我が名前はSで始まる


*Spell My Name with an S (1958)

人間の運命は何で決まるのか。ほんの少しだけ、名前を変えただけでも、人の運命は変わるかもしれない。

Marashall Zebatinskyは、核物理学者。しかし最近はどうも仕事が面白くない。チームワークの仕事が苦手なようです。そこで妻の薦めもあって、現在の状況から抜け出るためにはどうしたらいいか、numerologist(数霊術者)のところに占いに入った。しかし核物理学者たる彼は、占いなどに頼るのが恥ずかしかった〜か、変装して行くわけです。numerologistは、生年月日や名前などの総字数で占いをする人のこと。しかしこの占い師はなかなか博識で、自分は数学者だといい、運命における確率論などを展開する。Zebatinskyは、占い師のことなどあまり信じていないのですが、とにかく彼の薦めに従って自分の名前をSebatinskyと変えてしまった。最初の一文字をZからS文字に変えただけです。Zebatinskyは、これで自分の運命が変わるとは思えなかったけれど、もともとこの名前を嫌いだったからということにして、法的にも、正式にSebatinskyに変えてしまった。

この話が書かれた時代は米ソの冷戦時代。この1人の核物理学者の名前変更がCIAの関係者の目を引いた。なぜ彼は名前を変えたのか。自分の出身を隠すために違いない。彼は3世代のアメリカ人らしいが、まだ親戚がポーランドかソ連にいるはずだ。それで調べてみると、ロシアのMikhail Andreyevich Zebatinskyという核物理学者が突然消えてしまっていることが分かった。これは何か裏があるに違いない、ということでいろいろ推測がなされます。CIAの調査力はなかなか素晴らしいのですが、その推理力というか想像力もなかなか面白い。実際にこんなことがあったかどうか分かりませんが、ソ連や中国の情勢分析に写真での序列とか、少しの情報から大きな結論を出すこともあったようですから、全く信憑性が無いとも思えない。この作品で一番面白いのはこの辺かもしれません。

とにかくソ連のZebatinskyは、ガンマ線の反射シールドを開発する秘密プロジェクトに関わっている、しかもアメリカのZebatinskyも親類筋からそうした情報を得て、それを隠すために名前を変えたという結論になった。しかしZebatinskyをいますぐ現在の研究チームから外すとソ連側が秘密研究の情報が漏れたかもしれないと疑うおそれがある。

それで彼にはプリンストンの物理学助教授の椅子が用意された。もちろん彼は大喜び。妻には名前を変更したことと、運命が切り開かれたことには関係がないと断言したけれど、翌日今度は変装もしないで、かつて数霊術師がいた場所に入ってみると、そこには誰もいなかった。

普通ならここで終わると思うのですが、最後にHaroundとMestackという2人の人物が話す場面になる。これが神であるなら、まあ有り触れているかなと思うのですが、はっきりは分からない。どうやらこの2人が賭をして、名前を変えるというClass F stimulus(つまりはつまらないこと)がClass A effect(大きな影響)をひきおこすかどうかを試したらしい。The Watchmanにそのことがばれるのを畏れているらしいのだが、やはり彼らは神と言うことになるのでしょうか。この最後の部分だけは少し不安になったので、日本訳を読みたくなりました。 (^^;

1998-7-6




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