女主人(1951)


女主人

*Hostess (1951)

宇宙に人間と同じ知的生命体が存在したとき、その出会いはどんなものになる のか。全宇宙で、知的生命体の存在が5つだけ分かっているという時代の物語 です。当然惑星間旅行、他の太陽系への旅行も実現している未来の話です。

Rose Smolletは35才の生物学者。結婚してまだ1年にしかならない。夫は、警 察官。周囲のものは彼女がDrakeと結婚するといったときも驚いたが、相手が 生物学者でもなく、関連分野の研究者でもなく、大学の学部以上の教育を受け ていない警察官だと聞いてなおさら驚いていた。お互い仕事の話しは家庭では あまりしなかったけれど、それなりに幸せな1年だった。

しかしRoseがHawkins星から地球を訪問する医師を、自分の家に滞在させるこ とになるところから、彼らの運命は変わる。私は最初の何ページかを読んだ限 りでは、お互いの誤解などを描いた作品かなと漠然と思っていたが、読み進む うちにミステリー+スリラ−を読んでいるような感じになってきた。

ホーキン人Hawkinsiteは、青酸カリを吸わなくては生きていけないし、6本足 だし(2本は人間の胸から出ているから手ということになるのでしょうが)、そ の生理学的・心理学的側面はほとんど地球人には分かっていない。そのために もRoseにとって自分の勤務するJenkins Institute for the Natural Sciences から、その申し出を受けたとき承諾したのだが、夫のDrakeにとってはあまり 面白くない。

とにかくHarg Tholanを迎え入れた夕方、Smollet夫妻と彼はいろんな話題を話 すわけです。この中で現在知的生命体と確認されている5つの中で人類だけが 特に変わった性質を持っていることが強調される。例えば結婚というのは人類 特有なものだし、社会制度が非常に異なるのは分かる。ホーキン人の間では厳 然たるカースト制度が支配し、違うカースト間の交友には制限があるらしい。 カースト=職業と考えていもいいでしょうが、地球にも過去や現在にいろいろ な社会制度があるから、社会制度は違うようでいてあまり考えも及ばないよう な社会制度というのは、SF作品といえども案外出てきません。

生命が蛋白質の土台に築かれているのはどうやら共通なようだが、体の構造や ら器官はいろんな作者によって、いろいろ書かれています。人類の呼吸器系統 は鉄か時としては銅を含んでいる酵素によって支配されている。だから青酸カ リとこれらの金属が化合したら、呼吸器系は酸素を使用できなくなり数分で死 んでしまう。逆にホーキン人は、生命に必要ないくつかの器官で少量の青酸カ リを必要としているから、ときどきそれを吸入しないと死んでしまう。SFで酸 素は地球外生命体にとっては有害だというのは、結構読みます。しかし dyanideは青酸カリと訳しましたが、これは気体にもなれるのだったかな。こ のへんは化学の専門家、Asimovの言葉を信じることにします。

そして地球と呼ばれるthis queer planetを研究するためにHarg Tholanは地球 を訪ねたのだという。例えばInhibition Deathというものは、地球にだけはな い。反応停止死とでもいうのでしょうか、どうやら人類以外の知的生命体には 大人になって肉体的成長が止まるということはないらしい。彼らには死という ことも、本来はないようです。ところが一部の人に突然成長が止まるという現 象が起きる。これがInhibition Deathで、地球のがんと同じように、これにか かった人は1年以内に死んでしまうらしい。現在ならAUDSとかさまざまな奇病 が発生していますが、この作品が書かれた時代にはがんこそ人類にとって最大 の難病だったのでしょう。

だから彼らにとっては大問題であるわけです。そしてHarg Tholanは、その方 面の研究者で、この病気の原因を探るために地球に来たらしい。どうやら地球 との接触が多くなってから、この病気が増えていること、しかもホーキン星は 他の4つの知的生命体の住む惑星の中で一番地球に近く、しかもInhibition Deathの発生率は地球から遠ざかるにつれて低くなるらしい。だからHarg Tholanは、地球こそこの病気の原因ではないかという仮説をたてて、個人的に 地球を訪れたようなのだ。

そしてSmolett夫妻の家を選んだのも偶然ではないらしく、また夫のDrakeも突 然湖のホーキン人に興味を持ち始めているらしい。いったいHarg Tholanの真 の目的は何で、またDrakeは何を知っているのか。もしこのInhibition Death が地球に原因がありとするならば、史上最初の惑星間戦争の可能性も無いとは いえない。Drakeの仕事の内容について、それまで考えてみたこともなかった Roseにとって、すべてが謎でミステリーじみてくる。そもそもDrakeは何故自 分と結婚したのか。Roseは、こうした考えが20世紀のスパイ小説やcostume dramaじみて、ばかばかしいと考える場面があります。costume dramaは時代劇 のことのようです。20世紀が特に話題になっているところを見れば、この物語 の舞台はあまり遠くない未来でしょう。

それにHarg Tholanの謎の行動もある。彼はDrakeに警察の行方不明者の部署を 見学したいと言った。そして彼がRoseにYou are a more charming hostess.と 言ったときの、それを聞いていたDrakeの恐怖に満ちた表情。これがタイトル のHostessにも関わるわけですが、地球人同士ならちょっとしたお世辞にしか すぎない言葉の裏にはどんな意味が隠され、そしてDrakeはその中にどのよう なニュアンスを感じたのか。

地球では行方不明者になるのは男が多いこと、しかも結婚後1年以内の男に多 いのはどうしてか、あるいは何故男が女よりも平均寿命が数年短いのか。

Drakeはホーキン人の来訪の真の目的が、やはり彼が病気の原因が地球にある と考えていること、彼の惑星でそれに気づいているのはまだ彼1人しかいない らしいこと、このことが知れると地球とホーキン星の戦争に発達する可能性が あること、そうしたことを考えてDrakeは彼を殺してしまう。そしてDrakeも結 婚1年以内の夫によくあるように、彼女の元を去っていく。

She had finally learned why Drake had married her.物語の最後の言葉です が、これはどういうことなのか。おそらくDrakeも、治安関係の重要人物で、 Inhibition Deathが果たして地球のものなのかどうか気にかけていた。それの 原因を探るべく、成長とかガンの専門家であるRosaと結婚したのだ、というこ とを分かったととりましたが、正直言うと少し自信がない。

なお死に直面したホーキン人が語る言葉によれば、宇宙の中に6番目の知的生 命体が存在する、それはどうやら人間にとりついたparacite寄生者だと言うこ とのようです。有史以来人類はそれを当然のことと考えているから、この存在 を疑っても見ない。現在では共生的存在になっているらしい。どうやら目には 見えないらしいこの寄生者は、人間に寄生して惑星間を旅行し、この病気を増 やしたということらしい。わかりにくいし、まとめにくいからこれ以上書きま せんがなかなか面白い考えだと思います。なおhostessは、このparaciteを養 うものとしてのhostessという二重の意味で使用されていたから、Drakeの顔色 が変わったわけです。

しかしAsimovもこんな作品を書いていたのだなと、つくづく感心しました。

1998-7-9




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