歯科麻酔科医と病診連携

   −病院歯科麻酔科医として携わった4例の異常絞扼反射症例から−

 清水市立病院口腔外科  望月 亮

平成10年10月9日(金) 午前9時55分〜 口演時間 6分

(スライドお願いします)スライド1:札幌の時の「提言」スライド

このスライドは、平成6年のシンポジウム「認定医の現状と将来−個人開業医の立場から」で演者が最後にお出ししたものです。演者は、このシンポジウムの直後から、清水市内にある市中病院の口腔外科の非常勤職員として、週に一度勤務するようになりました。主な仕事は、毎週行われる口腔外科手術の全身麻酔を担当することですが、この4年間に、歯科麻酔科医として手術室や外来、院内院外で活動する機会が増えてきました。今回は、歯科麻酔科医としての存在をより強く認識することの出来た、いくつかの経験についてお話しいたします。

(次のスライドお願いします)スライド2:症例4例の提示

当科は、清水市の中心となる病院歯科・口腔外科で、近郊の開業歯科医からの紹介率は全初診患者の7割近くにも達します。その中で、単純な埋伏智歯に止まらず、このスライドのように歯科麻酔科的な管理を必要とする症例が、このところ増加してきています。異常絞扼反射を有する患者の歯科治療に関しては、さまざまな報告がありますが、当科では、幾多の試行錯誤の末、手術室でのプロポフォルを用いた全身管理法を選択しています。

(スライドお願いします)スライド3:症例呈示(術中写真)

代表的な症例を供覧します。(スライドは症例3、の間違いです)54才のこの患者さんは、下顎の抜歯、保存、補綴治療が必要でしたが、反射のため治療はほとんど不可能でした。そこで、前日から入院とし、ブトルファノール1mg、硫酸アトロピン0.5mg筋注の前投薬下に、プロポフォル1mg/kgの静注、維持量2mg/kg/hrにより、反射はほとんど抑制され、意識下に通常の治療が可能となりました。手術室での治療の他に、外来では概形成や補綴物の装着なども可能となり、いわゆる減感作も達成できた症例です。

(スライドお願いします)スライド4:このような治療体系が可能になるまでの経緯と苦労したこと

一口に言ってしまえばこれだけの症例ですが、ここに至るまでにはさまざまな苦労がありました。麻酔科に異常絞扼反射という病態、意識下の歯科治療の必要性を理解してもらうこと、周術期および術中の管理体制の協議、口腔外科とは誰が術者になるか、術前諸検査や病棟管理の依頼など、試行錯誤を現在でも繰り返しています。しかし、市内の開業医から依頼を受けた、特殊な管理を必要とする歯科患者の治療を、関連各科との連携を保ちながら何とか実現させることが出来た、という充足感は、ただ手術室で全麻をかけているときの何倍も強いものがありました。

(スライドお願いします)スライド5:開業医がリスク患者を治療することの是非

私たち開業歯科麻酔科医が、大学でやっていたことをそのまま自院へ持ち込む、ということは、このスライドのようにさまざまな点で問題が多いとされています。詳しくは本日夕方から行われる「歯科麻酔を考える臨床医フォーラム」でも議論されることと思います。

(スライドお願いします)スライド6:歯科麻酔科医の理想的なあり方

大学や大規模病院では、麻酔科医は外科を初めとする各科の間で、いわば橋渡しの役目を果たしながら、患者の治療を成功に導く黒子的存在です。これを社会に出た私たち開業歯科麻酔科医に当てはめてみますと、このような模式図が、いわば歯科麻酔科医の理想的なあり方の一つとなり得るように思えます。

(スライドお願いします)スライド7:歯科麻酔科医が病院歯科に勤務することの意義

私は、その中でも、病院歯科というフィールドは、歯科麻酔科医が活躍できる格好の場ではないか、と考えます。先にも述べましたように、自分の医院の維持や経営と、歯科麻酔科医としての活動、この二つの両立が困難を伴うことは、既にさまざまに指摘されています。しかし、フットワークの軽い病院歯科の非常勤医としてならば、自身にとっても、また病院にとっても、いろいろな点で有益な効果をもたらすのではないでしょうか?

(スライドお願いします)スライド8:静岡県内の病院歯科

少し目を外に転じてみましょう。静岡県内には、ご覧の約20以上の病院歯科口腔外科があります。この中で、歯科麻酔学会認定医が勤務する病院歯科は、このように極めて限られています。数年前までは、県歯科医師会の学術部長レベルでさえ、どこの病院歯科はどの大学の系列で、どのような診療をしているか、という状況が全く把握されていませんでした。いわば、病院歯科と歯科医師会は全くバラバラに動いていたのです。

(スライドお願いします)スライド9:県病院歯科協議会・県障害者歯科会議の模様

ところが、昨年秋から、私たち病院歯科勤務の歯科麻酔認定医が各方面に働きかけ、スライドのような県を主体とした大きな規模の障害者歯科診療構想が動き出しています。県行政、県歯科医師会、それに歯科麻酔科的診療に理解のある病院歯科、この三者が協議を重ねており、他県に類を見ないユニークな障害者歯科診療体系を模索しています。

これなどは、歯科麻酔科医がグローバルな病診連携に中心的な役割を果たしつつある、またとない例と言えるのではないでしょうか。

(スライドお願いします)スライド10:まとめ(病院歯科麻酔科医の問題点と展望)

お話ししたような、病院歯科での活動にさまざまな困難が横たわっていることは、紛れもない事実です。しかし、病診連携という概念は、今や病院歯科にとって避けて通ることの出来ない非常に重要なものとなっています。それが狭義のものであれ広義のものであれ、病診連携という舞台は、まさに病院歯科麻酔科医にとってまたとない活躍の場になりうると信じます。

スライドありがとうございました。