらしい。しかし多分電気は ないし、また不必要なのでしょう。夜が来て、そもそも生物が生き延びること が出来るという考えがないようです。黙示の本にはどういうわけか、過去 Lagashが真っ暗なトンネルの中に入り、人々が星を見たときのことが書かれて いる。なぜすべての人々が滅びたか、気が狂った中でこうした伝承が生き残っ ているのか。

いよいよ真っ暗になろうとする瞬間、天文台にはカルトに先導された群衆が押 し寄せてくる。しかし堅固な天文台には侵入できない。そのうち完全な夜にな った。そしてこの惑星の中心都市Saro(最低でも数百万の人々が住んでいる都 市のようです)の方にくれないのあかりが見えて、それはますます大きくなっ た。それは明らかに太陽の輝きとは違う。これは1つの文明が終わった明かり だったわけですね。放火・略奪その他諸々の行動で、夜の暗さに耐えきれない 人々が文明のすべてを破壊尽くす。今長い夜、暗闇という点でも文明という点 でも、それがまた始まったわけです。

最後に天文学者が満天に星が輝くのを見て、真実を知るというのも少し印象的 でした。

この作品、意表を突くという点では少し面白いかなとも思いますが、私にとっ てもAsimovの作品の中で一番優れているとも思えない。しかしこの作品は有名 だったんですね。私はこのストーリーは、記憶になかった。昔Nightfall 1に 収められた5つの作品は部分的に読んだのではないかと思うのですが、この話 はあまり覚えていない。もっとも読み終わっても、英語の読解力が低いとぼん やりとした記憶しか残らないから、その意味では昔読んだことがあったとして も、よく内容を読み切っていなかったのかもしれません。今回は大意はほぼ分 かったと思います。

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(4) 職業に適さず

*Profession (1957)

Asimovはこの作品について何も触れていないが、私は結構面白く、普通のペー パーバックなら60ページはあると思われるこの作品を一気に読んでしまった。

時は紀元後6500年前後である。正確には主人公のGeorge Platenが6492年生ま れで、物語の中心は彼が18才からまだ20才にならないときだから、6510年前後 ということになろうか。当然この時代、人類は数千の惑星に進出している。

地球に住む人にとっては、September for Reading Day; November for Education Day; May for Olympicsという童謡があるように、この3つの行事が 重要な役割を果たしている。

人は8才になると、Reading Dayを受けなければならない。これはどうやらすべ ての子どもが、読解力を獲得する日らしい。身体的・精神的検査も行われるの だが、検査の最後に、ヘルメットをかぶる。それが終わると人は文字を読める ようになる。

この時代どのような職業も登録というか、公認制の下にあった。例えば、 Geogeの父親PeterはRegistered Pipe Fitter。母親のAmyはRegistered Home Technician。労働者になるためにはRegistered Laborerでなければならない し、あらゆる職業がRegisteredされている。Registered Manure Spreaderなど というものまである。そうして個人の特性を見極めて、その知識を授けられる 日がEducation Dayだった。この日人々はTAPEを通してそれぞれの職業の専門 知識を授けられることになる。

Georgeは何よりもRegistered Computer Programmerになりたかった。この資格 さえ手に入れたら、どのようなGrade Aの世界にでもいける。地球に住む人々 にとってOutworldへの脱出は夢だった。そこでなら地上で考えられない富も築 くことが出来る。ただし誰もに自由に行けるチャンスがあるわけではない。そ のためにオリンピックが開かれていた。これは各職業の技能競争のようです。 ここで優秀な成績を収めれば、Outworldからスカウトされる。Computer Programmerになりさえすれば、それはさらに容易になる。

Georgeと対照的に、Stubby Trevelyanという同い年の少年の生き方が描かれま す。Trevelyanは、Registered Metallurgist冶金学者の父親がいる。彼は自信 を持ってその道を歩もうとしている。しかしGeorgeにはそうした父親はなく、 社会的には低層に属するのでしょうか。自尊心が強く、知性も高い彼だが、果 たしてエリート中のエリートたるRegistered Computer Programmerになれるの か。この時代職業の選択の自由はほとんどないし、Education Dayでその人の 運命は決まる。

