天空のエスカフローネ 〜infinite〜

ACT.12 おまけのお話

 *クルゼードは眠れない〜セレナードを乱す愛すべきラプソディ達〜*


 「ありゃ、小猫ちゃんじゃねえか。何してんだ、あんなとこで。」
ガデスが格納庫の入り口に張り付いているメルルを見つけて首をかしげた。こんな夜中に、それも格納庫の入り口なんかで何をしているんだ。ガデスはメルルの後ろにそっと近づくと、格納庫の中を覗きこんだ。
「お、王様とひとみちゃんじゃねえか。」
月の光を浴びて、仲良く並ぶ2人の姿を見つけたガデスは、にやにや笑いながらそうつぶやいた。ガデスのつぶやきに、メルルがほっぺたをふくらませて振り向いた。その怒っているようにも泣いている様にも見える愛らしい顔を見て、ガデスはぷっと吹き出した。
「おいおい、そんな顔してっと王様に笑われるぞ。第一、覗きは良くねー。」
そう言うガデスの背後から男の声が上がった。リデンだ。
「おい。王様、ひとみちゃんの肩に手ぇかけたぞ!」
「ほう。王様もやるじゃねぇか。」
銀色の輝きを手のひらでもて遊びながら、オルトが答えた。
「おい、俺にも見せろよ!」
パイルが伸び上がるようにして格納庫の中を覗いている。
「おい、おまえ達、持ち場はどうした?」
そう言うガデスのすぐ後ろでカッツのため息交じりの声がした。
「野次馬なんてみっともねぇや。」
『そういうおめえは何やってんだ』とガデスは思ったが、声に出す前に足元から悲鳴にも似た声が上がった。
「あぁ!ひとみの奴、バァン様の肩にもたれかかったりして。あぁん、バァンさま〜。」
メルルがぴんと立てたしっぽの毛を思いっきり膨らませ、泣きそうな顔で格納庫の奥をにらんでいる。
「よっしゃぁー!!王様、もうひと息だ!」
「もうひと押し!」
「へっ、あの王様に一線を超える勇気なんざあるもんか」
口々に勝手な事を言っている男達を前に、ガデスは全身の力が抜けていくのを感じた。しかし、副隊長として、持ち場を離れて遊んでいる部下達を放っておく訳にはいかない。ここは一発どなるしかない。そう思って深呼吸をした瞬間、背後でまた別の声がした。
「ふっ。踏み込みが甘いな、バァン・ファーネル。私など、自分の踏み込みの良さが、時に恨めしくなる事さえあるというのに。」
アレンはそうつぶやくと、何事もなかったかのように、ふわふわとした足取りで立ち去って行った。
「た、たいちょ〜?」
アレンに向かって伸ばしたガデスの手が、空しく中をさまよった。

 ブリッジでは、キオが交代の時間になっても誰も来ない事にイライラをつのらせていた。
「くそ!なんで誰も来やがらねぇんだ。だいたい、交代を呼んで来るとか言って、リデンはどこほっつき歩いてんだ。」
キオは舵輪から手を放すと、伝声管に向かってどなった。
「おい、テオ。機関室も相変わらずか?」
「おう。誰も来やしねぇ。」
伝声管からテオの声が帰ってくる。
 キオは後ろを振り向くと、声を和らげて言った。
「今〜こんな調子だ。あんた、丁度良い所に来てくれて助かったぜ。」
「私で役に立つのなら。しかし、落ち着かぬ船だな。」
潜望鏡から眼を外して、ジャジュカが答えた。

 『・・どうしよう・・・』
格納庫では、背後の騒ぎにどう対処したものかと考えあぐねるひとみとバァンが、時間が止まったかの様に寄り添ったまま、夜明けの光を浴びていた。

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