天空のエスカフローネ 〜infinite〜 |
ACT.27 紅の羽根 |
波の上を滑るように飛ぶ白い竜=エスカフローネと、その背に乗る二人=ひとみ・バァンは、連れ去られたメルルを求め一直線に沖を目指していた。
「メルル・・・泣いてる・・」 ペンダントを手にメルルを捜すひとみの感覚に、メルルの泣く声が飛び込んで来た。バァンは何も言わず、握りしめたグリップを操ってエスカフローネの速度を上げた。 エスカフローネは海面からほんの数メートルという高さを飛んでいた。『高く飛ぶより低く飛んだ方が相手に見つかり難い』それはある一定の条件の下では真実である。でもひとみは、ここがガイアではなく地球だという事に、強い不安を抱いていた。ガイアで『見つかる』というのは『目視される』という事だ。だが地球には電波探知機(レーダー)と言う、目に見えない物・遠くにある物を見つけだす機械がある事位、ひとみだって知っている。だから、いくら相手がエスカフローネの存在に気付いていないとは言え、一直線に向かって来る何者かの存在に気付かない訳が無い。 ひとみは、砂浜で母と別れた後、自分の提案が軽率な物であった事にすぐ気付いたのだが、他に良い考えがある訳でも無いし、メルルの事を考えると一刻の有余も無い。 『メルルを助ける』 ひとみは、不安を打ち消すように、心の中で同じ言葉を何度もつぶやいた。 「ひとみ。大丈夫か?」 険しい顔でまっすぐ前を見ていたバァンが、一寸だけひとみの方を振り返って言った。 「少し気を楽にした方が良い。・・・不安な気持ちが、悪い未来を呼び寄せるんだろう?」 「バァン・・・」 ひとみはバァンの背に捕まったまま、その横顔を見上げた。 「安心しろ、ひとみは俺が守る!メルルだって、必ず助ける」 ひとみは、バァンがこんな状況で自分を気づかってくれた事が嬉しくて、でも、自分が心配したり助けてあげていたバァンが居なくなってしまうようで少し寂しくて、黙ったまま、バァンの背中に顔を埋めその背につかまる腕に少し力を込めた。 そんなひとみの想いが引き寄せてしまったのか、せわしない音をたてる何かが前方から飛んで来た。 「なんだ?あれは」 「ヘリコプター?!」 スクーターの下部を流線形の保護カバーで覆い上部と背面にプロペラを取り付けた様な遊園地の遊具じみたそれは、スパイ映画にでも出てくる小さな一人乗りのヘリコプターに見えた。 ひとみは、その小さな飛行体を指差して言った。 「あれ!さっきバァンを撃った男の人が乗ってる」 月明かりの下では、顔はおろか乗員の有無を判別する事すら難しかったが、ひとみにはわかった。 「よし。ひとみ、伏せていろ!」 バァンはエスカフローネの小さな前足に剣を握らせると、飛行体に向かって急上昇した。男はエスカフローネに気付くと驚いたように何か叫んだが、飛行体の回転翼とプロペラから発せられる騒音で何を言っているのか聞き取れない。 バァンは、空の一点に滞空する男の機体に近付くと、その周囲を旋回しながら叫んだ。 「メルルはどこだ!答えろ!答えぬのなら、切る!」 エスカフローネが握る剣の切っ先は、男の居る操縦席をぴたりと捉えている。男は身をすくませた・・・様に見えた。 男はやおら身を乗り出すと、エスカフローネにかぎ手の付いた綱を投げつけた。綱は上手い具合にその後ろ足に絡み付き、男の機体とエスカフローネをつないだ。 「!」 「なに?!」 バァンとひとみが男の行動の意味を計りあぐねたほんの一瞬の間に、男は綱を手繰り寄せエスカフローネに乗り込んで来た。その手に、バァンを撃った銃を握りしめて。 「だめぇ!」 ひとみは立ち上がると、男の銃弾からバァンを守るように大きく手を広げた。 次の瞬間、エスカフローネが大きく揺れた。乗り手の居ない男の機体がエスカフローネにぶつかったのだ。 この揺れで、男は銃を落とし、そして、ひとみも・・ 「きゃぁぁぁーーー!!」 体勢を崩したひとみが闇雲に伸ばした手をバァンが掴む。だが、そのバァンの手の中をひとみの手がすり抜けてゆく。 「ひとみぃーー!!」 ひとみは海に向かってまっ逆さまに落ちて行った。ひとみの視界の中で、ひとみに向かって手を伸ばすバァンがみるみる小さくなってゆく。 『なんか、前にもこんな事、あった・・・』 ひとみは急激に薄れてゆく意識の中でそんな事を考えていた。 だが、意識を失うより早く、ひとみの体は空中で抱き留められた。純白の羽根が舞い、月明かりに白く輝く翼がひとみを包み込む。 「バァン」 ひとみは、嬉しそうにそう言いながら顔を上げた。が、その表情はすぐに驚きの色に変わった。 「!」 「あのような蛮族と一緒にされては困りますね」 ひとみを抱き留めているのは、白いガイメレフを操る長い髪の男だった。駅で、海岸で、ひとみをさらおうとしたその男の背に、バァンと同じ白い翼がある。 ひとみはあまりの事に声を失い、大きく瞳を見開いたままゆっくりと首を左右にふった。 そんなひとみの目の前に紅の羽根が降って来た。 ひとみは白い羽根と紅の羽根が舞う空を見上げた。そこには、乗り手を失って飛ぶ2つの飛竜の姿があった。そして、片翼を血に染め、紅の羽根を散らしながら落ちて来るバァンの姿も。 「バァン!」 とっさに伸ばしたひとみの手が、むなしく空を掴む。 「バァーン!」 無念を湛えたバァンの姿が夜の中を落ちて行く。ひとみは、落ちてゆくバァンを追い掛けるように身を乗り出したが、長い髪の男に強く抱き寄せられてしまった。 「そんなに暴れると落ちてしまいますよ」 「いや!離して!!バァン!バァーン!!」 バァンの姿は、ひとみの絶叫と共に、暗い夜の海に呑み込まれて行った。 |
あとがき |
今回のお話で、ストーリーには関係ないんで端折った所を、ここで補足説明しちゃいます。
まず、銃を持った男の乗り物は『ジャイロコプター』。ヘリコプターじゃありません。ヘリコプターより操縦がずっと易しく、軽い機体で小回りの利く『空のオートバイ』とでも言う乗り物です。1950年代にアメリカのイゴール・ベンゼンという方が開発しました。軍でも使うけど、個人所有も簡単に出来る超軽量回転翼機です。 興味のある方はこちら→【http://www.comlink.ne.jp/~jh1sob/index.htm】 次に、ひとみだって知ってる電波探知機(レーダー)。でも、ひとみの知識なんて遥か及ばない程の科学技術力を使った諸々の探知機を使ってるはず。当然使ってるであろうGPSは当然軍事用。ソナーだって各種取り揃えで、自分達の周りを囲んでるですね〜。 参考になるかも→【http://yukino.enri.go.jp/japanese/】 あと、海面近くを飛ぶと海面効果で飛びやすいらしいのですが、勉強不足でどういう力が働くのか知りません、あしからず。 |
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