少し前のことだが、10月17日付け日本経済新聞(朝刊)9面の「ハバード米CEA委員長寄稿」を読んだときに頭に浮かんだ言葉が、上記
のシラーの言葉である。ハバード委員長だけでなく、米政府高官の露骨な内政干渉がつづいている。こんなことを許せば日本は主権国家では
なくなってしまう。日本はいま正念場を迎えたことを痛感している。米国化するのか、「日本」を維持できるのか――日本は最後の岐路に立
たされていると思う。
ハバード論文のタイトルは「日本の銀行改革、新たな希望」。CEAとは米大統領経済諮問委員会のこと。ハバート委員長はこう述べてい
る。
小泉・竹中路線が貫徹されれば、日本は経済主権を放棄し、日本の経済政策を全面的に米政府にゆだねることになる。小泉・竹中路線は
「米政府の、米政府による、米政府のための」日本の金融改革であり、小泉首相と竹中金融相はブッシュ政権の手先として、米国資本による
日本支配のために行動している――これが私の見方である。
不良債権増の主たる原因が不況にあることは誰が見ても明らかなことである。小泉・竹中路線は、このことを無視して、景気対策を講じな
いまま不良債権処理の加速化をはかろうとしている。これを米国政府が強く応援している。だが、この道は日本経済を破滅させる自殺的行為
であり、これだけは止めさせなければならない。小泉・竹中コンビがいま行おうとしているのは、本質的には政治権力による強引な革命であ
る。フランス革命時のロベスピエール、ナチスドイツのヒトラー、ソ連共産主義のスターリン、文化大革命を扇動した毛沢東――などと同じ
「創造なき冷酷な破壊のための破壊」と言ってよい。
「小泉純一郎首相の改造内閣は、不良債権処理の加速と銀行部門の不安緩和に向けて決定的な措置をとる可能性を示している。これらの措
置は日本経済を再び勢いづけるのに不可欠だ。……竹中平蔵氏の金融担当相指名は今回こそ日本が決定的な行動に踏み出してくれるという希
望を与える。竹中氏は銀行救済だけのために公的資金を費やさないことの重要性をわきまえている」。
ハバード委員長はブッシュ政権の経済政策の実力者である。この論文は日本に強い衝撃をもたらした。
日本国内はどうか。10月中旬、竹中金融相の暴走への批判が政界、官界、経済界で高まっていた。不況を克服する努力なしに乱暴な不良債
権処理を急げば、中小零細企業が次々と倒産し、失業者が激増するおそれが高い。国中で竹中批判が高まったのは当然のことだった。われわ
れ日本人には生きる権利がある。「竹中なんぞに生きる権利を奪われてたまるか」と考えるのは当たり前のことだ。
だが、米国政府が「小泉・竹中支持」を強く表明し、米国務省、米財務省、CEAが「竹中ガンバレ」の大合唱を展開する現実にぶつか
り、竹中批判の勢いは衰退しつつある。
この主たる原因は、日本政界内部にある「米国恐怖症」が刺激されたことにある。米国恐怖症――この意識はおそろしいほど強い。
1945年の第二次大戦における日本敗戦、1960年の日米安全保障条約の締結、1970年代初期に独自外交を展開した田中角栄首相への米政府の
仕打ち、1980年代初に平和外交にこだわった鈴木善幸内閣に対する米政界と親米派の巨頭・岸信介元首相らによる倒閣工作、1994年中国を重
視した細川護煕内閣に対する日米一体派の倒閣の策動……等々の経過を経て形成された日本政界内の極度の「米国恐怖症」が、政界の深部で
うずき始めている。永田町で「アメリカは怖い」という小さいが根強い声を私は何回か耳にした。米政府高官の竹中支持の発言を受けて、多
くの政治家、経済人が米国におびえて、竹中批判をトーンダウンさせ始めている。
日本は1945年の敗戦と米軍占領にともない国家主権を放棄させられた。その結果、軍事と外交については全面的に米政府にゆだねた。しか
し、日本の国内政治と経済活動における日本の主権は維持された。日本文化、日本的生き方も維持した。
いま小泉政権が行おうとしていることは、第一に、国内政治を米政府の言うがままにし、経済活動における主権を放棄し、日本経済を米大
資本に全面的にまかせてしまうということである。第二に、日本の長い歴史、文化、風土の中で培われてきた日本的慣行までも容赦なく破壊
し、米国的やり方を強引に導入することである。小泉構造改革とはこのための革命である。日本的生き方を破壊することが狙いである。
問題は、日本国内に日本が米国化することを喜んでいる「知識層」が多いことだ。日本を学ばず米国流をやたらに賛美する軽薄な「知識
人」が増えている。米政府に強力にバックアップされた小泉首相と竹中金融相を支持する空気が官界、マスコミ界、学界に意外なほど強いの
である。米国による日本「知識層」の「洗脳」が急速に進行している。
近年、「米国で学んだ者でなければ人にあらず」との空気が政界、官界、学界、経済界に強い。言論界においても、日本の歴史と文化、風
土、慣習を重視しその上に立って発言する論客は軽視される傾向がある。テレビ・新聞は日本のこれまでのあり方をほとんど知らないまま米
国を無批判に礼賛する者を重用するようになっている。10月27日(日)朝のフジテレビ番組「報道2001」でのこと。自民党の相沢英之衆議院
議員と保守党の野田毅党首が正論を述べているなか、キャスターはしばしば野田氏の発言をさえぎり、竹中路線を擁護する姿勢を露骨にとっ
た。テレビ報道番組のスタッフのなかには小泉応援団が少なくない。
10月27日の衆参統一補選で自公保連立与党は勝利し民主党は敗北した。この結果、小泉首相は小泉流構造改革に自信を深め、突進する構え
だ。2003年1月の通常国会冒頭に衆院を解散し小泉自公保連立体制を完成させようという動きも出てきた。
いま真剣に「日本のあり方」を考える秋(とき)である。さもなければ、日本はサイパン島のような「選挙権なき米国領土」になってし
まう。こんなことを許してはいけない。