2008.2.25

高橋清隆(神奈川県在住)
チャップリン劇のような不祥事報道


 喜劇王チャップリンの映画に、ガラス修理の親子の物語がある。子供が石を投げて民家や商店のガラスを割り、ほどなくガラス工の父親が通りかかる。「これはひどいねえ」と修理を始め、代金をもらう。年がら年中伝えられる企業不祥事のニュースは、この喜劇を連想させる。
 流通大手だったダイエーはバブル崩壊後に業績が悪化すると、中内功会長のワンマンさがたたかれた。マスコミは代わった鳥羽董(ただす)社長のインサイダー取引疑惑やダイエー球団のスパイ疑惑なども宣伝。福岡ドームとホテルは米コロニーキャピタル社に、球団のホークスはソフトバンクに渡る。会社本体は産業再生機構の管理の下、丸紅とアドバンテッジ・パートナーズ引き渡され、アドバンテッジの推す林文子氏がCEOに就任した。
 財務内容の悪化は、政府がバブル崩壊後に緊縮財政で資金の流れを止め、日米の株価差が1:15に開いたところで外資参入を認める規制緩和を行った結果である。しかし、マスコミはこれらが米国の要求であったことも報じない
 カネボウは昭和初期までわが国最大の売上高を誇ったが、2001年に時価評価と連結決算を原則とする国際会計基準が導入されると苦況に立たせる。マスコミが粉飾決算を大々的に報じたため、産業再生機構の下でアドバンテッジ・パートナーズなど3ファンドからなる投資グループに引き渡された。
 四大証券の一角、日興コーディアルグループは、2006年末、前年度の有価証券報告書の虚偽記載が発覚。孫会社NPIホールディングスの株式を連結範囲に含めない「不正会計」があったとして証券取引委員会に5億円の課徴金を求められ、管理ポストへ。マスコミがこれを宣伝すると米シティーグループが買いあさり、2007年10月にはわが国初の三角合併で完全子会社に。年明け、上場廃止になった。
 「日本の企業が悪いことをしたからではないか」という人がいるかもしれない。しかし、どんな環境下でも、企業が自己の存続を図ろうとするのは自然である。米国が収奪のために改革を強要した事実から目をそらし、国内企業の粉飾決算や報告書の虚偽記載を騒ぎ立てるのは偽善ではあるまいか。
 ライブドア事件の起訴要件は、架空売り上げ(偽計および風説の流布)と有価証券報告書の虚偽記載だった。堀江貴文社長を「時代の寵児(ちょうじ)」ともてはやしていたマスコミは一転、堀江氏を「虚業」「拝金主義者」とののしる。値下がりした同社株をフジテレビから引き受けたUSENの宇野康秀社長を温情ある青年実業家として一斉に祭り上げた。しかし、宇野氏は半年もたたないうちにこれらをモルガン・スタンレー証券関連会社に譲渡した。
 西武グループのドタバタも有価証券報告書の虚偽記載が発端だが、株主構成が違っただけである。2006年11月、西武鉄道が会見で事実を明かすと、その日の内に東京証券取引所は西武鉄道株を管理ポストに置き、マスコミはバッシングを始めた。東京地検が堤義明コクド前会長の逮捕に動き、西武グループは外資の餌食(えじき)に。12のリゾート施設は米シティーグループに売却され、西武グループの筆頭株主は米ファンド、サーベラスになった。
 三菱自動車は2000年7月、内部告発によりリコール隠しが発覚。マスコミがこれを大々的に報じたため、ダイムラー・クライスラーは投下金額を200億円以上節約して三菱自動車を傘下に収め、COOを含む4人の役員を送り込むことができた。三菱ふそうを分社化した翌2004年、2年前のトレーラーのタイヤ脱落による母子3人の死傷事故がニュースに登場し、ダイムラー社は支援打ち切りを発表。三菱自が保有する三菱ふそう株22%が520億円の廉価でダイムラー社に売却され、ふそうは日本の自動車メーカーとして初めて外資の完全な子会社になった。
 危険性を宣伝することで企業を外資に引き渡す手口は、航空市場でも行われている。日本航空は運行トラブルの宣伝が2年強続けられたが、負傷した乗客はいない。労使双方の内部対立も報じられたため、株価は低迷の一途をたどる。乗客離れも進み、増資の引受先を国内に見つけられなくなり、海外での資金調達を探った結果、筆頭株主は米ステートストリートバンクアンドトラストになった。しかもこの間、モルガン・スタンレー証券が大量の空売りをした形跡が大量保有報告書からうかがわれる。そもそも運行トラブルは、航空市場の自由化による過密運行によって増えた。運行トラブル報道で投資ファンドが権限を増せば、合理化でさらに安全が損なわれるのは明白である。
 2006年、パロマ製湯沸器の一酸化炭素中毒事故が大きく報道された。10年前東京都内で長男を亡くした遺族が警察に再捜査を要望すると、NHKがニュース番組で特集を組み、テレビ・新聞が一斉にパロマをバッシングし始めた。同年12月の東京地検による起訴までの間、パロマは国内生産を3割減らした。パロマは非上場のため乗っ取られることはなかったが、その陰でライバルのリンナイ、ノーリツが売り上げを伸ばした。リンナイは確認できるだけで株式の34.3%を外国人が保有。ノーリツの筆頭株主はスティールパートナーズ(17.87%)で、0.9%を保有するフルサ・オルタナティブ・ストラテジーズは昨年、配当を10倍強にするよう迫っている。
 不祥事報道の先には、外資系企業が利益を得るというお決まりの展開が待つ。相も変わらず流される自滅ニュースになすすべがないのは、チャップリン劇と違って笑えぬ悲劇ではあるまいか。