NAIT2 でCDを聴くこと


    人目のお客様です


Naim Audio インテグレーテッドアンプNAIT2でCDを聴くTipsを紹介します

NAIT2は英Naim Audio社の小型プリメインアンプです。
既に生産はされていませんが、その小気味よいサウンドが支持されて今でも多くのファンがいます。

NAIT2には、初期のRIAAイコライザー付き(レコード用Phono入力付き)のタイプと、後期のCD入力タイプの2種類があります。
後期モデルでも入力セレクタの表示はPhonoとなっていますが、このポジションはCD用の入力でRIAAイコライザーは入っていません。

一般に、CDプレーヤの出力はテープデッキやチューナーの出力に比べて大きくなっています。
したがって、CDプレーヤをNAIT2のAUX(5ピンDIN)に入力すると、アンプのゲインが高すぎて音量が過大になります。
過大音量のためボリュームは相当絞ることになり、その結果、ボリュームのギャングエラー(左右アンバランス)に悩まされたり、小音量時の調整がクリチカルになったりします。
そこで、NAIT2の後期CD用モデルはレコード用のRIAAイコライザーアンプを取り除き、そこに、ゲイン約1/3のCD専用ラインアンプが挿入されています。
これによって、適切なボリューム位置で適切な音量が得られる様になっているわけです。

そうなると、CDを聴く場合にはNAIT2の後期モデルを使えば良いという事になるのですが、実際に試聴してみるとCD(RCA)入力とAUX(5ピンDIN)入力はゲインのみならず音質がかなり違います。
私も教えていただいたいて、始めて聴き比べをして、音質に差がある事を知りました。
この差は、耳の肥えたリスナーでなくともはっきりと違いがわかるほどです。
この音の差は、好き好きですが以下のような感じです。

 ●CD(RCA)入力(セレクタPhonoポジション):
  スピード感があり前に出てくる音。
  ポップス、ジャズ、アコースティック向き。
  元気のある乾いたクリアーな音質。
  中低音に、やや、ディップがある。
  反面、オーケストラでは中高音が耳につく。

 ●AUX(5ピンDIN)入力:
  オールマイティでワイドレンジな音質。
  オーケストラではCD(RCA)入力より自然でふくよかな響きで音像が厚い。
  奥行きも十分に感じられ分解能も良く繊細。

一般的には、CD(RCA)入力は個性的な音ですから、AUX(5ピンDIN)入力に軍配を上げる人のほうが多いのではないかと思います。
しかし、前述のようにAUX(5ピンDIN)入力ではゲインの関係でやや使いづらいという問題もあります。
アンプを改造すればゲインの調整も容易ですが、Naim Audio のアンプはオリジナルであってこそNaimであり、それを一つの完成品として愉しむのが正であります。

そこで、ケーブルのDINプラグ内にアッテネータ(抵抗器)を仕込んでゲインを下げ、CD(RCA)入力なみのゲインにできないかを検討することにしました。
最初は、適当に数十kΩの抵抗器をケーブルの心線に直列に入れ、そこそこの結果は得られたのですが、やはりもう少し詳細を検討して最適値を見いだしてみようと思いました。
以下にご紹介するのはその経過です。



●回路図
詳細を検討するために、NAIT2のプリアンプ部の回路図が欲しくなりました。
Web上をかなり探したのですがNAC42等の他のNaim Audio 製アンプの回路図は見つかるものの、NAIT2(NAITシリーズ)については見つける事ができませんでした。
仕方がないので、自分で回路図を展開する事にしました。
以下が、その回路図です。


●CD(RCA)入力のラインアンプ
(Schematic of NAIT2 line amplifier for CD (RCA plug) input)




これは、CD(RCA)入力のラインアンプです。
アンプ入力部で約1/8に減衰させた後で、約2.7倍のアンプに接続されており、トータルゲインは約1/3になっています。

回路はNaim Audioの標準ともいえるNPN+PNPの2段直結回路で、入力部には高音可聴域外をバッサリと切り捨てるRCローパスフィルタが付いています。
このRCローパスフィルタは、カットオフ周波数が57kHzです。

この回路を見る限りアンプの入力段に抵抗アッテネータを用いるのはNaim Audioの設計思想には反していないようです。



実際の基板は、元々、RIAAイコライザーアンプが実装されていた部分にCD(RCA)入力のラインアンプの部品が実装されていいます。
CD用ラインアンプを構成する際に不要な部品は未実装となっています。
写真の右端の部分が、部品未実装の部分です。

入力のカップリングコンデンサー(左の青い部品)、NFBのDCカット(右のオレンジの部品)ともに高価なタンタルコンデンサーが使われています。



●フラットアンプ
(Schematic of NAIT2 flat amplifier for aux, tuner, tape inputs)




これは、AUX、TAPE、TUNER等の入力からつながるいわゆるフラットアンプで、ゲインは約20dB(10倍)です。

CD(RCA)入力のラインアンプもそうですが、少しでもオーディオアンプ回路を知っている人なら、「何これ?」と思うくらい古くてシンプルな基本回路です。
しかし、アナログ回路の本質を知り尽くしたNaim Audio創設者の故ジュリアン・ヴェレカー氏ならではの緻密な設計です。
計算してみると、最適なバイアス設計(これが重要なのです)がなされていることがわかります。
そして、この回路の基本はその後のアンプから現在に至るまで変わっていません。

