2001.12.20
円安論争
米高官の発言
最近、円安が政治論議になっている。始まりは米高官の発言。
フィナンシャルタイムズ11月22日が「日銀がデフレとの戦いで新しい武器を探す」
という記事を掲載。
「日本経済が苦しいため、今、米国が円安反対を取り下げつつあるようだ。日銀の
海外債券購買を好意的に見るというシグナルを送ることで、米高官は、日本のデフレ
を終わらせることがグローバル経済にとって重要であることを示した」
「数年、米政府は公式に、円安で国内問題を解決する日本の試みに反対してきた。
クリントン政権高官は『不況を輸出すること』は長期的に日本、また、グローバル経
済にとってよくないと言ってきた。更に、政治的に影響力が強い米製造業の失業が増
えるため、円安は正当化できなかった」
「日本の経済問題があまりにも大きいため、米はもはや、一義的に日本の輸出やア
ジアにデフレを輸出することを心配する、ということではないようだ。代わりに、日
本政府がデフレを終わらせることができなかった場合の、グローバル経済に与える危
険性を心配。ドル債券購買と円安が経済にインフレを導くために日銀に残された唯一
の道」
交錯する情報
フィナンシャルタイムズ11月23日「円を安くする」もこれを扱う。
「表面上、異例な時に重大な転換が起った。米国が自分の不況と戦い、米製造業が
大恐慌以来最長の収縮に直面している時、ある米高官が米は円安を容認すると述べ
た」
「円安政策に道を開いたことは、日本経済に対する米政府の警戒の大きさを示
す。……もし日本がデフレスパイラルから逃れられなければ、世界中の回復を脅かす
だろう」
「日銀が米財務省証券を買うことで円安を誘導しようとする時、米政府は干渉しな
い、ということが仄めかされている。……確かに、ドル高で米製造業は苦しくなる
が、日本の米財務省証券購買による長期金利の削減がこれを相殺する」
「にもかかわらず、このコメントにはいくつか問題がある。昨日、日本政府から出
てきたものは、これが本当に米政府の意見を代表しているのか、というもの」
「もし今週のコメントが米政権の考えの転換を示すなら、米が『円安は経済改革を
伴わなければならない』という主張を取り下げたのかという疑問が残る。米の円安容
認は過去いつも『日本は経済の多くの構造的欠陥と取り組むべきだ』という条件を
伴っていた」
「既に、[日本政府内に]非公式の円安志向がある。『我々は今以上の円高を望ま
ない』とあるトップ財務官僚が言う。『おそらく、もし円安が経済のファンダメンタ
ルズを反映するなら、我々はそれを止めないだろう』」
「たとえ日本が円安がよい政策だと受け入れるとしても、どこまでなら認められる
かという問題がある。ほとんどのエコノミストは、日本ほどの規模の経済において円
安が物価レベルに本当のインパクトを与えられるためには、円は大規模に下がらねば
ならない――今の1ドル123円から150か170円――と考える。これは貿易が日本経済に
おいて比較的小さい割合しかないから――およそ米と同じの20%」
「日本政府はまた、急激な円安で、おそらく中国を含むアジア中の競争的切り下げ
が始まる、と怖れる。これでアジアの脆弱な経済が壊れ、日本に酷い反作用が来るだ
ろう」
日本側の反応
日本の反応は――。フィナンシャルタイムズ11月27日「日本は円安を受け入れる
が、介入はしない」は言う。
「日本は最近の円安を歓迎しているが、円安誘導のための市場介入の意図はない、
と財務高官が昨日語った。『円は高すぎたと思うし、最近数日の動きは悪くない』と
その高官は言う。氏は、経済のファンダメンタルズを反映して、円安が更に進行する
だろうが、『どの程度かを言うことは難しい』と述べた」
「が、氏は、日本は『円安と国内のインフレ促進のため、米財務省証券を買うべき
だ』という米国の示唆を受け入れないと言う。『私が知る限り、米の為替政策に変化
はない。』日本がデフレを海外に輸出するために為替相場を操作することは間違って
いるだろうとその高官は言う。『通貨を安くすることは関税を上げるようなもの。こ
れが1930年代に起こったこと。国際共同体はこれを受け入れない』」
「エコノミストが日本のデフレを止めるために必要とするレベル――1ドル160〜
170円――にまで無理に円を安くする意志はない。が、それが市場主導であり、経済
のファンダメンタルズを反映しているなら、政府は円安を歓迎する」
円安の経済理論
エコノミスト12月1日「円安を放置すべきか」はこれを理論的に扱う。
「この1週間、米政府がついに円安を容認する気になったとの兆候後、円安が始
