インプラント治療における歯科麻酔科医の役割

司会 川田 達(日之出歯科真駒内診療所)

 近年のインプラント材料の進歩は目覚ましく、基礎研究においては生体材料として使用に耐えられるだけの科学的根拠が得られ、臨床研究においても10年以上の追跡調査でほぼ満足すべき結果が得られています。また、日常臨床においても、患者側の知識及びニーズの高まりから、歯牙欠損部に対してインプラントを適用するケースが急速に増加しています。しかし、インプラント治療の対象となるのは歯牙欠損を有する高齢者である場合が多く、時に全身管理を必要とする場合も少なくありません。また、患者自身もインプラント埋入手術に対しては抜歯や歯周外科手術を受ける以上に、恐怖心や不安感を持っている場合が多いと思われます。そのため、インプラント治療においては歯科麻酔学の知識や技術は必須であり、歯科麻酔科医の果たす役割も大きいと考えられます。

 本フォーラムでは、まず日本インプラント学会認定医で、インプラント治療に静脈内鎮静法を積極的に応用されている東京都開業の深井真樹先生と、インプラント治療における全身管理に関して数多くのご経験をお持ちの、大阪歯科大学歯科麻酔学の小谷順一郎助教授に基調講演をお願いし、その後フロアの先生方を含めて活発な討論を行いたいと思います。

 

紀尾井町インプラントセンターにおける臨床歯科麻酔について

深井真樹(東京都開業)

 近年、インプラント治療の需要が高まるにつれ、患者さんの要求もますます高まってきている。われわれの診療室においても、インプラント治療が高い割合を示している。当院のコンセプトとして、特に無痛医療への配慮・リラックスした環境づくりに重点を置いている。現在、院内におけるインプラント治療のほとんどのケースで、歯科麻酔医による静脈内鎮静法を行っている。

 今、なぜわれわれが歯科麻酔医による静脈内鎮静法を必要とするか、これは術者も患者さんも、お互いリラックスしストレスを感じない環境の下で、より快適で安全なインプラント治療が行えることを希望するからに他ならない。

 患者さんから直接うかがった、静脈内鎮静法の評判も非常によく、手術時間の短縮や全身管理などの点からみても、これからのインプラント治療には歯科麻酔科医との連携が重要であるといえる。

 

歯科インプラント医療への歯科麻酔科医のかかわり

          小谷順一郎(大阪歯科大学歯科麻酔学講座)

 歯科インプラント医療は、本質的には置換医療の一種ですが、従来の義歯治療も含めた多くの選択肢の中から適応を選ぶといった、医科領域での置換的医療と異なった側面があります。質の医療といわれる所以は、このあたりにあると思われますが、それを施行するのに過大な苦痛を伴ったり、全身的な偶発症を引き起こす可能性があるようでは、決して良質の医療とはいえません。論を待たずとも、この点に寄与する歯科麻酔科医の役割は大きいものがありますが、一方では、一般開業歯科医院でインプラント手術を行う場合の全身管理上の具体的な問題点については、必ずしも整理されているとはいえません。すなわち、手術の特性はどこにあるのか、静脈内鎮静法の応用は従来の歯科治療の延長と考えてよいのかなど、まだまだ検討の余地があります。この方面での新しい研究テーマが生まれて、初めてしっかりとした議論が可能になるのです。今回は、骨結合型インプラントの埋入手術が、全身管理上、他の歯科治療とどのように異なるのか、歯科麻酔科医の目からみた特殊性を論じようと思います。