模型づくり

 大学院の頃、趣味、あるいは現実逃避となっていたのは模型づくりだった。小学生の頃にプラモデルを造って以来、ずっとブランクだったこの趣味がこの時に復活したのには、一つはF1のその年度の車種のキットが年内に入手できることを知ったためであり、もうひとつは、プラモデルのように買ってきたものを造るだけではだめなものがあることを知ったから。当時、梅田のキディランドにちょっと前にレースで走っていた車のキットや完成品があるのを見て驚いたのである。掌に載るようなサイズの模型。1/43というスケールがあることをこの時初めて知った。材質が金属だったり樹脂だったり、というのも新鮮だった。しばらく情報集めをして、基本的なつくり方を把握して、バイト途中にたちよれる専門店も発見。このあたりから、バイト代自体がキットや工具に消えて行くことになる。

 主に当時利用していたのはモデルガレージ・ROM。このころはまだ小さな店が一軒あるだけで、店内にはびっしりとキットと完成品が陳列してあり、はいるたびに目眩がしたものだ。主に手をだしていたキットは、TAMEOやMERIの新車と、F.D.S.の古いフェラーリ。特に、F.D.S.のキットは説明書自体が驚きだった。ディティールアップにつかえそうなものを探す、という楽しさもこのへんで覚えた。結局、そこそこパーツや説明がそろっているTAMEOなんかよりも、F.D.S.のキットの雰囲気にほれこんでしまって、70年代後半から82年くらいまでのフェラーリF1を集めて造るようになる(なにが目当てかはこれでわかってしまう)。青く細長い箱にはいったT3、T4やT5なんか、ほとんどパズルのようなものだったし、126CKやC2は、パーツ点数の数と説明のシンプルさ(笑)に、資料集めにかける時間が随分必要となった。このCK、原形がかのボシカであるということを知ったのはさらに随分たってから。

 1/43というのは、買い逃すといつ手に入るかわからない、というあたりが古本と似ている。また、ひとつひとつがいかにも手作りという感じで、パーツのだぶりや間違いなんかも日常茶飯事だった。F.D.S.では一度まったく違うデカールがはいってきたことがあって、この時はイタリアに英語で手紙を書いた。数週間後にはエアメイルで正しいデカールが二枚送られてきて、感激したものだ。

 結局、この当時の模型熱は大学院を中退して実家に戻った時点で、時間的な余裕がなくなって中断されることになる。最後につくりかけていたのはMERIプロバンスのフェラーリ642レジンキット。あと組むだけ、というあたりで中断し、この車が完成するまでにはこの後7年近く経過する必要になる。このほか、手付かずのストックキットがフォーミュラ43の643、F.D.S.の312T4と126C、HiFiの126Cであった。さらに、結婚してしばらくの間実家に置いておいたキットを、「ミニカーがあるから」と客の子供に与えるという親の暴挙によって、完成していたキットもほぼ廃車同様の状態で放置されることになった。

 再開は、今年、1998年である。昨年転居して、多少、環境的、経済的に余裕ができた。そして、ストレスや気苦労をおさめるのに、やはり模型づくりという時間が欲しくなってきたからだ。まずは、道具類の集めなおしと、実家から廃車達の回収。そして、未完成だった642を完成させるところから作業をはじめた。昔にくらべると、こちらも情報を更に集めているし、よい道具もそろえているので、当時のつくりの荒さが気になってしまうけれど、それは過去の亡霊を成仏させるようなもの。これを組み上げてからは、廃車の復活作業と、新規の製作とを並列につづけている。とりあえず、HiFiの126Cをつくりはじめつつ、これまでのところ、312B3、312T、312T3の三台をレストアした。126は作業途中、レストアは今、ボシカ原形だった126CKに突入している。

 さて、ひさしぶりに1/43にもどってきて最初におどろいたのは、F.D.S.がなくなっていたこと。これはショックだった。どういう経緯だったのか、知る由もないのだけれど、最近のTAMEOやMERIのキットをみてちょっと納得した。ほとんどフルディティールになってしまっている。パーツ構成も、精度も、説明書も別世界である。この波にのりおくれると辛いものがあるに違いない。事実、F.D.S.のだしていたフルディティールキットは、精度というか「かっちりさ」の点で、あいかわわらず暖かい手作りキットだったのだから。結局、手元に残っていたF.D.S.のキットはもったいなくて造れなくなってしまった。もうひとつ驚いたのは、TAMEOが古い車種のフルディティールを結構だしていること。40番のM23なんかにはびっくりした。1/43といっても、随分様相が違う。そして、インターネットのおかげで、昔はちょっと注文が面倒で手をださなかった海外通販が簡単になっていること。GPMなんかは、雑誌で紹介されても、ちょっと手をだしずらかったのだけれど、今はメイルやFAX一本でそこに注文できる。当分は、楽しめそうなほどの在庫があるし、注文に対する反応も丁寧で速い。

 道具も、エアブラシをまだ買っていないけれどそれ以外はなんとか。キャスト関係の小道具が進歩していて、いろいろと便利なのが楽しい。廃車状態の車では紛失パーツや破損パーツも少なくないのだけれど、ちょっとしたものならつくってしまえばいい。で、ストック状態のF.D.S.キットはパーツの型起こし用になった。フロントウィングくらいまでなら気軽に複製できる。よく使っているのは、熱でやわらかくなるゴムで型をとり、樹脂の粉を溶媒で溶かすプラリペアをその型に流し込む、という手法。

 最近は、またぞろ昔の癖で、なにを見ても模型づくりにつかえるかどうか、という判断がまず先にたつようになった。化粧品売り場なんかは「つかえそうなもの」だらけだし、スポーツ屋のスキーのエッジ手入れ用品コーナーで、単目のヤスリをみつけた時はうれしかった。

 昔お世話になったモデルガレージROMも、今では店舗も増えて大発展しているらしい。そういえば、スタンプを5000円分あつめたのに、使うタイミングをうしなって、そのまま有効期限がきれてしまっていたっけ。懐かしいので、そのうち大阪にいく機会があればまた寄ってみたいと思う。

 

 

1998.12.04