2003.1.10

イラク攻撃は間近か?


 

 閣内対立


   1月6日、クリスマス休暇で帰国中の各国の英国大使に、ジャック・ストロウ外相が演説し、イラク攻撃の可能性は「昨年末の60対40から 40対60に下がった」と述べた。一方、国防省が海軍を湾岸に派遣するとともに、1500人の予備役を招集した。
 この「40対60で攻撃の可能性が小さい」とのストロウ発言に対し、ジェフ・フーン国防相は1月7日昼のBBCラジオで「この時点で、この 種の発言をすることはあまり好ましくない」と述べた。
 フーン氏は、同日夜のBBCテレビでは少し後退して、「外相の発言は、今この瞬間の状況を判断したものであって、私の役割とは異なる。 国防省は、いかなる可能性にも対応できるように準備しなければならないし、特に、軍事的圧力を掛けることで、フセインに国連決議に従わ せることが重要」と発言。が、両省の意見が違うことは明らか。
 これはブレア政権内の対立と見ることもできるが、米ブッシュ政権の対立軸がそのまま持ち込まれている。外務省(国務省)は基本的に外 交によって物事を解決したい一方、国防省は断固として戦うという姿勢。英国国防省が米国国防省の意向を反映していることは明白。しか し、だからといって、すぐに攻撃が始まるかというと、そうでもない。

 三つのシナリオ


   1月8日フィナンシャル・タイムズで、ロンドン大学キングスカレッジのローレンス・フリードマン教授が書いたように、「国連に行った ことで、米国は不可避的にタイミングについてのコントロールを失った」。
 1月27日に、国連査察団の報告書が安保理に提出され、これが攻撃の引き金になり、2月中旬に実際の戦闘が始まるという見通しがある が、必ずしも、事がブッシュ政権、特にそのタカ派の思い通りにいくかどうかは難しい。
 確認すれば、常識的に、戦闘は数カ月続くと見るべきだろう。5月中旬から湾岸は夏に入り、これ以降砂漠の温度は急激に上がる。昨年 夏、オマーンの英軍の演習が示すように、本来欧州を想定してつくられている装備は砂漠では役に立たない。化学兵器対策の装備ではこの暑 さに耐えられず、戦車内は灼熱地獄で、銃は使い物にならず、ブーツは溶ける。すると、遅くとも、2月内に始めないと、今年前半の攻撃は 難しい。
 問題は、それまでに、攻撃に乗り出す「正当な理由」を見つけられるか、ということ。大きく三つの可能性が考えられる。
 (1)査察団が1月27日に明確な違反を報告すること。もちろん、各国は、これだけで米国が攻撃する正当な理由になる、とは認めないだろ うが、それでも、反対しにくい。この場合、当然、英国も参加する。
 しかし、今のところ、明確な違反、嘘は発見されていないし、査察団としても、違反がない以上、いくら疑念があっても、「もう少し時間 を与えるべき」という判断を下すだろう。すると、米国はこれを「正当な理由」とすることはできない。
 (2)昨年末に議論された、査察団へのイラクの抵抗。特に、国外に科学者を連れ出しての質問、という問題に関して、イラクが明確な拒否 の態度を示すことで、米国が攻撃に乗り出すというもの。
 理由は不明だが、現在、これに関する報道が完全に消えてしまった。昨年末の時点では、「イラク側は科学者の国外連れ出しを拒否するだ ろう」「イラクの科学者が立会人なしの質問を拒否した」などと報道されていたが、今はない。これが米国とイラクが衝突する大きな懸案で なくなった以上、これは「正当な理由」になりにくい。
 (3)再びブッシュ政権内でタカ派が主導権を握り、どんな理由であろうと、とりあえず攻撃に乗り出す。今のところ、攻撃する場合の可能 性としては、これが一番高い。

 米国の単独攻撃


   これが世界が一番怖れていること。英国はこれに参加するだろう。また、西洋各国は一応批判するものの、静観するだろう。だが、他の地 域からは猛反発が出るだろう。
 こうなった場合の最善のシナリオは、世界が反米になる前に戦争が終わり、時が過ぎて世界が忘れてしまう、というもの。最悪のシナリオ は戦闘が泥沼化して、原油価格の高騰をきっかけに世界経済が恐慌に陥り、米国政治が大混乱し、ブレア氏が退陣して、英国の政治経済がメ チャクチャになり、この場合に世界経済を担わなければならないユーロ圏が相変わらず内向きのまま、手をこまねいている、という状態。
 これはすべて実際の戦況次第。そして、これは大半の人が知らないイラクの国内情勢に依存する。楽観的な見通しは、イラク国内のフセイ ンの基盤は意外に弱い、という見方。だが、そうだとしても、戦争は水物で、人間に果ての施しようのない天候など、偶然の要因に左右され る。だから、楽観的なシナリオに依拠して、行動計画を決めるのは危険だ。 すると、外部のわれわれが取るべき態度は、最悪を想定しつ つ、それに備えること。ただ、米国の行動を変えることができる国はないし、第一、米国自体が「他国が自分たちのことをどう見ようとかま わない」という態度。すると、やはりわれわれとしては、戦争がスムーズに終わる最善シナリオに期待をかけつつ、大不況を覚悟するしかな い。
 ところで、戦争が起こらない、というのが最善シナリオのように見えるが、経済的観点から見ると、必ずしもそうではない。昨年12月23日 のフィナンシャル・タイムズで、同紙のコラムニスト、マーティン・ウォルフは、可能性を、(1)戦争がすぐに終わる、(2)中期で終わる、(3) 長引く、(4)戦争が起こらない、の四つに分けてそれぞれのインパクトを検討した後、「成功する戦争の方が、戦争がなかった場合よりも、 不確実性が小さくなる」と言い、「すぐに終わる、成功した戦争だと、短期的に世界経済にマイナスのインパクトはなく、その次の年の終わ りまでに経済活動が刺激される」と結論づける。
 要は、一見戦争がない方が良いよいに見えるが、このままの状態が秋まで続くなら、つまり、ブッシュ氏が「戦争はしない」と明言しない 限り、不確実性がジリジリと経済を蝕んでいく。