「英語を読む」 No.27


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「英語を読む」  No.27  1998-5-22日 発行     

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みなさん、こんにちは。 「英語を読む」No.27をお届けします。

No.26の発行が5/20でしたから、今回はかなり早い発行になります。発行を不 定期にしたのでいつでもいいという気楽さから、書くことが楽になったのかも しれません。

今回は、私の文章だけになりましたが、投稿の方もよろしくお願いします。投 稿が多くなれば、随時投稿だけで発行することも考えていますので。

1998-5-22

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目次
1. The Sunday Times 98-5-17
2. インドの核実験と我らの幻想(TIME 98-5-25, ESSAY)
3. ミス・アップルバアームにベゴニアを (P. Zindel)

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1. The Sunday Times 98-5-17
(1) 中世に生きるロシアのハンセン患者たち
(2) 誰が学生に銃を発射したのか
(3) サイバーテロリストの恐怖

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(1) 中世に生きるロシアのハンセン患者たち

* Dark Age doom of Russia's lepers

ロシアのハンセン病患者たちは、長年自分たちだけのコロニーに生きることを 余儀なくされた。社会的偏見は、今なお強く、病気が治っても社会復帰の望み はほとんどないという記事です。

ハンセン病の症状は、いろいろあるのですね。leprosy, which causes discoloration and lumps on the skin and, in severecases, disfigurement and deformities.皮膚の変色やこぶが出来る、というのもハンセン病の症状 であるというのは知りませんでした。私も、重症の例しか知らなかった。しか し感染性の病気とはいえ、90%の人が生まれつき免疫を持っているということも 知らなかった。残りの10%(他の所ではロシア人の言葉として5%という表現もあっ たようですが)が、患者と長期にわたって親密な接触をした場合に罹患する恐 れがある。ただ前もってだれがその病気になるかを予測することは現代でも出 来ない。完全に治ったということの判断時期も簡単ではないようですから、こ のへんはなかなかやっかいな病気ではあるようです。

一度感染しても、6カ月以内であれば抗生物質によって容易に治せるし、仮に ひどい症状の場合でも2カ月間の治療によって感染の恐れはなくなる。だから 西側諸国や、世界のハンセン病患者の60%をしめるインドでは、患者を隔離す る政策は現在取られていない。

ロシアは例外である。厳しい隔離政策が取られ、許可無しにコロニーの外に出 ることも許されず、配偶者子供たちにもなかなか会えない。患者たちもそうし た分離隔離政策を当然だと受け入れる傾向が強い。そしてロシアの医者や専門 家も完治した患者の再発を恐れて、腫れ物にさわるような態度で患者に接して いる。だからほとんどの患者が狭いコロニーで一生を過ごすことになる。15才 から96才まで80年あまりを過ごした人もいます。

コロニーを訪れる理髪師は内部の道具等をいっさい持ち出すことを厳禁されて いる。また買い物をする場合にも、直接現金を手渡すことは禁じられている。 口座からの引き落としという決済方法が取られている。カウンターにいる販売 員も患者には決してさわらない。これは多分コロニー内部の店のことだと思い ますが、ましてや外部のものはロシアに4カ所あるコロニーの存在自体さえ知 らない。このへんはダイアナ妃が患者たちと握手したり、抱きしめたりしたの とは大違いというわけです。

ロシアは1923年の法律でハンセン病を社会的に危険なものと規定して以来、感 染したものはその家族にさえも病名を知らせないで隔離してきた。ソ連社会は ある日突然誰かが消えても不思議に思わない社会だったから、別に噂にもなら なかったのかもしれません。事実を知らせることなく、すべてを闇のままにし ておいた。それに聖書の中ではあちこちでらい病(ハンセン病)を恐ろしいもの と記述していることとあわせて、ロシア社会での厳しい差別に影響しているか もしれない。

私はハンセン病に対する知識もほとんどありません。最近日本ではらい予防法が 廃止されたとか、ハンセン病にかかったためにアメリカ支配下の奄美 から施設に入った人が差別された経験を故郷で語り始めたとか、そういったこ とをおぼろげに聞いたことがあ るようですが良く覚えていません。ただ昔ハ ンセン病患者の施設、瀬戸内海の島の長島愛生園に入っていた人の話や医者など が歌った和歌などを読んだことがあるのを思い出しました。小川正子の「小島の 春」は、大分前に手にとって読んだことがあります。調べてみたら、映画化もさ れて戦前に出た本のようです。こうしたことは現在ではほとんど覚えていません でした。