運命の日、しかしGeorgeはうねぼれから自分がRegistered Programmers向けの 本を読んでいたことを検査官に話す。この時代、Reading DayとEducation Day の間の10年間は、どんなに過ごすのかは余り書かれていません。丈夫な体を持 ち、一般的な知識を収得するために学校らしきものはあるのだと思います。こ のように管理下された社会で、10年間が無駄に過ごされるはずはないことです から。しかし職業に必要な知識は、教育テープをINPUTされることで一瞬に獲 得できる。もちろん職業上の技能は知識だけではないし、そうした経験を競う のがオリンピックのようです。しかしだからといって、自分がなりたい職業の 知識を前もって知ろうとする少年は珍しいらしい。それはGeorgeの言葉を聞い た検査官の反応にも出ています。Your brain pattern is fixed at birth. 事 故や損傷で、悪い方に変わることはあるかもしれない。But it certainly ca n't be affected by your thinking special thoughts.

各自のすべての遺伝子情報までもが、完全に把握され、多分それまでの18年間 のすべての人間の情報が保存・分析されている社会のようです。しかし結局彼 はRegistered Programmerにはなれなかった。それどころかthe Motor Mechanicsにもthe Construction Engineerにもthe Agronomicsにもその他あり とあらゆる職業になれないと宣言された。Registered Laborerにさえもなれな い。Georgeは世の中にいかなる種類の知識も埋め込むことに適しない人間がい ることを知らされる。そうした人物が世界各地で発見され、彼らは世界の自由 収容所みたいなところで、テープでではなくマニュアル式で、つまり20世紀の 我々が本や人を通じて知識を獲得していくような方法で自分に適した職業を見 つけなければならない。

普通の人ならEducation Dayにテープを通じて一瞬に専門知識を得ることが出 来るのに、それを拒絶されたGeorge。彼は生涯を、特定の職業に就くことな く、必要な知識を本を通じて手に入れる以外に方法はない。それはEducation Dayを迎える前の少年たちと全く同じではないか。A teen-ager all his life. A pre-Educate forever and special books would have to be written for him。おそらく家族にも友達にも真相は知らされず、一生を社会から隔離され て暮らさなければならない。

やがてGeorgeは落ちつきを取り戻すが、世間がOlympicで夢中になっている5月 になっても、彼の周囲だけは時間は止まっているかのようだ。同室のHali Omaniは30才にもなっているのに、いつかRegistered Electronicianになるこ とを夢見て原始的な書物による知識習得に励んでいる。自分もまたNothingのま ま、この中で朽ち果てるのか。そう思ったGeorgeは、施設を飛び出してオリン ピックが開かれているサンフランシスコに向かう。そこで非鉄冶金学者として オリンピックに出場しているTrevelyanの競技を見ることになる。自分は今だ professionlessなのに、彼は既にNoviaが後押しするオリンピックに出場して いるのだ。もともとオリンピックは、Outworldが人口過剰の地球から、優秀な 人材をリクルートする絶好のチャンスだから、Trevelyanは若くしてNoviaに移 住できる直前のところまで来ている。

試合後、残念ながら古いマシンのために優勝できなかったTrevelyanに、なつ かしさのあまりGeorgeは声をかける。しかし自分の現況を恥ずかしさと屈辱感 から語ることが出来ず喧嘩となる。いわば住所不定のような彼は、警察官に補 導されそうになるが、親切なIngenescuという紳士から助けられる。彼は試合 中も隣りに座っていたし、その前にも声をかけてきていた。社会科学者、歴 史家であるこの男はかなり地位の高い人物らしい。彼の尽力でGeorgeはNovia の重要人物を紹介してもらう。うまくいけばNoviaに移住できるかもしれない と考えたGeorgeはvisiplateを通して熱弁をふるうが、無視されてしまう。

しかし意外な真相が明らかになる。Ingenescuは最初から、Georgeを監視して いたらしい。助けを申し出るIngenescuに対して、暴れる彼は警察官によって 取り押さえられ、鎮静剤を打たれる。