まった。円安はいつも日銀によって除外されてきた。『死んだ植物にいくら水を注い
でも育たない』と速水優は数ヵ月前言った。機能不全の銀行システムが片づけられ、
産業がリストラされるまで、通貨政策が経済を再生することは不可能と氏は主張」
「円安のための外国為替介入は、円維持介入よりもかなり効果的。円維持介入で
は、日銀は準備金を使い果たす。円安の場合は、日銀はドル債券購買のために円を無
際限に増刷できる(理論上、これには公式に外国為替準備金を管理する財務省の同意
が必要)」
「プリンストンのラース・スヴェンソンは物価押し上げのための大きな円安を主
張。日本はまず消費者物価レベルターゲットを設定すべきだと提案。消費者物価は小
さなプラスのインフレが達成されるまで上がる。日本はこの時、円を急激に安くし、
物価がこのターゲットレベルに達するまで更に下げるために、外国為替市場に介入す
べきだ、と」
「物価レベルターゲットは他のエコノミストが提案するインフレターゲットとは違
う。もしある年インフレがターゲット以下であれば、これは翌年の政策では無視され
る。一方、もし物価がターゲットレベル以下に落ちれば、これは翌年以降、改善され
ねばならない。原理上、持続的なデフレ期待を破るために、より効果的な対策を採ら
ねばならない」
「成功するか。……もしインフレ期待が変わらず、消費者物価に直接インパクトの
ある政策しか成功しないなら、輸入が日本のGDPの10%以下に過ぎないため、大規模な
円安が必要。エコノミストはインフレを12%上げるために、円は現在の124円から
170〜180円になる必要があると予想」
「米国がこれほどの円安を容認するとは思えない。アジア諸国もそうだ。確かに大
袈裟ではあるものの、中国高官はくり返し、急激な円安への懸念を表明。日本の中国
からの輸入は急増しているが、中国と日本の輸出は実際は競合していない」
速水氏の使命
フィナンシャルタイムズ12月3日は「日本の難しい選択」という速水総裁へのイン
タビュー記事を掲載。
「速水優は口をすぼめ、反抗的にペンでグラフを刻む。それは日本のマネーベース
が年間10%も伸びていることを示す。が、論理に反抗し、経済は伸びず、物価は下が
る」
「『いくら我々が市場にカネを注いでも、経済活動の増大にはつながらない』と氏
はフィナンシャルタイムズとの会見で述べた。『だから、更に多くのカネを供給して
も、よくならない』」
「日本政府はこの下降に対処するのに、伝統的な手法を使い尽くしてしまった。金
利は既に事実上ゼロで、財政支出はGDP130%の負債で制限される。そして、小泉政権
はリストラを推進するが、これは短期的に成長を上げるというよりは、下げるだろ
う」
「数人の政治家は日銀に国債の買い切りなどで、市場に多くのカネを注ぐよう要
求。が、日銀は今までこの要求を拒絶。……通貨政策を巡る論争は深刻化。金融市場
は益々、76歳の速水氏は単なる通貨タカ派なのか、または、説得すれば言いなりにな
るのか訝る」
「氏はマクロ経済政策や学説よりも広い政治的・倫理的使命に駆り立てられる。同
世代人と同様、通貨政策への最初の関わりは、ハイパーインフレを通じてのもの。氏
が1947年に日銀に入った時、日銀が国債を肩代わりしたため、物価は止め処もなく上
がった」
「これは堅固な経済政策を意味しない。なぜなら、氏はプロのエコノミストではな
いから。氏は98年に総裁に任命。これは主に、日銀が汚職まみれで、『清潔な人物』
が必要だったから。数十年前、民間へ行くため日銀を去って以来、氏は『インサイ
ダー』であり、『アウトサイダー』でもあるスキャンダルのない理想的な候補と見ら
れてきた」
「が、詳細な経済理論に弱かろうと、氏は使命感から本能的に、ラディカルな通貨
政策に反対。『我々は(カネ注入のための)株、不動産などの資産購買に反対』」
「氏はまた、急激な円安も好まず、『アジア諸国に歓迎されないだろう』と言う。
『米高官が本当に海外債券(を我々が買うべきだ)と示唆した、と信じることは難し
い』」
「確かに、氏は、いかなる形でも市場にカネを注入することは助けになる、とは信
じていない。なぜなら、企業・消費者はカネを使うことを拒否しており、銀行は酷く
傷つき、成長を促進ではないから、と述べる。『金融機関が金融仲介業者としての機
能を失ったようだ。たとえ馬を川に連れていっても、その水を飲むとは限らない』」
「氏は、日本にはラディカルな企業リストラと銀行改革が必要、そして、自分には
それを推進する使命があると確信。確かに、使命感はあまりにも強く、数人の同僚は
宗教的信念を反映していると見る。日本の高齢者には珍しく、氏は熱心なキリスト教
徒」