大分知らないことを教えられました。

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(2) 誰が学生に銃を発射したのか

今日(5/20)あたり最大の山場になるかと思われるSunday Timesのインドネシア関連の 記事です。ただあまりにも流動的なので、紹介しても古くなるだけですが、私 が他のマスメディアでは見聞きしなかったことがここには載っていますので、 紹介しておきます。

*Military's 'dirty tricks' fan Indonesia's flames
Rival factions plot rise to power via bloody crisis

長い記事ですし、今回事態がどう動くにせよ、軍が主導権を握るというのは一 致した見方のようです。その一部だけを紹介しておきます。

先週の火曜日人々の怒りをかうことになった発砲事件はどうして起きたのか。 1カ月前東ティモールからdirty trickを専門とする特殊部隊が呼び戻された。 彼等は1975年から東ティモールの独立運動を暴力で弾圧してきた国際的に悪名 高い27000人の精鋭からなりKotardの一部をなす。スハルトの義息Sumitro Subianoの支配下にある。

名門Trisakti大学の4人の学生が銃弾に倒れた。目撃者の証言では、正規部隊 は発砲したが、しかしその司令官がいうところでは、彼等が使用したのは20発 の空砲と20発のゴム弾。近距離から発射されれば、致命的なこともあるが、ど うもこの場合は疑わしかった。しかし学生たちが死亡したのも事実。

では誰が実弾を発射したのか。より後方にいた前述の東ティモールから呼び戻 された特殊部隊だというわけです。はたして真実はどうなのか分かりません が、NHKニュースでもこのへんは聞いていてあいまいでした。

軍内部も当然分裂している。スハルト一族と運命を供にするか、平和的権力委 譲を望むか、そして彼に替わって政権を執るか。少なくとも先週の段階で流血 を望んだ一部の軍人たちがいたということのようです。

何故学生たちが死んだのか、その真実は明らかになるのか。それはインドネシ アでどんな政権が出来るかで変わってくるのでしょう。

(スハルトは退陣しましたが、真相究明はなるでしょうか)

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(3) サイバーテロリストの恐怖

*US at mercy of cyber terrorists
by Matthew Campbell, Washington

将来テロリストといえば、現在のテロリストとは全く異なるかもしれない。 爆弾を所持しなくとも、自分は爆死しなくても、社会を大混乱に陥れること が可能になるかもしれないという、考えようによってはかなり恐ろしい記事 です。

クリントン大統領は今週の金曜日、サイバーテロリストに関する声明を出すよ うです。今までにはない見えざる敵が、アメリカ社会にこれまで考えられなか った混乱を引き起こす可能性があるからです。その対策を早急に打ち立てなけ ればならない。

現代はコンピューターがあらゆる所で使用されているから、いったんサイバー 空間で戦争状態になれば、空港・病院・交通信号・銀行さらには核兵器さえも が破壊され、大混乱になる。これは単なるSF的空想ではない。

心配するような事故は今月も起きている。ペンタゴンによれば、そのコンピュ ーターシステムに対して連続してシステム的侵入があったようです。ペンタゴ ンは事態を重視し、クリントンにイラクのフセインの仕業かもしれないという 報告をしたようです。フセインがハッカーを雇い、アメリカのコンピューター システムを機能させなくしようとしているということを軍事専門家も否定しき れないということでしょうか。そしてアメリカはテクノロジーで他国より優 れ、コンピューター依存度がより高いだけに、またもろさも同時に大きいという ことです。

そうした事態に対処するためにもクリントンはterrorism tsarを任命するよう です。先日のTIMEのESSAYでもにたような表現を見ましたが、これはterrorism 対策の最高責任者ということなのですね。私はテロリズム実行犯のボスとか、 麻薬犯罪のボスとかいうイメージを持っていたが、これはどうも違うようで す。

とにかく高度に電脳化された社会がいかにもろいものか。専門家の説明を聞く と、何ともあっけなく、我々の社会が砂上の楼閣のような気さえしてくる。

世界で最大の超大国が一握りのサイバーテロリスト(cyber attackers)の前に 無力である可能性が現在既にある。通常兵器や核兵器等で圧倒的優位に立つア メリカが、こうした新しいテロリストの前にはなすすべがない。5年以内に完 璧な対策を考えなくてはいけない。そうでなかったら軍事的にも、そしてます ますコンピューター社会になっているから、経済的にも取り返しがつかない損 害を被るかもしれない。

