須能邦雄(石巻魚市場株式会社社長)
産地魚市場の立場から未来志向の提言
東北水研・水産海洋学会シンポジウム(平成19年5月25日、仙台にて)
はじめに
産地魚市場の役割
現状改善への提言
おわりに
「三陸沖における多獲性魚類の資源変動と流通加工の変化に対応して」
一般消費財(日用雑貨、食料品等)の流通形態が量販店主流になるにつれ、消費者のニーズとの美名のもと多くの消費財の取り扱いについて同一視しようとする傾向があり、その推進役である米国流のマーチャンダイジング(品揃え・価格・販売形態の決定等)を賞賛する声がある。これに対し敢えて食糧産業の一翼を担う産地魚市場の立場から苦言を呈し未来志向の解決策を提言する。
水産業・水産物のもつ特殊性
(1)操業が天候に左右されることから水産物の安定供給が難しく、また海洋環境の変化で来遊する魚群の時期・数量の地域的なバラツキが大きい。
農産物や畜産物は原料供給体制が管理されており、常時必要量の供給が可能であるが洋上作業は天候に影響を受け出漁できないことがある。また、来遊時期になっても魚群は安定的に来遊しないため、たとえ出漁しても安定供給は困難である。農作物や畜産物は一定条件下で飼育するため品質の均一化が図れるが、来遊する魚群は成長過程が各々個体別に異なるので捕獲した漁獲物は同一品質ではない。即ち水産物は農産物・畜産物に比べ安定した供給量・安定した品質・安定した時間・安定した価格の四定主義には馴染まないものだと強く認識することが肝要である。
なぜ、水産物が量販店の求める四定主義に飲み込まれてしまったかといえば対抗軸となるべき鮮魚小売商店が衰退し、主流のマーチャンダイジングに席巻されてしまったからである。
(2)水産物は農産物・畜産物に比べ品質の経時変化が激しくチルドでの賞味期間が非常に短く、また水産物は他の食品に比べ圧倒的に「生食」に高い価値観(刺身・すし)をもち、加工技術による付加価値づけが他の食品に比べ困難である。
かつて、魚は丸(ラウンド)で購入され自宅で調理し刺身や切り身にして焼き物・煮物として消費されてきた。生活様式の変化に伴い自宅での調理をしなくなり魚の特性を忘れ、刺身や調理済み食品を購入するようになり調理代金・包装代金・残さい処理代金を消費者が負担することとなり、魚の割高感が増してきた。
結果として多面的に利用できる魚としての長所が失われ、その分高い価格で購入することから魚離れ現象が生じた。
(3)水産業は漁業(漁獲・養殖・採捕)、加工業、流通業(保管・運送・販売)にわたる複雑多岐な複合産業である。また、関連業界として造船業、漁労・漁具機器メーカー、機関・電気部品メーカー、燃油・食料品供給業者、水産加工機器メーカー、添加物・包装資材供給業者等があり、すそ野が広い産業である。
さらに、主要な水産都市は原料供給(漁場形成)の関係から日本各地の沿岸部に成立し、その都市の主要産業であり、財政面・雇用面での依存度・貢献度が非常に高い。漁業現場は海洋環境の変化に敏感に反応するところであり、国土保全の面からも日本人の生命維持の面からも取り扱い金額以上に重要な位置を占めることを広く国民に認識してもらう必要がある。
(1)海の文化と陸の文化の融合場所である。
漁労中心の海の文化は単独行動を旨とするが、農耕作業が底流にある陸の文化は協働行動であり、労働の法制面でも大きな違いが存在する。文化面から生じたその大きな違いを調整するところが魚市場である。
また、安定供給が困難であり、かつ危険が伴っての漁獲物であるから「売ってやる」との態度に対し「買ってやる」との反応になりがちである。しかし、貴重な資源を双方がより価値あるものにするよう「買っていただく、売っていただく」との感謝の気持ちを構築する場でもある。
(2)地元市民が水産(業)を理解できる場所でもあり、かつ、水産関連業者への情報の受発信の場であり、関係者間の連帯意識を醸成することができる。
すなわち、魚市場は業界の中核的存在であり、水産業振興の旗振り役が期待されている。
まずすでに実践していること、およびその延長線上にあることについて言及する。
(1)サプライ・チェーン・マネジメント(ロジスティック)の考えに、水産物は本質的に馴染まない。
無駄を排除する手法として参考にすべきことはあるが、水産物の特殊性を市民に周知徹底することが重要である。
(2)魚価低迷の原因は食の軽視にある。
食の重要性を認識させるために国民的な食育運動を展開すべきであり、その推進役の一員になること。
具体的には地元食材の活用のために、学校などの食育の場に食材を無償または原価で提供するとともに必要なら出前授業を行うこと。
(3)水産資源に依存している加工・流通業者の立場を考慮して漁業管理計画(安定供給策)の検討に積極的に参加すること。
海も魚も漁業者のみのものではない。魚に依存している人々が背後に多数おり、漁業者と対面しているのが魚市場である。共通財産を最大限に活用するよう努めること。
(4)地方は産業のバランスが重要であり、業界の基盤の強化に配慮すること。
水産都市の発展には関連するすべての産業がバランス良く発展することが重要であり、光と影の部分の調和がとれるよう配慮すべきである。
また、産業が集積するためには加工団地内のインフラ経費の軽減とその整備の推進役としての役割を担うべきである。
社会は一次産業、二次産業、三次産業と発展し、現在はITや金融が経済社会の牽引役となっている。しかし、地球の温暖化に伴い異常気候から地球規模での水資源・食糧資源の不足が顕在化し、近い将来危機的状況がさらに深刻化し、必ず現在のあり方を反省し環境に配慮した生き方に転換する時がくる。
戦後、技術革新による漁場拡大により遠洋漁業は発展したが、その後、外国200海里宣言による漁場締め出しにより撤退を余儀なくされた。一方、沿岸漁業は沿海部の工業地帯化による海洋汚染や埋め立てによる漁場の縮減が生じたが、その後の開発規制により漁場の回復が図られた。
このように経済的合理性の追求と地域社会の持続的発展の調和を図ることをわれわれ水産業界は経験してきた。すなわち、われわれ水産業関係者が新しい時代の先頭に立ち調和のとれた発展に寄与せねばならない。その日の実現のため、またその時にリーダーとして相応しい品格をもてるよういまから心して、誇りをもって業務に邁進しよう。