Georgeが目覚めたとき、彼は再び自分が元の施設に連れてこられたことを知 る。何が起きたかを思い出しながら、彼の心はようやく冷静さを取り戻す。そ してその中で彼にもようやく真相が見えてきた。彼が今いるのは、The Institute of Higher Studiesであること、GeorgeはReading Day、Education Day, Instituteでの行動、すべてがこの社会の中のほんの少数の創造的才能を 持った天才を選ぶテストだったのだが、彼がそのすべてに合格したことを彼は 知る。彼はEducation Tapeそのものを作り出したり、新しい機械等を生み出す 人間として、選ばれたものだったのだ。何段階もの検査の最後の最後で振り落 とされた人物たちが、Ingenescuなどの社会科学者たちだった。同室のOmaniも また心理学者であった。重要人物たる彼らもsecond echelonにすぎなかった。

最後にGeorgeは叫ぶ。Why do they call them Olympics? これははっきりし ないところもありますが、Education Tapeによって教育されたり、競争条件が 同じでないのに、どうしてオリンピックなのだということでしょうか。

結論は少し意外でしたが、大体の展開は予測できました。Georgeの屈辱と試練 が大きければ大きいほど、これは指導者を選んでいるのだな、ということは何 となく分かりました。Georgeのような人々を、世間に知らさないというのは、 確かに自分の人生を自分の手で決めることが出来ないほとんどすべての人物に とって、その存在を知るというだけでも屈辱だからでしょう。生まれたときに 既に資質の選別が行われているわけですからなおさらでしょう。

この作品は一見Happy endingのようだが、そうではない。こうした社会で生き ることだけはごめんだ、と思いますが、どうやら時の流れはそのようであるの かもしれません。私は最初に書いたように読んでいるときは面白かったのです が、考えようによっては、あまり楽しくない作品かもしれません。

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(5) 女主人

*Hostess (1951)

宇宙に人間と同じ知的生命体が存在したとき、その出会いはどんなものになる のか。全宇宙で、知的生命体の存在が5つだけ分かっているという時代の物語 です。当然惑星間旅行、他の太陽系への旅行も実現している未来の話です。

Rose Smolletは35才の生物学者。結婚してまだ1年にしかならない。夫は、警 察官。周囲のものは彼女がDrakeと結婚するといったときも驚いたが、相手が 生物学者でもなく、関連分野の研究者でもなく、大学の学部以上の教育を受け ていない警察官だと聞いてなおさら驚いていた。お互い仕事の話しは家庭では あまりしなかったけれど、それなりに幸せな1年だった。

しかしRoseがHawkins星から地球を訪問する医師を、自分の家に滞在させるこ とになるところから、彼らの運命は変わる。私は最初の何ページかを読んだ限 りでは、お互いの誤解などを描いた作品かなと漠然と思っていたが、読み進む うちにミステリー+スリラ−を読んでいるような感じになってきた。

ホーキン人Hawkinsiteは、青酸カリを吸わなくては生きていけないし、6本足 だし(2本は人間の胸から出ているから手ということになるのでしょうが)、そ の生理学的・心理学的側面はほとんど地球人には分かっていない。そのために もRoseにとって自分の勤務するJenkins Institute for the Natural Sciences から、その申し出を受けたとき承諾したのだが、夫のDrakeにとってはあまり 面白くない。

とにかくHarg Tholanを迎え入れた夕方、Smollet夫妻と彼はいろんな話題を話 すわけです。この中で現在知的生命体と確認されている5つの中で人類だけが 特に変わった性質を持っていることが強調される。例えば結婚というのは人類 特有なものだし、社会制度が非常に異なるのは分かる。ホーキン人の間では厳 然たるカースト制度が支配し、違うカースト間の交友には制限があるらしい。 カースト=職業と考えていもいいでしょうが、地球にも過去や現在にいろいろ な社会制度があるから、社会制度は違うようでいてあまり考えも及ばないよう な社会制度というのは、SF作品といえども案外出てきません。

生命が蛋白質の土台に築かれているのはどうやら共通なようだが、体の構造や ら器官はいろんな作者によって、いろいろ書かれています。人類の呼吸器系統 は鉄か時としては銅を含んでいる酵素によって支配されている。だから青酸カ リとこれらの金属が化合したら、呼吸器系は酸素を使用できなくなり数分で死 んでしまう。逆にホーキン人は、生命に必要ないくつかの器官で少量の青酸カ リを必要としているから、ときどきそれを吸入しないと死んでしまう。SFで酸 素は地球外生命体にとっては有害だというのは、結構読みます。しかし dyanideは青酸カリと訳しましたが、これは気体にもなれるのだったかな。こ のへんは化学の専門家、Asimovの言葉を信じることにします。