「『日本は十年間寝ていたようだが、私は構造改革で日本が目を覚ますと信じる。
日本は20年前サッチャーが英国でやったことを行う必要がある』」
「が、速水氏の改革への情熱は、緊縮志向でもある。理論上、ほとんどのエコノミ
スト――と政治家――が、リストラの痛みを超金融緩和で相殺することが賢明だと考
える。が、氏は、もし性急に緩和すれば、改革圧力を取り除くと怖れる」
「少なくとも、当座は、米国や他の先進国が何を考えよとう、氏が自分に課した使
命を捨てるという兆候はない。『我々は最善を尽くしている』と肩を怒らせて言う。
『外部は性急な批判をすべきではない』」
デフレは通貨現象
フィナンシャルタイムズ12 月7日「日本は通貨政策を緩める必要がある」は米財務
副長官の来日を紹介。
「日本は金融緩和などの政策を使って取り組まねばならない深刻なデフレ問題に直
面している、とケネス・ダム米財務副長官が昨日警告。氏は東京で述べた。『日本で
デフレ問題が大きくなっている。手がつけられないわけではなく、何かをする時間は
ある』」
「日銀は消極的。それはある部分、速水氏など数人の幹部が日本のデフレは安い輸
入品の流入を反映――通貨政策だけでは解決できない――と主張するため。が、ダム
氏は昨日、物価下落は輸入やリストラに因るという議論を疑問視。『デフレは通貨政
策で対処されるべき通貨現象。[米]財務省エコノミストは、マネーサプライの拡大
が必要と考える』」
フィナンシャルタイムズ12月10日「日本が負債『破局』を警告される」は続けて。
「米国は、日本の優先課題は小泉政権が求める財政削減ではなく、不良債権問題と
デフレに取り組むことだと明言。……ダム、ハバート[米経済諮問会議長]両氏は、
日本の銀行が積極的に、大規模に不良債権を民間投資家に売り始めるべきだと示唆。
彼らは、いかなる短期的なデフレ危機も長期的なコンフィデンス押し上げで相殺でき
ると主張」
「両氏は日銀に金融緩和を求めた。彼らは速水氏の『物価下落は安い輸入への調整
で、国内政策では治せない』という議論を疑問視。……米側はまた、日本政府の膨れ
上がる負債レベルを下げることが優先課題だと明言」
「ハバート氏は、日本は支出対策ではなく、税政策に焦点を絞るべきだと示唆。
『補正予算は、支出に重点を置き過ぎているという点で失望させる。』氏は、最近の
米経済リサーチによると、日本の減税は支出対策より3倍の効果があると主張」
米政府の否定
フィナンシャルタイムズ12月13日「財務省が円安支持を否定」は米国内の見方を紹
介。
「財務省スポークスマンは『米政策担当者が円安支援に合意した』というウォール
ストリートの政策分析会社メドレー・グローバル・アドバイザーズのレポートを退け
た。『このレポートは財務省の立場を表していない』とそのスポークスマンは言う」
「財務省が否定しても、日本問題への米の態度に関する増大する混乱は明確になら
なかった。この問題はブッシュ政権で新しい緊急課題になっているが、ホワイトハウ
ス経済政策担当者は、経済再生のため日本はどうするべきか、について財務省高官と
対立」
「3週間前、米政府高官がフィナンシャルタイムズに『日銀は財務証券を買うべき
だ』という提案を支持すると語った。これで日銀の資産ベースが広がり、円安にな
り、回復見通しが上がるだろう。が、ケネス・ダム財務副長官は先週、米は日本に海
外債券購買を求めないと述べた」
円安の加速
フィナンシャルタイムズ12月18日「日本政府が政策転換した時、円が最安値にな
る」。
「昨日、1ドル128.03円になった時、黒田東彦財務官は、急激な円安を『心配して
いない』と述べた。『円はまだ、経済のファンダメンタルズに比べて過剰に高いレベ
ルからの修正過程にある。』ほとんどの市場関係者はこれを円売りの『青信号』と見
る」
「アナリストは、日本政府の政策転換は最近の憂鬱な経済データによって起こされ
ていると見る。円安運動は、財務省高官の円安を望む私的な発言によって、先週初め
に始まった。以来、様々な高官の公的な発言で円が下がった」
「が、日本当局は発言を慎重にしなければならなかった。明確な円安誘導は中国、
台湾、韓国などアジアの隣国を怒らせる。これらの国々は、これを日本が自分たちを
犠牲にして輸出を押し上げる試みと見る。先週、韓国の財務相が、もし円安を使って
不況を輸出しようとするなら、日本はアジアに『混乱』を起すだろうと警告」
「が、もし円安が政府の努力ではなく、市場の力で起るなら、日本は隣国の怒りを
引き起こすことなしに、円安の恩恵を受けることができる。黒田氏は昨日、円安は経
済のファンダメンタルズを反映していると指摘」