しかも未来のテロリストはノート型のパソコンを1台所有しているだけの、シ ナイ半島の砂漠に住んでいる、名前も分からない人物かもしれない。敵が誰で どこにいるか分からなければ、報復のしようもない。逆に言えば、これはわず かの資金を持っている人物・団体、そしてもちろん国家がアメリカに宣戦布告 無しに戦争をしかけているようなものだ、ということなのでしょうか。

ダビデが巨人ゴリアテを投石器 (ぱちんこ)で倒したようなことが、起こりう る。今までのハッカーは政府のコンピューターシステムに侵入して喜んでいる ような10代の少年だったが、しかし事態に変化が起きている。

映画のSneakerに似たような脅迫をMasters of Downloadingという組織から、 ペンタゴンは既に受け取っている。この組織は今までに何度もペンタゴンのコ ンピューターに侵入して、軍事通信をコントロールしているソフトウェアを盗 んだと主張しているようです。

同じような事態はペンタゴンで実施されているサイパー戦争のシミュレーショ ンでも確認されている。例えばDay Afterと呼ばれたシミュレーションでは、 テキサスのコミュニケーションのダウンから始まって、ワシントン・NY間の鉄 道システムのダウン、その結果の大衝突事故、さらにはロサンゼルスから全米 の空港の機能麻痺と続きます。これは単なる偶然ではないらしい。4つの東北 部の州の電源が落ちたとき、それが全アメリカにどうした波及を与えるか。デ ンバーやシカゴやスパイ衛星などに、さまざまな影響を与える。

こうした事態を現実に起こさないためにも、クリントンは全力をあげてその対 策に乗り出すようです。しかしいつかパール・ハーバーに匹敵するような大惨 事が起こる可能性はある。

こうした記事を読むと、何か将来の社会はもろい基盤の上に築かれるのです ね。ペンタゴンが名付けたシミュレーション作戦、the Day Afterは核戦争後 の世界を描いた映画だったと思います。私は、自分の周囲でサイバー空間が故 障しても大したことはないだろう、Tomorrow is Another Day.とのんきに構え ていますが、はたして世界全体はどんな方向に進むのでしょうか。

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2. インドの核実験と我らの幻想(TIME 98-5-25, ESSAY)

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TIME 5/25のUS版のESSAYを読んでみました。作者は過激な超現実主義者 CHARLES KRAUTHAMMER です。

* India Explodes A Nuke--And Our Illusions
So much for the Clinton doctrine of "peace through norms"
By CHARLES KRAUTHAMMER

インド核実験の報道が伝わるや、ワシントンではスケープゴート探しが始まっ た。CIAは何をしていたのか、諜報機関は何も知らなかったのか、というわけ だ。

たしかにいい質問だが、的外れだ。人口10億の勢いのある国が核所有国の仲間 入りをしたいからといって、それを信じることの出来ない大統領や国務省がお かしくはないか。もしもインドの核実験がアメリカの外交政策の失敗を意味す るのなら(私はそんなことは信じないが)、それは核実験を前もって察知できな かったからではなく、彼等に想像力というものが欠如していることが何よりも 問題だ。

5年間というもの、クリントン政権は世界の重要問題を解決するためには条約 さえ締結すればよいという考えに凝り固まってきた。化学兵器、生物兵器、弾 道弾迎撃ミサイル 、核実験など、条約締結ですべては解決すると考えてきた のだ。

特に核実験については、包括的核実験禁止条約はクリントンから絶賛を浴びて きた。「武器削減交渉の歴史において長年求められ、ようやく勝ち取られた成 果」というわけだ。

武器削減担当の国務次官John Holumはさらに熱心だ。わずか2カ月前、彼は 上院にCTBTを批准するように求めるに当たって、「すべての地域のすべての者 が永遠に核兵器を最終的に禁止する歴史的チャンス」と言い切った。

インドから見たらどうか。彼の言葉は、大げさであるだけではない。馬鹿げて いる。

クリントンはインドとパキスタンが条約調印に抵抗していたことは知ってい た。しかし彼のような人物は決して現実を見つめようとしない。国連総会でク リントンは言った。「大国と他の国が条約に調印すれば、条約が正式に発効す る以前であっても、核実験に反対する国際的規範が出来る」

