天空のエスカフローネ 〜infinite〜

ACT.4 再会

 闇い宇宙(そら)一面に、白い輝きが無数に漂っている。『星?』。ひとみは輝く点の一つに手を伸ばしてみた。それは、ひとみの指先に当たると震えるように光を放ち、羽根の姿を表わした。ひとみは白く光る羽根を手に取った。周りを見ると、白い羽根が舞い散る様に乱れ飛んで行く。羽根の行き先には青い惑星(ほし)がある。
『地球?それともガイア?』。ひとみは手の中の羽根を見た。『この羽根、悲しい』。顔を上げると、舞い踊っていた羽根はいつの間にか石に姿を変え、青い惑星(ほし)を周るリングになった。

 「・・・み!ひとみ!」
誰かの呼ぶ声でひとみは目を覚ました。心配そうにひとみの顔を覗き込んでいる、この人は、
「・・・バァン?」
自分はまだ夢を見ているのだろうか?それともいつものように、バァンの想いが来てくれた?夢と現がごっちゃになって惚けているひとみに、バァンは更に顔を近づけると、心配そうに言った。
「大丈夫か?ひとみ。」
視線をバァンに合わせ、ゆっくりと上半身を起こしながら、ひとみはつぶやくように言った。
「バァン?ほんとにほんとのバァンなの?」
 ひとみを優しく見つめる深く紅い瞳、大人びたそれでいて幼さが残る面差し、黒い髪、日焼けした逞しい四肢、胸に光る赤いペンダント。バァンは何も言わずに、にっこり笑うと、ひとみの手を取った。引き寄せられる様に立ち上がったひとみの体は、バランスを崩してバァンの胸に倒れ込んだ。
「きゃ!」
「ひとみ。」
優しく抱きすくめられて、ひとみの体は一瞬緊張した。けれど、すぐにひとみもバァンをしっかりと抱きしめた。
『バァンだ、草原の香りのするバァンだ。』
ずっと前は、ひとみが背中を丸めて、やっとバァンの胸に顔を埋めることが出来たのに、今は、ひとみが少し背伸びをしても良い位だ。
「バァン・・・」
ひとみの目から涙が溢れ出した。
『なんで泣いちゃうの?私。バァンに会えたのに、バァンに会えて、こんなに嬉しいのに。なんでこんなに胸が痛いの?』
『寂しかったんだ私。こんなに寂しかったんだ。いつも、いつだってバァンの事想ってたから、バァンの事感じてたから、気がつかなかったよ。』
『ゆかり、ごめんね。私、心配かけてたんだ。』
『バァン、バァン』
「バァン・・・」
バァンは、ぽろぽろと涙をこぼすひとみを抱く腕に、優しく力を込めると、頬を赤く染めながらそっとささやいた。
「ひとみ、皆が見てる。」
「えっ?」
涙で濡れた顔を上げて辺りを見回したひとみは、少し離れた繁みの中から凄い形相でこっちをにらんでいるメルルと目が合った。そして、今にも飛びかからんとするメルルを抑えて、涼しい顔をしているアレンと、嬉しそうに目を潤ませているミラーナの姿が目に入った。
 ひとみは耳まで熱くなるのを感じて、バァンを見上げた。うつむき加減のバァンの顔も赤く染まっている。
 「ひとみ!」
「バァンさま〜!」
ミラーナとメルルがひとみとバァンに抱きついた。
「ひとみ。怪我はない?何があったの?急に、光の柱が現れるんですもの、驚いたわ。でも、こんな所で会えるなんて嬉しくってよ。」
ミラーナの言葉に、ひとみは我に返った。
「ここはガイアなの?私どうしてここに?」
ひとみは辺りを見回して、自分が木漏れ日の射す明るい森の中の墓所の前にいることに気が付いた。かたわらには、エスカフローネが石像のようにたたずんでいる。ここはひとみが前に、ガイアと別れを告げ、地球に帰った場所だ。
 「ファーネリア王は、足がお速い。」
アレンが金色に光る長い髪をなびかせながら、優雅に歩み寄って来た。
「あの頃は可愛いお嬢さんだと思っていたが、見違えるほど奇麗になったね。ひとみ。」
アレンはそう言って跪くと、ひとみの手に、軽くくちづけをした。その騎士流の挨拶に戸惑うひとみを見て、メルルがつっけんどんに言った。
「あんた、な〜に赤くなってんのよ。バァン様はね、あんたの事ず〜っと想ってたんだから。浮気したら承知しないよ。」
「あ、メルル!あんた相変わらず可愛げがないわね〜。」
メルル相手だとついムキになってしまうひとみだ。
「ふ〜んだ。あんたなんか戻って来なくても、あたしは良かったってこと。」
そう言うと、メルルはぷいっとそっぽを向いてしまった。ひとみがいると、大好きなバァンを一人じめ出来なくなるのだから、仕方がない。でも、
「でも、いちお、おかえり。」
そっぽを向いたまま、不機嫌にこう言うメルルは、ひとみの事も大好きだ。

 各人各様に再会を喜んだ所で、一同はひとまず城に戻ることにした。
「これ、ひとみんじゃないの?」
メルルが少し離れた草むらの中から、ひとみのバッグを拾い上げた。
「あ、私のバッグ。一緒に飛ばされて来ちゃったんだ。」
メルルはバッグをひとみの方に放り投げると、もう一つ、何やら小さいものを拾い上げた。
「バァンさま〜。ペンダント、落されてますよ〜。」
メルルはバァンに走り寄ると、手に握った赤いペンダントを差し出した。
「あれ、バァン様、ちゃんとペンダントしていらっしゃいますね。」
メルルは手の中の輝きとバァンの胸に光る輝きとを交互に見比べながら首を傾げた。
「・・・ペンダントまで一緒に来ちゃったんだ。」
ひとみの言葉に、このペンダントの意味を知る者達は、驚きの表情をあらわにした。
 古のアトランティスの力を内に秘めたペンダント。この世に1つしかないと誰もが思っていたのに。
 アレンがエスカフローネを見上げ、険しい顔でつぶやいた。
「このガイアに、一体何が起ころうとしているのだ。」
アレンの言葉に、一同はエスカフローネを見上げて、予想のつかない未来への不安をかきたてるのだった。

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