10月31日(火)

初の党首討論――見事な小沢さんの仕掛け

一木通貫(奈良県明日香村在住)


 (1)2006年10月18日、国会で安倍首相と小沢民主党代表の最初の党首討論が憲法改正と北朝鮮問題をめぐって行われました。
 小沢さんが穏やかに、原理論争に終始したことを捉えて、小沢さんに分が悪い、とマスコミは一般に評価しているようです。
 しかし、私の評価は違います。この論戦は内容的には小沢さんの圧勝であり、論争テクニックとしては、囲碁で言えば布石、釣りで言えば仕掛けを施されたと思います。
 (2) 読売新聞のまとめによりますと、北朝鮮問題での討論の論旨は以下のとおりとなっています。
《安倍首相  周辺事態法は日米同盟の基盤に立っている。同時に国連決議に対し日本として何ができるかも検討する。日米同盟と国際社会の取り組みを切り分けることはしない。日本が法令の中でできる限りのことを行うのは当然だ
 小沢党首  周辺事態は日本の有事に関する法律であり、国連決議に基づく行動に周辺事態法を適用するのには無理がある。強制力を伴う国連の行動に参加するかどうか、政府として原則を作るべきだ》
 つまり、安倍さんは、今回の国連による北朝鮮制裁については、日米の集団的自衛権の行使方法を定めた周辺事態法しか適当な法令がないから、これを活用して対処すると言明され、これに対し、小沢さんは、そのような理解では「場当たりな、その場しのぎのやり方。国を大きく誤る」と警告されたわけです。
 (3)15年前の第一次湾岸戦争当時、初めて小沢さんの憲法観を知り、以来、私は当時の社会党主義者から「小沢主義者」に変わってしまって現在に至っています。
 憲法は、国連憲章に結実された人類の願いに基礎をおき、われらの安全を国連の安全保障理事会の、最終的には軍事を含む集団的安全保障措置に託することを定めていることは明らかです。
 この国連の安全保障措置を定める国連憲章はすべての加盟国が守らねばない規範ですから、その措置がとられた場合には、その前にやむを得ずとられた、各国の個別的自衛権および集団的自衛権はその行使をやめて、国連の措置に従わなければなりません。
 こうした集団的自衛権と国連安全保障理会の集団的安全保障措置の関係は、国連憲章第51条で疑問の余地なく定められています。この論争後、小沢さんは安倍首相の答弁につき「質問で言っていることが理解できないのか、わざとはぐらかしたのかどっちかだ」と痛烈に揶揄されておれますが、恐らくこの国連憲章第51条を念頭に置かれてのことだと思いますので、その全文を引用しておきます。
 〈国連憲章第51条[自衛権]
 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当たって加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基づく権利及び責任に対しては、いかなる影響を及ぼすものではない。〉
 (4)このように、集団的自衛権は、あくまで国連安全保障理事会の安全保障措置がとられない場合に、補充的に認められる各国の権利ですから、今回の北朝鮮問題のように、日米の集団的自衛権が発動される前に、初めから国連安全保障理事会が動いた場合には、集団的自衛権が発動される余地はまったくありません。それにもかかわらず北朝鮮制裁のための日米の貨物検査のように当然に実力が行使される場合に、これは日米の集団的自衛権の行使で、正当な権利の行使です、と安倍首相が国連に説明すれば、世界から「国連の集団的安全保障措置の決定を忠実に執行いたしましたと言えばよい。
 それをわざわざ日米の集団的自衛権の行使をしました、と報告するとはなにごとだ。国際法、国連憲章をまともに読めない大田舎者め」と嘲笑されるだけで終わるならともかく、国連安全保障理事会の適切な安全保障措置が既にとられており、その場合には禁止されている集団的自衛権を敢えて行使したと主張することは国連憲章違反を自白することになりますから、もしも世界がこのことを深刻に受け止めたら(国連思想が、最も危惧することの一つは、各国の自衛権の野放図な行使ですから、日本のような常任理事国に立候補するような大国の国連憲章違反を放置することは国連の崩壊につながる、ここは一罰百戒じゃ、とでも考えられたら)今度はわが国が国連による制裁の対象になりかねません。そうなると北朝鮮のような制裁耐性のないわが国のことですから、軽い経済制裁でアウトになってしまうことでしょう。
 こう考えて小沢さんは、 安倍首相の発言を、「国を大きく誤る」と警告されたと思います。小沢さんは、大袈裟なことを述べられたわけではないのです。
 (5)北朝鮮問題を含めて、国連の安全保障措置に正面から取り組むこと。
 そのためには(a)集団的自衛権と国連の集団的安全保障の根本的相違を明らかにし、(b)国連の集団的安全保障に含まれる軍事的措置を、国連の国際警察措置と捉えて実力(武力)行使アレルギーを払拭すること(c)憲法前文と国連憲章の同一性、憲法前文と第九条の一体的理解から憲法の安全保障思想の先進性と時代適合性を捉えること=憲法解釈の再点検=軽薄な改正議論の排除等党首討論に込められた小沢さんの原理論の奥は深く、真の救国 改革思想を見る思いでした。また、この党首討論での安倍首相発言が、将来、同首相の命取りになるような気がしてなりません。
 北朝鮮問題では自民党から日本核武装議論 が出るくらいの国民的舞い上がりの時。これに和せず、動じず、穏やかに国家原理論を展開された小沢さん、ただの思想家ではなく、抜きんでた実践政治家でもあられるので、「これはご趣味の釣りでいう仕掛けをされたな」、と政局的には先行きの展開を楽しみに感じた次第です。
 (6)それにしても、小沢さんの質問内容への賛否はともかく、小沢さんの質問の意図を正確に国民に伝えるマスコミ論調は果たしてあったのでしょうか? 有識者の感想を含めて、あまりに皮相すぎる報道にしかお目に掛からなかったのは残念なことでした。マスコミも安倍首相と同じく「質問で言っていることが理解できないのか、わざとはぐらかしたのかどっちか」だったのでしょうか?