ここにこそクリントン・ドクトリンの原型がある。規範を通じての平和。規範 さえ打ち立てれば、それに頑強に抵抗している者でも、やがて従うようにな る。彼等は条約には調印しないかもしれないが、国際的合意の倫理的拘束力の 前では、それを敢えて無視することはなくなる、というわけだ。

何という洞察力だ。大いなる幻想に過ぎない。インドのような国にとって、規 範よりも重要なものがある。例えば、力だ。水素爆弾であれば、なおよい。

しかし力こそすべて、という考えほどクリントン政権の中枢にいる人々に無縁 な考えはない。彼等に言わせれば、それは時代に逆行するつまらない考えにす ぎない。世界経済と世界化の時代にあって、国際共同体と国際協力の時代にお いて、力を崇拝するというゼロサム的思考とは、いかにも原始的なものだとい うわけだ。

もちろんアメリカ人がそうした考えをするのももっともだ。既に世界で一番強 い力を持っているのだから。指導者たちが力への信仰に飽き飽きして、条約や 協定を重要視し、その結果としてインドの核実験により、心地よい幻想を打ち 破られたことのショックがいかに大きいかということは理解できる。

だがインドから見たら、軍事力信仰は決して過去のものではない。1962年には 中国に屈辱的敗北をうけたし、今でも中国の核ミサイルの脅威にさらされてい る。そしてライバルのパキスタンに中国は密かに核技術を供給している。だから 中国への抑止策として、パキスタンへの脅しとして、さらには大国の証として 核実験が必要なのだ。

拒否権を持つ国連常任理事国の5大国に共通なことは何か。ただ1つ核兵器所有 国と言うことだけだ。

インドは大国の仲間入りに何が必要なのかが良く分かっている。だから5月11 日に彼等はその切符を手に入れたのだ。たしかに短期的には制裁を受けるだろ う。だが世界は長期的にはインドが核大国の仲間入りをしたという事実を受け 入れる。

クリントンにとってこうした考えは非常に困惑させられるものである。彼は言 う。「インドは核兵器を持たなくても21世紀には超大国になりうる可能性を持 っているではないか」しかしそれは父親が腕に入れ墨をして、夜中過ぎに酒を 飲んで家に帰ってきた十代の息子を諭すようなものだ。

クリントンからインドへ: 「大人になれ」
インドからクリントンへ: 「自分のやり方で大人になったよ」

インドの核実験によってわが国の条約崇拝の指導者たちは教訓を得なくてはい けない。しかし多分彼等は、CIAの何名かの責任者をスケープゴートに仕立 て、今回の教訓を忘れ、相変わらずの外交政策をとり続けることだろう。

私が新聞などで見た論調はガンジーの国インドの連想が働くのか、インドを日 本のような平和国家と考えている人が多かったようです。しかしガンジーは、 同じヒンズー教とのインド人に暗殺されたし、彼の弟子ネルーも必ずしもガン ジーとは同じ考えではなかったようです。世界の核論争はインドの核実験で一 気に新しい局面を迎えたようです。もしもパキスタンがインドに続けば、もう 歯止めは聞かなくなるかもしれません。現実主義の強硬路線の前には、理想は いつもはかないものなのでしょうか。

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3. ミス・アップルバアームにベゴニアを (P. Zindel)

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*A Begonia For Miss Applebaum by P. Zindel (Bantam) P. Zindelの作品の5冊目です。後半は一気に読んだが、時間的には読み終わる まで、1週間近くかかっているから、前半の内容で面白かった部分を忘れかけ ているかもしれない。メモとかはとっていませんが、今回は読んでいて面白か った文章などはマジック・ペンで線を引いたりしながら読んだから、それを見 ながら例によって思い付くままに書いていきます。

まず最初の前書きというか、主人公たちが前書きという形で、挨拶をしている 部分で、この本がAPPLE IIEで書かれているというのが懐かしかった。当時私 もパソコン(そういえばマイコンという言葉はいつか死語になってしまった)に 興味を持ち始めたところだったから、この機種のことは聞いている。しかし当 時APPLEは高かったし、知り合いにこの機種だったと思うが、中古で30万以上 出して買った人がいた。これはFDが使えたと思うのだが、当時アメリカでもパ ソコンの普及率は低かったのか、主人公たちもまだ個人のパソコンは持ってい ない。学校の図書館のAPPLEでこの作品を書いている。この作品は初版は1989 年と、私が読んだZindelの作品の中では比較的最近のものに属しています。

