サリー


*Sally (1953)

前書きで、Asimovはこの作品は自動車に対する彼の感情を表している、と書いています。ペーパーバックのNightfall 2にもこの作品は収められています。

登場人物の私はJakob Folkers。Samson Harridgeが創設したFarm for Retired Automobilesで51台の引退した車の管理をしている。といってもこの車は、現代風のmanual car、つまり人間が運転する車ではない。positronic brainを持った車だと書いています。行き先さえ告げれば、道のりなどを選んで目的地まで無事に運んでくれる。判断力もすばやい。こうした車が出来たおかげで交通事故もなくなった。ただこの車値段が普通の車より10倍から100倍も高く、普通の人はなかなか所有できない。普通はomni-bus-automaticsを利用する。バス会社に電話すれば、すぐに迎えに来てくれるわけです。

私ことJakobも、かつてはSamson Harridgeのおかかえ運転手だった。このpositronic carをHarridgeが購入したときは、失業することを覚悟したが幸いそうはならなかった。そして彼の遺言通り、引退した車の世話をしているわけです。といっても車は自分で洗車したり他のことが出来るから、あまり手間はかからない。いわばそれぞれの車は牛を放牧するようにしておけばいい。Farmという名前の由来でしょうか。長年の勤務を経て車は今優雅な引退生活を送っていると言うわけです。

ところがこのFarmがなんら盗難対策を採っていないことに目をつけたGellhornが、盗みに入った。彼は数日前Jakobに取引を申し出ていたのですが、Farmの車たちは売り物ではないといって断られていた。Gellhornが特に欲しいのがモーター部分。これに他の安い車の車体をつけて売り出せばぼろ儲けできるということで、今度は3人の男を連れて押し入ったわけです。

ところがこの車たちは、普通のmanual carではない。思考・判断力を備えているし、どうやら感情も持っている。もともとこのFarmが盗難防止策を採っていないのは、それぞれの車が盗難に対して自衛が出来ているから。事実Gellhornが雇った3人組は大勢の車から追いかけられる。しかも生かさず殺さず式に、どこまでも追いかけるから始末が悪い。GellhornはJakobを無理矢理自分が乗ってきたpositronic busに引き込んで、Jakobが一番気に入っているSallyから必死に逃れようとする。Sallyは数日前にGellhornにひどい目にあったことを忘れてはいない。

Gellhornが載ってきたバスはいろんな部品をつぎはぎしたもの。車を愛しているJakobの目から見たら、そのモーターに対する取り扱いは野蛮そのもの、とても許せたものではない。バスとサリーの間にカーチェイス繰り広げられるのですが、Gellhornはmanual方式でバスを運転していたのですが、どうやら最悪の結果は免れて、Jakobはバスから放り出され、Gellhornをままバスは猛スピードで走り去ってしまう。

翌日JakobはGellhornがバスにひき殺されたことを知る。明らかに彼を乗せて走ったバスが彼をひき殺したのだ。それから注意していると、Farmを訪ねてくる人が乗ってきたpositronic carやbusの様子がどこかおかしい。Farmの車と何かを相談しているように見える。そういえばGellhornのバスも、最終的には持ち主を殺すという信じられないことをしでかした。If they begin to think the way Gellhorn's bus did ....

Jakobにはそれ以来心休まるときはない。一番お気に入りのSallyを見ても、以前のように挨拶をするどころかつい避けてしまう。

なにやらOrwellのAnimal Farmを思い出させる作品です。しかし人工知能が車に搭載されたら、車同士が団結すると言うこともあり得るかもしれません。ところでNightfall での説明によれば、Sallyに対する思い入れはAsimov自身の経験を書き込んでいるようですし、フロイト的分析も可能だとか。私にはよく分かりませんが、分析してみるのもなかなか面白いかもしれません。

1998-7-6




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