2006.3.24
2006年森田実政治日誌[157]

亀井久興衆議院議員(国民新党幹事長)のすぐれた迫力ある国会質問演説に圧倒された竹中総務相(3月17日の衆議院総務委員会における「NHK予算審議」)。竹中総務相は、自らの恥ずべき権力の乱用を反省し、NHKへの政治的干渉をやめてNHKから手を引くべきである【その1】

「水鏡の人」(『世説〈ぜせつ〉新語』)

 「水鏡の人」とは「水と鏡が正しく物の姿を映すように、人々の模範となる公平高潔な人物」(『成語大辞典』)のことである。亀井久興衆議院議員(国民新党幹事長)は公平にして高潔なる人物である。


 3月17日衆議院総務委員会はNHKの平成18年度予算の審議を行った(この模様は3月17日夜から18日早朝にかけてNHK綜合テレビで放送された)。多くの議員が討論に参加し、審議は長時間に及んだ。自民党、公明党、民主党、共産党、社民党5党の10名を超える委員による質疑のあと、最後に登場したのが亀井久興議員だった。
 亀井議員以外の総務委員会のメンバーは若い議員が多かった。とくに自民党と民主党の若さが目立った。私はこの姿を見て“困ったことだ”と感じた。総務委員会は国会の委員会の中では重要な委員会に位置づけられる。重要法案も少なくない。各党はベテラン・中堅の実力派を総務委員会に送るべきであるにもかかわらず、自民党と民主党がチルドレン的政治家を多く配置したのは問題である。自民、民主両党は不真面目ではないか、と思う。反省すべきである。もしも、一部の国会通の間の噂(「竹中総務相がチルドレン政治家を希望したらしい」という)話が本当なら、ますます由々しきことである。

 亀井久興衆議院議員は国会議員歴25年(参議院議員2期のあと衆議院議員当選5回)のベテラン議員であり、国務大臣(国土庁長官)経験者である。10名を超える質問者の中の、ただ一人のベテラン議員だった。亀井議員は最後の登壇者であった。いつもは少数党代表の質問時間は短く、お座なりな質問も少なくない。このため議員の緊張感は希薄になりがちになる。少数党の悲哀である。だが、この日は違った。
 まず竹中総務相に落ち着きがない。動揺している感じが見える。緊張しているのだ。
 亀井議員は大紳士であり、発言はきわめて穏やかである。
 亀井議員は、まず、次のように発言した。
 《国民新党の亀井久興でございます。朝から長時間にわたる審議で、皆さんお疲れだと思いますが、最後の質問でございますので、もうしばらく御辛抱いただきたいと思います。》
 この発言で議場の空気は締まった。
 そして、竹中大臣に向かってこう言った。このとき、竹中大臣の顔は緊張でゆがんだように見えた。
 《まず、竹中大臣。小泉内閣が発足してまもなく五年でございますが、その間、一貫して中心におられて、大きな役割を担ってこられたと思います。小泉内閣そして竹中大臣もよく言われていることですが、官から民へとか、あるいは民間にできるものは民間にということをおっしゃられるわけでございます。私は、国民生活を支える上で必要な仕事というのは多種多様あると思いますけれども、民にできるものは民へ、そういう原理原則論だけではなかなか割り切れない、そういう分野がかなりあるだろうと思っております。官と民が力を合わせなくてはいけない分野もあると思います。
 そういう意味で考えますと、私は、公共放送であるNHKの存在そのものが原理原則でなかなか割り切れない、そういう存在ではないかとなというように思っております。申し上げるまでもありませんが、NHKというのはもともと社団法人日本放送協会という民間法人だったわけでございます。民間法人であったNHKが今日のような公共放送として、官でもなければ民でもない、その中間的な存在の、いわゆる公という立場に立った公共放送というものになっている。そのことについてそれなりの背景と理由があるわけでございますが、そのことについて、まず大臣の御見解を伺いたいと思います。》
 穏やかな言い方だが、竹中総務相が進めているNHK改革への痛烈なパンチである。竹中総務相の私的懇談会の中心メンバーは「NHK民営化」論者ばかりである。しかし、内閣の基本方針は「公共放送維持」である。この内閣の方針のもとで竹中総務相は「民営化的な要素をNHKの中により多く取り入れさせ、「公共放送」の中の「公共的なもの」を骨抜きにしようとしていることは明らかである。亀井議員の言い方は穏やかだが、竹中総務相の狙いを見抜いた上での鋭い問題提起である。

竹中総務相は答えた。  《官から民へという言い方を簡単にはいたしますが、正確には、民間でできることは民間で、そのことに尽きているんだと思います。ということは、民間でできないことがあるということです。ここら辺は、私も非常に強くそのように思っておりますし、亀井委員にも御理解を賜っていると思います。
 非常にわかりやすい例が、やはりこれはNHKなんだろうなというふうに思います。そういう意味で、通信・放送の改革の早い段階から、公共放送は必要である、そして今の二元体制は重要であるということを明確に申し上げてきたつもりでございます。
 とりわけ、日本において、世界にもいろいろな公共放送がございますが、やはりBBCとNHKというのが本当に世界に冠たる公共放送である、そういうものを持っている日本国民というのは非常にある意味で幸せであるというふうに思います。》

 亀井議員の勝利である。竹中総務相は、NHKは英国のBBCと同じ公共放送であることを、国会答弁という正式の場において認めたのである。
 だが、竹中氏はしぶとく次の言葉を付け加えた。
 《だからこそ、NHKにもっとよくなっていただきたいという思いで、いろいろな改革はしていかなければいけないと考えております。》

[竹中総務相の〈改革〉は、NHKについては「改悪」以外のなにものでもない、と私は思う。竹中総務相は、本当は何をしようとしているのか。結論から言うが、NHKを「日本国民の放送局」から「ブッシュ政権のための放送局」にしようとしているの、と私は判断している。竹中総務相はNHKへの政治的干渉をやめるべきである]