今回の主人公は、HenryとZeldaというAndrew Jackson Highの15才くらいの少 年少女。彼等と恩師Miss Applebaumの友情と別れを描いています。Zindelの作 品で奇妙なのは、若者同志の触れあいというか、友情、葛藤、恋愛がほとんど ないことです。ヤングアダルト向けの作品としては、かなり珍しい設定のよう な気もするのですが、こうした作品が若い人に人気があるのでしょうか。

今回の作品も、Henryが奇数章、Zeldaが偶数章を受け持つという形で進みま す。もっとも後半にZeldaがショックのあまり書けなくなり、Henryが続けて書 くので、入れ替わることになりますが。

Zindelの作品には珍しくHenryもZeldaも家庭的には恵まれている。Henryの場 合、父が数学者、母が精神分析医で自宅開業している。両親とも忙しくて彼の 世話が出来ないから、小さい頃からいろんなことを習わされている。父親のこ とは、Cockaloony Bird、母親のことをFreudian Octopusとよんでときどきは その行動を冷淡に書いていますが、これは少年特有のテレもあるようで両親に 愛情を持っているのは間違いない Zeldaも周囲が裕福なマンハッタンに住んで いるから、周囲と比べたら経済的には恵まれているとはいえないが、両親とも 専門職に就いていますし、家庭内での愛情は満たされている。2人とも家庭や 学校で不満があるわけではない。

それに幼なじみ。だから学校や家庭のことも少しは書かれていますが、この作 品はほとんどが彼等2人と死の病に犯されたMiss Applebaum、この3人の残され た日々の思い出と悲しい別れを描いている。その他には数名の医師や看護婦、 Miss Applebaumの姪のBerniceなどが出てきますが、若者は2人の主人公だけ。 多分同級生を含め、他に名前のある少年少女は書かれていなかったと思いま す。

まず最初に主人公の2人がわくわくして新学年を迎えるところから始まる。ま たMiss Applebaumと楽しい日々を過ごせるから。彼等は前学年にはThe SchockerことMiss Applebaumといろいろすばらしいことをした。この理科教師 はあらゆる分野に博識で、好奇心旺盛。道路でひかれた猫の死体を理科の授業 に持ってきていろいろと生徒説明したりするようなちょっと変わり者の先生。 62才になる独身の女性教師。教科書など無くても、毎回の授業を楽しくてしか も深い思考力・知識がつくようにさせてくれる先生。心優しく、毎日Central PatkのHomelessの人々の中のある地区の人に食事などを配達している人。

主人公たちはこのMiss Applebaumと3人だけで、放課後にいろいろな活動をし ていたらしい。部活のようなものでしょう。しかし他の生徒はそのすばらしさ はあまり理解できなかったのかもしれない。3人だけというのは、ストーリー の都合上切り捨てたのかもしれない。ちなみに作者のP.Zindelも作家になる前 に、10年くらい高校の科学教師だったようです。Miss Applebaumのような人 は、Zindelの理想教師なのかもしれません。

とにかく、新学年が始まってHenryとZeldaが見つけたのは、Miss Applebaumが 学校を退職したということ。彼等は失望してしまう。新しい科学の先生にはあ まり興味がないようですから、彼等は科学そのものではなく、Miss Applebaum と一緒にいろんな実験や活動やおしゃべりをしたことそのものが楽しかったら しい。

もう2度とMiss Applebaumに会えないということに我慢できない彼等は、感謝 の意味も込めて彼女を訪ねる。最初見たときにその変わりように驚いた彼等で すが、Miss Applebaumの歓待を受けて楽しく過ごす。しかしそのとき通いの医 者が来る。別室で医師がMiss Applebaumの体内から注射器みたいなもので、液 体を吸い取っている。彼等は、Zeldaの母親やBerniceなどから、どうやらMiss Applebaumが不治のガンにかかっていることを知る。しかも本人はどうも余命 数カ月という運命を知らないらしい。姪のBerniceは、その事実を隠して、叔母 の死後彼女の財産を1人じめする気でいるらしい。

