電子手帳Wiz

 ずっと、Newtonがほしかった。いや、ほしかったのは容易に携帯できて、自由にテキストを入力・編集できるパソコンだった。子供といっしょに上野にプラスティネーションを見にいって、二時間ほど並ぶと、えてしてそういう並んでいる時間に限って書き物のよいアイデアがうかんだりする。えいくそ、と、とりあえず紙切れにメモするのだが、あとからみなおしたり手を加えるのが面倒くさい。ひところ、「もばいるもばいる」と呪文のように叫びつつ町のそこここで閉鎖的な集団をつくる人種があらわれたころ、「そういう用途にはHP200LX」というささやきもあった。みてみたのだけれど、サイズはともかくとして第一にあのキーボードが気に入らない。テンキーなんかいらないからもっとキーをおしやすく、という問題ですらなく、大体これでどうやって立ったまま入力しろというのだ、という怒りまでこみあげてくる。電車の中で資料をみながらさっとメモを、なんていう用途にもこれでは不向きだ。あ、でもたしかに電車の中でHP200つかっている人ってどういうわけだかみんながみんなそろいもそろってNiftyのログを読んでいるから(笑)あれでいいのかもしれない。

 では、Newtonならいいのか。OSはよい。使って見たけれど、こちらの目的はほぼ完璧に達成できそうだ。ただ、いかんせん、でかい。でかすぎるのだ。こっちとしては、ほぼ意識せずにもち歩き、どこででもさっとメモがとれるものを期待している。でも、Newtonはそもそもポケットにすらはいらない。これではいかん。アメリカ人のポケットにならはいるのだろうか。 結局、店頭でさわってみた感触からSharpのWiz、PA-Z700を購入した。買って見て驚いた。これがとてつもなくよいのだ。メモの容量も出先でとる分量としては十分。手書きの認識率も高い。僕の悪筆をものともせず認識してしまうのでちょっと気味が悪いくらいだ。たまに書き順を間違えると認めてくれないけれど。メモ帳として、胸ポケットにはいるサイズというのもよい。ところが、使っていくうちに他の機能の便利さを堪能しはじめてしまった。スケジューラはとりあえず必要十分なのだけれど、メモといっしょにもち歩くわけだから使えばそれだけ便利。アドレス帳もこのままMacに赤外線で転送できるのだから便利。なんと、気がついたらほぼすべての機能をつかいこなしていた。CMのうたい文句もこれではなるほど、である。

 便利なものを手にいれると、他人に吹聴したくなる。結果、うちの奥さんをはじめとした何人もの人間がWizを買う、ということになった。その買った人間が使っているのを見て、さらにそのまた知り合いが買う、という現象までおきている。Sharpからなにか宣伝費もらってもいいくらい(笑)。 で、現行機種は700ではなく800である。これは、カタログスペックを見る限りにおいては、RAM容量もかわらないし、4階調グレイと直書きメモ、抗菌処理くらいしか違わない・・・ようにみえた。ようにみえたのだが、これがまったく違うのだ。大体、RAM容量が同じくせにユーザーズエリアはひろくなっている。メニューは三ページ順にくらなくてはならなかった700に対して、ポップアップメニューになってアイコンで細分化されてわかりやすくなった。e.t.c.・・・ どうも、システムの大幅なアップデートがあったらしい。700には、液晶表示の文字はあるけれど、機能としてはけっしてつかわれない、というものが多々あったのだけれど、それも全部整理されている。電池も単4にかわってさらにひとまわり薄くなった。液晶も少し広くなったようだ。うーむ。買い換えたくなってくる。まあ、よい製品に育っていくのはうれしいのだけれど。

 Z800を買った友人はアメリカからの留学生である。彼は、手書きのメモがどんどん蓄積されていくのに困り果てていたところで僕が700を使っているをみて興味をもった。しかも、Wizには英和・和英・国語の辞書が一応ついてくる。英和でひいた単語を国語でひきなおす、ということも工夫すればできる。読み仮名がコピー・ペーストの対象にならないために、読みを覚えておいて再入力、という手間はかかるけれど。(このあたり、次の機種では改善されるとうれしい。辞書間の相互参照ができれば大変に便利である) また、スケジュールを週表示にした状態で期間スケジュールの登録ができると便利なのだけれど。いやいや、欲をさらにいうならば、週間スケジュール時に、小さな月カレンダーが1.5×2cmくらいのサイズでフロートしてくれるともっといいな。

 なんだかんだいって、大変に満足している。QV-100とあわせて必須アイテムとなった感がある。そういえば、HP200の気に入らなかった点のひとつがへんなPIMソフトがついてくることだった。そうするに、PIMが嫌いなのではなく、へんなPIMが嫌いなだけなのだな。便利ならば評価されるし、へんなものは嫌い。やはり、このサイズのNewtonがでてくるのが一番うれしいのだけれどなあ。

 ところで、Wizシリーズには電池蓋のところにロックスイッチがある。これをただの蓋のロックとあなどってはならない。これは、メモリ内をクリアせずにシステムを再起動させるリセットスイッチでもあるのだ。実際、先日奥さんの800の動作がとてつもなく遅なって使い物にならなくなったとき、このスイッチを一度「解除」にしてから戻すことで復帰させることができた。トラブルがおきて「初期化」にボールペンの先を押し込む前にためされたし。




1996/12/09,1997/01/06