そして地球と呼ばれるthis queer planetを研究するためにHarg Tholanは地球 を訪ねたのだという。例えばInhibition Deathというものは、地球にだけはな い。反応停止死とでもいうのでしょうか、どうやら人類以外の知的生命体には 大人になって肉体的成長が止まるということはないらしい。彼らには死という ことも、本来はないようです。ところが一部の人に突然成長が止まるという現 象が起きる。これがInhibition Deathで、地球のがんと同じように、これにか かった人は1年以内に死んでしまうらしい。現在ならAUDSとかさまざまな奇病 が発生していますが、この作品が書かれた時代にはがんこそ人類にとって最大 の難病だったのでしょう。

だから彼らにとっては大問題であるわけです。そしてHarg Tholanは、その方 面の研究者で、この病気の原因を探るために地球に来たらしい。どうやら地球 との接触が多くなってから、この病気が増えていること、しかもホーキン星は 他の4つの知的生命体の住む惑星の中で一番地球に近く、しかもInhibition Deathの発生率は地球から遠ざかるにつれて低くなるらしい。だからHarg Tholanは、地球こそこの病気の原因ではないかという仮説をたてて、個人的に 地球を訪れたようなのだ。

そしてSmolett夫妻の家を選んだのも偶然ではないらしく、また夫のDrakeも突 然湖のホーキン人に興味を持ち始めているらしい。いったいHarg Tholanの真 の目的は何で、またDrakeは何を知っているのか。もしこのInhibition Death が地球に原因がありとするならば、史上最初の惑星間戦争の可能性も無いとは いえない。Drakeの仕事の内容について、それまで考えてみたこともなかった Roseにとって、すべてが謎でミステリーじみてくる。そもそもDrakeは何故自 分と結婚したのか。Roseは、こうした考えが20世紀のスパイ小説やcostume dramaじみて、ばかばかしいと考える場面があります。costume dramaは時代劇 のことのようです。20世紀が特に話題になっているところを見れば、この物語 の舞台はあまり遠くない未来でしょう。

それにHarg Tholanの謎の行動もある。彼はDrakeに警察の行方不明者の部署を 見学したいと言った。そして彼がRoseにYou are a more charming hostess.と 言ったときの、それを聞いていたDrakeの恐怖に満ちた表情。これがタイトル のHostessにも関わるわけですが、地球人同士ならちょっとしたお世辞にしか すぎない言葉の裏にはどんな意味が隠され、そしてDrakeはその中にどのよう なニュアンスを感じたのか。

地球では行方不明者になるのは男が多いこと、しかも結婚後1年以内の男に多 いのはどうしてか、あるいは何故男が女よりも平均寿命が数年短いのか。

Drakeはホーキン人の来訪の真の目的が、やはり彼が病気の原因が地球にある と考えていること、彼の惑星でそれに気づいているのはまだ彼1人しかいない らしいこと、このことが知れると地球とホーキン星の戦争に発達する可能性が あること、そうしたことを考えてDrakeは彼を殺してしまう。そしてDrakeも結 婚1年以内の夫によくあるように、彼女の元を去っていく。

She had finally learned why Drake had married her.物語の最後の言葉です が、これはどういうことなのか。おそらくDrakeも、治安関係の重要人物で、 Inhibition Deathが果たして地球のものなのかどうか気にかけていた。それの 原因を探るべく、成長とかガンの専門家であるRosaと結婚したのだ、というこ とを分かったととりましたが、正直言うと少し自信がない。

なお死に直面したホーキン人が語る言葉によれば、宇宙の中に6番目の知的生 命体が存在する、それはどうやら人間にとりついたparacite寄生者だと言うこ とのようです。有史以来人類はそれを当然のことと考えているから、この存在 を疑っても見ない。現在では共生的存在になっているらしい。どうやら目には 見えないらしいこの寄生者は、人間に寄生して惑星間を旅行し、この病気を増 やしたということらしい。わかりにくいし、まとめにくいからこれ以上書きま せんがなかなか面白い考えだと思います。なおhostessは、このparaciteを養 うものとしてのhostessという二重の意味で使用されていたから、Drakeの顔色 が変わったわけです。

しかしAsimovもこんな作品を書いていたのだなと、つくづく感心しました。

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