コンタクトレンズ

 「レンズが目の裏にいって出てこなかった」「一枚奥にあるのに気がつかなくてもう一枚いれてしまった」「レンズにアメーバがはえてくる」「口に入れてなめれば洗ったことになる」…こんなこといわれれればいわれるほど、コンタクトレンズは恐い、という印象が大きくなっていったのである。あげくのはてに、ソフトレンズは煮沸機を持ち歩かないといけない、なんて聞くととんでもなくおおげさな感じがする。眼球の上に直接に物をのせる、というのも恐怖をあおる。それで、ずっと眼鏡をかけていた。サングラスも制限されてしまうので結構しんどい。度付きのサングラスをつくってみても、レンズは単に色がついているだけ、で、まぶしいところでの目の辛さは軽減されない。眼鏡の前につけるサングラスも同じ。磁石でフレームにつけるタイプのサングラスも同様。

 最近、二週間で使い捨てるコンタクトレンズの種類が増えてきた。みたら、乱視対応のものもある。目玉に培養ゲルを載せるようなものだから、使い捨て、というのは自分にとっての必須条件といえた。さらに、無理だと思っていた乱視の矯正もできるとあれば、とりあえずためしてみようと気になった。「恐さ」も相棒からの「コンタクトにかえたほうがいい」という一言で決断がついた。調べてみると、家の近くの眼鏡屋でトライアルを行っている。眼科医の来ている曜日・時間は限定されているのでそれにあわせていかなくてはならない。パンフレットをみると、保険証を持ってくること、診療代、ケア用品代は有償、とある。それでも、二週間はためせる、ということなので身体にあうかどうかはわかる。

 視力を測定してもらい、眼鏡の矯正度をチェックして、それに合ったレンズをえらんでもらう。使い捨てレンズは規格品なので、眼鏡と同じだけの矯正はできない、とのこと、その範囲で近いものを選んでもらう。乱視については、右は弱いので乱視なしのモデルを、左は乱視用のものを、ということになった。コンタクトで一体どうやって乱視を矯正するのかと思っていたら、なんと普通のレンズよりも一回り大きいレンズの一端を厚くして「重し」にしてあるらしい。目の上で浮いている状態で、適切な角度でレンズが安定するという仕組みである。たいしたもの…なのだが、このせいでしばらく左だけレンズを入れにくい、ということになる。

 とりあえず、一回目は店員さんが目にいれてくれた。これを自分ではずせ、というのだけれど、直接目玉に触れるのにちょっとびびってしまってなかなかうまくいかない。なんとか取り出したら、こんどは裏表を確認しろ、という。指の上に凸面を下にしてのせた時に、へりが反り返っていたら裏だ、というのだ。これが、何度ためしてみても裏と表の区別がつかない。何度やってもわからないので、店員さんは最後の手段を教えてくれた。指ニ本でレンズをはさんだ時に、広がりが大きいのが裏。なんとかこれで区別がつくようになった。ではいれてみましょう、という。目玉にものをのせる、ということのコツがつかめずしばし苦労の後、なんとかマスター。

 これでしばらく使ってみましょう。ということになった。ちよっと驚いたことに診察代もケア用品も無料であった。つまり、洗浄剤や洗浄機具をふくめて二週間分のレンズセットが無料で手に入ってしまったのだ。この後、真っ先にやったことは、サングラスを買い替えること。RayBanのG15レンズを使ったものが目に楽なのだけれど、いままではその恩恵にあずかれなかったからだ。Folding WAYFARERを購入。予想以上に目が楽なので満足している。特に、コンタクトにしてから蛍光燈の光が目の奥につきささるような感じがあり、サングラスはいままで以上に手放せない。

 数日使っているとおもしろいことに気がついた。二日目か三日目になにげなくレンズを指にのせていたら、なんと、へりの具合でレンズの裏表がわかるのである。よく実習なんかで顕微鏡観察を学生にさせる時、最初はみえていないものが、一度確認できると次からはそれまでわからなかったものが「見える」ようになる、というのを見ているわけだけれど、それをひさしぶりに自分の身体で体験した、というわけだ。これに気がついた辺りから、レンズの着脱がとても楽になった。

 レンズを装用している時の問題、というと、とにかく目が乾く、ということにつきる。ソフトコンタクト用の目薬が欠かせない。さらに、顕微鏡を覗いているとそれが著しく、さらに、乾きかけてレンズがずれてくると目のピントがあわなくなる、ということもある。ただ、問題以上に眼鏡のフレームを気にせずに生活できることのメリットのほうが大きい。トライアル一週間の時点で製品の購入の意志を店に伝え、現在はその一セット目を使っているところである。どうも、関連の小道具なんかに目がとまったりして、おもちゃ好きの性質を刺激するような部分もある。なにしろ、毎晩の消毒が過酸化水素水に白金触媒のセット、というあたりで、煮沸機いらずの仕組みといい、なかなかそそるものがある。しばらく、楽しめそうである。


 その後、うたたね中にレンズが目からはがれおちる経験一度、レンズが完全にずれてしまってうまく見えなくなるということが一度あった。さすがに、見えなくなったといっても、瞳のすぐ下にあったのでわかったけれど。だいたいのトラブルは経験したのかどうか。まだいろいろあるのかもしれない。

 使用済みのレンズを培養液にいれてアメーバをあやしてみる、ということもちょっと考えているけれど、気持ち悪そうなので実行するかどうかはさだかではない。

 あと、アメリカでの価格をむこうにいる人間にきいたんだけれど、国内で買うのとたいして値段がちがわないのでがっくり。それほど安くないらしい。一箱あたりの枚数が多いのは楽かもしれないけれど。

 

1998.10.25,11/30