Miss Applebaumの残された日が少ないこと、彼女にその事実を知らせるべきで はないのか、彼女にはその権利があるのでないのか。このへんは一種ミステリ ーのような感じでだんだんと明らかになっていきます。通いの医者は専門医で ないから、十分な治療を受けていない、もしかしたら回復の希望があるかもし れないと考えたZeldaたちは、自分たちだけで近くの病院、といっても彼等が 住んでいるのはNYのマンハッタン、Miss Applebaumの住まいはCentral Parkの すぐそばというわけですから、世界的にガン治療ではもっとも進んでいる言わ れる病院に入院させる。

3人で博物館に行ったとき、彼等2人はMiss Applebaumに真実を告げるべきだと 考えて、いつ話すべきかと悩みながら博物館内をあちこち歩いていく。ちょう どそのときイギリス(大英博物館)からロゼッタストーンが借り出されていた。 その石の前で話をえん曲に切り出す2人。しかしMiss Applebaumは既に真相を 知っていた。3人は長い間、ただ黙って手を握ってロゼッタストーンの前に座 っていた。

この作品の魅力はストーリーの展開そのものよりも、Muss Applebaumの部屋の 様子や、彼女の話、そして例えばロゼッタストーンがただ3人のためだけに存 在するかのような閑静な博物館の部屋、こうしたことにあるようです。彼の作 品は翻訳はされていないと思うのですが、話の展開もさることながら、こうし た細かいところはあまり受けないかもしれませんね。

Miss Applebaumが自分の運命を知っていたこと、姪のBerniceも叔母を愛して いること、そして通いの医師が決して無能ではなかったこと、一見意地悪に見 える看護婦が、実は不治の病に犯された患者に必要な者は、生きるという闘争 力だという配慮から、傍目には意地悪な言動をしていること、2人はさまざま な真実を知っていきますが、既にMiss Applebaumの死期は近づいている。病院 側の反対を振り切って、しかもタクシーを使わないで、HenryとZeldaはMiss Applebaumを押し車に乗せてセントラルパークを横切って彼女の自宅に連れ帰 る。

そこですべてに勇敢に立ち向かっていたMiss Appleが「こわい」ともらす言葉 に驚く2人。若い2人もそれまでにも死についていろいろ考えていたという意味 でもこの本は珍しいのですが、やはり彼等には死を具体的に考えることは難し いのかもしれない。しかしそれでも最後まで、Applebaumのユーモア精神は衰 えない。Berniceに残す言葉も、死後のことをよろしく、というようなもので はなく、「私は完全に回復したから世界旅行に出かけて、ベネズエラあたりに 住むかもしれない」という手紙。

病院から自宅に帰った日、HenryとZeldaだけに看取られて、Miss Applebaumは 死んだ。最後の願いは、自分が愛したCentral Parkのベンチの下に永遠に眠る こと。2人は夜中、人目を避けてその願いをかなえる。

まあ最後の1・2章の話の展開は、現実離れしていますし、あと両親に知られな いでMiss Applebaumの代わりにZeldaたちがHomelessの人々の面倒を見たり、 学校生活をどうやって切り抜けたのか、いろいろ細かい所では展開に無理もあ りますが、これは一切無視します。(笑)

タイトルのベゴニアの花は、2人がMiss Applebaumの家を訪ねていったとき、 持っていった花。彼女の自宅では、10個くらいのベゴニアが水車のような台に 載せられて回転していたように、彼女が愛した花。そしていつの日か、2人が Miss Applebaumが埋まっている彼女の愛したベンチの上に捧げようとした花。

この作品でも、P.Zindeeeeeeelの言いたいことは、自分の人生は誰の者でもな い、しっかり生きよ、ということなのでしょう。最初から最後までMiss Applebaumの死が強い影で覆っていますから。

結局、感想を書きながら、最初に書いたのと違ってこの本をぱらぱらめくるこ とはほとんどありませんでした。こうしたことを書こうかなとあらかじめ考え ていたものとは大分違った内容になりましたが、これでよしとしておきます。 本を見ないで感想を書くと、あまり難しいことを書かなくなります。

P.Zindelの本はあと未読が2冊。これをさらに読みすすめるか、それともIssac Asimovに進むか。しかし全く別な本になるかもしれません。

1998-5-22

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