地図を楽しむ


地図を見て、時々時間を過ごすことがある。いろんな地図があるし、想像が広が
るから退屈なときには面白い。

最近はネットでも詳しい地図が入るから、目的地がはっきり定まっている小旅行
なら市販されている地図を買わなくても、ネットからダウンロードした地図で用
が足りるようになっている。ヤフーなどで日本全国の地図は詳しいのなら1/3000
くらいまで分かるから市街地図としても大型地図帳より詳しい。日本の地図の基
本である国土地理院の全国の2万5千分1地形図ももちろんネットで閲覧することが
出来る。http://mapbrowse.gsi.go.jp/

だから利用の仕方では、地図を見ながらいろいろなことが楽しめる。例えばネッ
トで知り合った人と、それぞれ自分の近くの地図を見ながらいろいろと話すこと
も出来るわけだ。文章はもちろん時によっては写真よりも相手の住んでいる地域
のことが分かったような気になるから面白い。

海外の地図では頼まれてタイの町を調べたことがある。日本の検索サイトでは詳
しいのは見つからなかったが、アメリカのヤフーあたりからすぐに目的地の市街
地図にたどり着いた。タイの市部地図の地名だけでもプリントしたら確か18ペー
ジくらいになったから、日本でいえば市という名前のつくくらいの大きさの町な
らいつでも取り出せるわけだ。これはおそらくタイに限ったことではなく、世界
のほとんどの地域に当てはまると思うから、便利なものである。

ただし同じ地図を見ているからと言って、全ての人が同じ感想を持つとは限らな
い。ある韓国人が知り合いの日本人にNHKの天気予報で画面の中心にあるのは
どの地方だと聞いたらしい。その日本人がとっさには答えないでいると朝鮮半島
だと答えたとか。たしかにそう思ってみればそう見えないこともない。この辺は
韓国人ならずとも自分の頭の中にある世界像が地図に反映されているのだろう。
私でもどこの国が製作した世界地図であっても、まずは日本の位置が気になるだ
ろうから。

複眼思考と言うわけではないだろうが、視点を変えることで印象が違ってくるこ
ともある。普通の地図は北を上にして描かれているものが多い。これがオースト
ラリアなどでは南を上にした世界地図が土産品として売っているらしい。普通の
地図帳でもさかさまにすればいいだけの話だが、なるほど印象ががらりと変わる。
だまし絵に通じるような不思議な不安定感があって、面白い。見慣れているもの
がそうではないことに人は不安を覚えることも多いだろうが、自分の観念を柔軟
にするのにはいろんな見方で地図を見ればいいかもしれない。

私たちには馴染み深い日本が中心に来ている地図も国によってはもちろん違う。
ヨーロッパ中心の目から見れば極東である日本は左の片隅に落っこちないように
くっついている世界地図がまず浮かぶのだろう。どの国でも自国を中心に世界を
考えるというのが通常の感覚だろうから、世界地図を思い浮かべるということに
なると国籍の違いがよく出る気がする。

一見結びつかないようだが、地図と民族主義というのは、案外かなり強い関係が
ある。植民地を手に入れてそこの地域の地図を作ると言うことは、宗主国にとっ
てはほとんど常識だったのではあるまいか。戦争中に気象情報と並んで地図が軍
事秘密であることは、考えてみれば不思議ではない。

日本人の頭の中で、日本は北東アジアに弓状に位置する姿をすぐに思い浮かべる
だろうが、見方を考えれば結構いろんなことも分かる。北極を中心にした地図も
何回か見たことがある。ロシアとアメリカ大陸が近いということはよく分かる。
メルカトール図法の地図のイメージとは少しずれる。それで見るとロシアが歴史
上常に不凍港を求めて南下したとき、日本列島がいわば太平洋の入り口をふさぐ
形になっているのも分かる。ある詩人が日本列島が大陸から見ると心という字を
描いていると詠ったのも、なるほどと思える。左の点が北海道で、心棒が本州、
右の二つの点が四国と九州というわけだ。形としては日本列島は美しいと想うが、
この辺ももちろん思い入れが入っているのだろう。

地図といっても、ファンタジーなどの空想の世界の地図もあるわけだ。本文だけ
読んでいても位置関係がさっぱり分からないが、地図がついていれば分かるとい
うのは、よく経験することである。私もSFとかファンタジーは好きだから、理想
の世界などを夢想するのだが、絵心がないとあまり地図をかいても面白くない。

私は古地図にも興味を持っている。最近は国会図書館とか各大学の所蔵地図など
がネットでも色々と出ているから、根気よく探せば面白いのが結構ある。1500年
代に製作された南極の地図には、当時の人々が知るはずのなかった南極の海岸線
が正確に描かれているとかいう話などはなかなか面白い。20世紀になって航空写
真の結果ようやく分かった氷の下の海岸線などが既に500年前か、さらにはそれ
以上前から伝わっていたという話になると、なかなか興味が尽きない。

大航海時代の前の小地図は不正確なだけに、そこはかとないロマンも感じさせる。
まあ地図は今と違って貴重なものだったろうから、美術品のような感覚で接する
から楽しいのかもしれない。しかし古地図が作られた時代には、もちろんその地
図は命を託す航海の安全のために重要だったわけだ。その役目は今でも変わって
ないが、今以上に大きな意味を持っていたと思う。

最近見た中では、イエズス会の宣教師マテオリッチが作成した地図が面白かった。
http://www2.library.tohoku.ac.jp/kano/ezu/kon/kon.html

東北大学が所蔵する坤輿萬國全圖という世界地図である。さすがに詳しい。日本
列島の大体の形は大雑把でしかないが、これでも当時の情報を出来るだけ取り込
んでいるのだろう。この地図では九州付近を拡大すると、奇妙な光景が浮かび上
がる。五島列島の位置が奇妙でかつ大きいのである。済州島よりも大きく、東シ
ナ海の中央に日本と中国の仲立ちをするかのように描かれている。

これはどうしたことなのか。1543年明の船が種子島に漂着して鉄砲が伝来した。
日本史を大きく変えた事件だが、この船の目的地は五島列島だったという説が有
力である。ポルトガル人は船主ではなくて、あくまでも乗り合わせていた商人で、
日本側が通訳と思った王直こそが船主。彼は福江・平戸を根拠に活躍した後期倭
寇の中心人物だからありえないわけではない。そうしたことが案外当時の中国人
から見た日本地図に反映しているのかもしれない。

古地図でなくても、見知らぬ土地の地図を見ていろいろと想いを馳せるのは楽し
い。私は自宅とか仕事場には、何枚かの大きな地図を貼ってる。まあ普通の世界
地図と日本地図もあるが、どういうわけかアメリカのインディアナ州の大きな地
図とイタリア半島の地図もある。イタリアのはナショナル・ジオグラフィックの
英語版の付録だった地図ですが、この雑誌の付録は装飾としてもなかなか気に入
っていた。

今はまだファンタジーみたいな月面地図とか火星地図の地名がそのうち私たちに
も親しくなる日は近いのだろうか?壮大な惑星図とか銀河系図が今の世界地図の
ような感覚になる日が来たら・・・・。今の私には想像するだけで、多分経験で
きないのが少し寂しい感じがするが、気分が大きくなることだけは間違いない。




2004.3.1



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