ジョーゼフ・スティグリッツ教授の最新著『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』(徳間書店)が指摘する「小泉の過ち」
稲村公望(中央大学客員教授、元日本郵政公社理事)
アメリカの中間選挙における民主党の勝利、ブッシュ政権の歴史的な敗北があり、また、つい先日、新古典派経済学のミルトン・フリードマンの逝去のニュースなどが伝えられている。市場原理主義の流れは、着実に変わりつつある。
そうした情勢の中で、グローバリズムの欠陥を厳しく追及するノーベル賞経済学者、ジョーゼフ・スティグリッツ教授の最新著『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』の邦訳が徳間書店から発刊され、書店の店頭に並び始めた。
以下、本書について紹介をする。
「日本の読者へ」と題した、「グローバル化と日米の歩むべき道」という序文は、秀逸である。日本で現出した格差社会に対しては、「格差が国民の結束を蝕み、ひいては社会的な対立を誘発する」、だから、「現実社会では進行する不公正なグローバル化をわれわれは阻止しなければならない」と。
ブッシュ・小泉の犯した過ちという小節を設けて、「日本は、ブッシュが推進している、実はほとんどのアメリカ国民が支持しない政策に手を貸している」と指摘して、イラク戦争についても、大量破壊兵器はみつからず、国連での議論も無視したが、「これは、国際法違反であり、そんなアメリカを支持した日本も同じ過ちを犯した」と述べている。
イギリス国民の多くはアメリカの行為を国際法違反と断じて、ブレア政権は弱体化せざるを得なくなり、スペインやイタリアでも戦争反対勢力が勝利を収めた。イラク戦争のコストについても杜撰で、スティグリッツ教授は、どんなに低く見積もっても1兆ドルから2兆ドルという結果を発表したが、米政府からは何の反応もなかったと述べている。
小泉首相の「郵政民営化」については、それ自体が日本経済に根本的な変化をもたらすものではなく、うがった見方であるが、郵政民営化問題に膨大なエネルギーを費やしてきたこと自体が、真の経済問題を放置している証拠だと断じている。政府は、民間部門ができない行政サービスを提供するなど、実践面を大事にしていくべきで、例えばアメリカの年金制度を民営化しても効率的ではなく、高齢者に対する社会保障が手薄になり、社会不安を増すことになると結論づけている。
日本でゼロ金利政策にピリオドを打つことについても、あまり早い時期に金利を上げるのは危険だとして、97年の消費税アップ、景気の減速の失敗を具体的に示して過去の失敗の教訓を学ぶべきであり、むしろ日本の問題は、デフレであると指摘している。ゼロ金利政策を捨てることで、回復基調に水をさしてしまうリスクを日本銀行は肝に銘じるべきだと述べている。
本書の帯には、「自由化と民営化を旗印にしたグローバル化は、すべての国、すべての人に未曾有の恩恵をもたらすはずだった。ところが、今訪れたのは、一握りの富める者のみがますます富んでいく世界規模の格差社会だった。一体それはなぜなのか?」「アメリカのエゴに歪められたグローバル化のからくりを暴き、全ての人に利益をもたらす新システムを提言する!」とある。
本書の末尾は、「我々は、長すぎる雌伏の時を過ごしてきた。今こそ、[悪魔との契約のようなグローバル化、伝統的な生活様式や基本的価値観を存亡の危機に立たせるようなグローバル化、わずかな利益と引き換えに莫大なコストの押し付け、を克服するために]始める時なのだ」と締めくくっている。
この国でも、ようやく絶望が去って、例えば、郵政民営化などという、理念と根拠を欠く改悪を見直す時期が始まった。一部の政治家や、経済人や、官僚、御用学者の横暴を、告発して、公正な社会・経済・政治を取り戻す動きが説得力をもって始まったように思う。
アメリカの政治変動に呼応してこの国でも、社会経済政策の変化をめざすことこそが、世界の安定のためにもなるし、もちろん日本の国益にもなることが、スティグリッツ教授の最新著で、明らかになった。