病院歯科における歯科麻酔医の需要 神戸市立西市民病院歯科1) 神戸市立中央市民病院歯科口腔外科2) ○足立了平1),2)・河合峰雄2)・田中義弘2)  (目的)現在,歯科麻酔認定医は694名となっているがそのほとんどは大学病院 勤務または開業医であり,大学以外の病院歯科での勤務は少数である.この原因 としてほとんどの病院には麻酔科が設置されており,全身麻酔の担い手としての 歯科麻酔の需要がないことによると考えられる.しかし,循環器系の疾患を始め 高齢化や医療の高度化に伴い,歯科治療を行う上で全身管理を必要とするハイリ スク患者は増加している.そこで,病院歯科における歯科麻酔医の需要を知る目 的で,以下の調査を行った.  (方法)平成9年4月〜平成10年3月において神戸市立西市民病院歯科口腔外科を受診 した患者について以下の項目について検討した.  1.紹介患者   (1)歯科麻酔学に関連した疾患の割合   (2)紹介目的  2.全初診患者   (1)歯科治療に際して管理が必要な有病率   (2)精神鎮静法を必要とした処置の割合. (結果)平成9年度の初診患者数は777名で,そのうち紹介患者数は487名,1日平 均5.2名,紹介率62.7%であった.このうち神経痛,舌痛症,神経麻痺などの歯科 麻酔学に関連した疾患は,94名(12.1%)であった.紹介目的別では,手術や診 断の依頼が多かった(77.3%)が,全身管理のもとでの処置依頼が219名(28.2 %)あった.全患者における有病率は51.6%で循環器系の疾患が最も多く(53.2 %),ついで内分泌系の疾患(26%)であった.歯科外来において笑気または静 脈内鎮静法を使用して行った処置は51例で全処置の2.1%であった. (考察)西市民病院は阪神淡路大震災により崩壊したため,歯科外来は2回/週 の診療日となっている.そのため一般歯科治療の要望は少なく,紹介率が高い. したがって地域の開業歯科医師が病院歯科に対して何を望むのかがわかりやすい 診療形態であると考えられる.紹介患者において歯科麻酔学に関連した疾患は多 くはないが,全身管理下での処置依頼が3割程度あり,全体でも有病率は51.6% と高い.なかでも全身管理を要する循環器系疾患が213名と全患者の27.4%を占め たことは,病院歯科において歯科麻酔医が積極的に関与できる環境であることを 示している.以上のことから病院歯科における歯科麻酔医の需要は30%以上ある と考え,歯科医師3人中1人は歯科麻酔医が必要であると思われる. (文献)市立病院年鑑(22),神戸市保健福祉局経営管理部,1998