天空のエスカフローネ 〜infinite〜

ACT.16 大伊達者
 「ドライデンさん」
「ドライデンの旦那」
驚く一同を尻目に不敵な笑みを浮かべて歩みよってくるドライデンの後ろには、アレンとミラーナの姿も見える。
 ウェーブのかかった濃い黄玉色の髪を高い位置で結い上げ、ゆったりとした丈の長い衣装に身を包んだドライデンは、皆に向かって軽く手を上げると機嫌良く言った。
「よう、ひさしぶりだな」
 相変わらずのひょうひょうとしたドライデンの態度に一同が苦笑した時だ、
「どこだ、どこに行ったのだ!あのガイメレフは!!」
ジャジュカがいきなりドライデンに詰め寄った。
「ドライデン!」
「ジャジュカ!」
ジャジュカの掴み掛からんばかりの勢いに、ミラーナとアレンが二人の間に立ちはだかった。
 緊迫した空気が流れる中、ドライデンはミラーナにふっと笑いかけると、その肩に手をかけ、ひとみの方に押しやった。そして、嫌味な位落ち着いた態度でジャジュカに言った。
「そう、慌てなさんなって」
ドライデンの挑発的とも言えるその態度にいま一歩詰め寄ろうとしたジャジュカだったが、アレンの無言の制止を受け少し離れた場所に下がって行った。
 ひとみは争い事にならなかった事に安堵すると、先程から抱いていた疑問を口にした。 
「アレンさん、ミラーナさん。どうしてここに?」
ミラーナは緊張のほどけた表情をひとみに向けるとその疑問に答えてくれた。
「ええ、私達つい先程この街の管理組合を訪ねましたの。そうしたら、そこにドライデンが居たのよ。なんでも、他国とザイバッハの流通ルートを確保して、貿易によって人々の生活の安定が計れるよう、ドライデンがいろいろと力を貸しているそうなのよ。」
「じゃあ、この街がこんなに賑やかなのはドライデンさんのおかげなんだ。」
ひとみが感心したようにそう言うと、ミラーナは誇らしげにドライデンを見つめてうなずいた。
「ええ、そうなのよ。それはともかく、ドライデンに今までの事を簡単にお話ししたら、詳しい話をするなら、バァン様達も一緒が良いだろうという事になって、あなた方を探していましたのよ。」
 ドライデンは、ひとみとミラーナの話がひと区切り着いたのを見計らって、バァンとひとみの前に歩み寄って来た。
「久しぶりだな、王様。しばらく合わないうちに随分とたくましくなったもんだ。それに、ひとみちゃんもまたえらく奇麗になったなあ。そうだ。その幻の月の衣装とマントも悪くはないが、折角だから、どうだい王様、ひとみちゃんにドレスの一枚も買ってやっちゃあ。良い店、紹介するぜ」
ドライデンの言葉に顔を赤く染め絶句するひとみとバァンだったが、ひとみはすぐに気を取り直すとドライデンに、文句を言った。
「もう、ドライデンさん、からかわないで下さい。それよりも、白いガイメレフがどこに行ったのか知っているなら教えてください!」
ひとみに怒られて、ドライデンは片手で顔を覆い、天を見上げてこう言った。
「はぁ〜あ。どいつもこいつも、久しぶりに顔を合わせたってのに、挨拶も無しにそれか?余裕がないね〜。」
そのドライデンの芝居がかった言い様に、ひとみは慌てて頭を下げて挨拶をした。
「あ、その、ドライデンさん、お久しぶりです。」
そんなひとみを見て、ドライデンは大声で笑った。
「あっはっはー。あんた相っ変わらず素直だなー。好きだぜぇ、そういう所。王様。こんな良い娘そうは居ないぜ、大事にしてやんな」
そう言われてバァンは口を閉ざしたまま、ますます顔を赤くするのであった。
 「もう、ドライデンったら。二人をからかうのはおよしなさい。」
ドライデンはミラーナににらまれると、肩をちょっとすくめ、すまして言った。
「俺は別にからかったりなんかしてないぜ。」
そんな二人のやり取りを見て、皆の顔が自然とほころんだ。
 だが、和やかな雰囲気に包まれた一同に、苛立たしげな声が飛んだ。 
「挨拶はそれ位で良いだろう。時間が惜しい。白いガイメレフがどこに行ったのか教えてもらえないか。」
ジャジュカだ。少し離れて立つアレンの顔にも厳しいものが宿っている。
 「そうか。セレナって娘がさらわれたんだったな。」
ドライデンは神妙な顔つきでそう言うと、なぜかバァンに向かって口を開いた。
「俺もいろいろと噂は聞いている。実は、ここでの仕事が片付いたら、例のガイメレフの件で王様の所に行こうと思ってたんだ。」
「?」
いぶかしげにドライデンを見つめるバァンの代わりに、ひとみがドライデンに質問した。
「ドライデンさんは白いガイメレフがどこにいるのか知ってるんじゃなかったんですか?」
「いや、俺は知らんよ。」
「何だと、貴様、さっきは・・」
吠える様に叫ぶジャジュカを片手で制すると、ドライデンは言った。
「だから、知ってる奴に聞きゃぁ良いと思ってな」
「聞くって誰にですか?」
「造った奴らさ」
「それって・・・」
「そう。イスパーノの工房船を呼ぶんだよ」

(つづく)

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