CD入力は、CD(RCA)入力のラインアンプを介した後に、各種切り替えスイッチを通ってこのアンプの入力に接続されます。
図中、volume、balanceの接続は詳細不明で、私が推測したものですが間違いないと思います。

回路構成は、基本的にCD(RCA)入力部のラインアンプと同じで、出力にエミッタフォロワーが付いています。
また、入力部には、2段の高域カットフィルターが付いています。
「可聴帯域を超える高音はアンプには通さないぞ」というNaim Audioの信念がかいま見れます。
このアンプはカットオフ周波数が40kHzです。

ちなみに、このフィルタには、この容量域で通常使用されるセラミックコンデンサーではなく、現在では入手の難しくなったスチロールコンデンサーが使用されています。

CD(RCA)入力から、フラットアンプを介した上記2段のアンプの合成でのカットオフ周波数は32kHzとなっており、今回もこれを目安とします。

なお、一般的なオーディオアンプでは、カットオフ周波数50〜100kHzです。
わざわざ、32kHzとしているNaim Audioは、やはり他とは違った考え方を持っています。



実装状態はこの写真のようになっています。
こちらは、入力のカップリング、NFBのDCカットともに、一般的で安価(@5円以下?)な電解コンデンサー(水色の部品)です。
NAIT2も、他の高級機種も同じ部品が使われています。

一方、プリント基板は銅箔厚さ70μmという通常の2倍の厚さの高価なものが使用されています。
音質のためと言うよりは、機器の信頼性、何度かの修理に耐える耐久性を求めたものと思われます。

前述のタンタルコンデンサーといい、これだけ、高価な部品と安価な部品が入り乱れて使用されているアンプは大変珍しいと思います。



●アッテネータ入りケーブル
さて、このフラットアンプの入力段にアッテネータ入りケーブルを用いようというわけです。
フラットアンプの入力段にはNaim Audioのエッセンスとも言える高域カットフィルタのため、通常ではあり得ない大きさのコンデンサ470pFが付いています。
大きな値の抵抗器をケーブル心線に直列に挿入すれば、カットオフ周波数が低くなり明らかに聴感上の高域が不足してしまいます。
ようするに、NAIT2の入力インピーダンスは公称値で47kΩですから、ゲインを1/2にしようと思えば47kΩを直列に挿入する事になります。
しかし、この方法では高域不足になるということです。

そこで、抵抗器を2個用いて逆L型とよばれるアッテネータを構成する事にしました。
回路構成は以下のようになります。
(Schematic of attenuator connection cable for aux input)





使用する抵抗器が47kΩよりも十分に小さければ、この、2本の抵抗の分圧比で減衰比(ゲイン)が決まり、そのゲインGainは、

Gain = R2*/(R1*+R2*)
となります。


このアッテネータを構成する抵抗器R1、R2の並列合成抵抗値、R1//R2 =1/((1/R1)+(1/R2)) が小さければ、高域のカットオフ周波数に影響はでません。
一方、抵抗器R1、R2の並列合成抵抗値を小さくしすぎると、低域側のカットオフ周波数が上昇して低音不足となってしまいます。
この前段につながるアンプ、すなわち、CDプレーヤーの出力のカップリングコンデンサーと、この抵抗器R1、R2の並列合成値によってハイパスフィルターが構成されるからです。

したがって、最適な値があるわけです。

前記のカットオフ周波数の検討と試聴を行って、最終的に、
R1=6.8 - 8.2kΩ
R2=3.9 - 5.1kΩ
が最適値と判断しました。
R1=6.8kΩ、R2=5.1kΩのとき、ゲインは約0.4倍、高域のカットオフ周波数は32.3kHzとなります。
また、CDプレーヤー出力のカップリングコンデンサー容量が4.7μF時で、低域のカットオフ周波数は5Hzとなり全く問題ありません。
High cut off frequency is 32.3[kHz] and gain is 0.4 by R1=6.8[k ohm], R2=5.1[k ohm].
Low cut off frequency is approx. 5[Hz] by 4.7[uF] output capacitor of CD player.

使用した抵抗器は手持ちにあった進工業(SSM)のRE35型1/4W金属皮膜抵抗器です。
この抵抗器は形状が大きくDINプラグ内に4個組み込むのに往生しましたので、1/8Wのアキシャルリード形(筒状の抵抗器本体でその両端からリード線が出たタイプのもの)の抵抗器をお勧めします。

なお、このアッテネータ回路はあくまでアンプ側に設ける必要があります。
DINコネクタ内への収納が困難で、ケーブル途中に取り付ける場合には、DINコネクタ〜アッテネータ抵抗器の距離を20〜30cm以内にすべきです。
CDプレーヤ側にアッテネータ抵抗器を設けますと、使用するケーブルとその長さによっては、ケーブルの持つ浮遊容量(通常、1メートルあたり50〜100[pF]あります)によって高域のカットオフ周波数が下がってしまう事があるからです。

以下に、抵抗器を組み込んだ様子を示します。



これによって、CD入力とAUX入力の両方でストレス無くCDを鑑賞することができるようになりました。
ソースによって、これら入力を切り換えて音質の違いを愉しんでいます。


後に、NAIT3のプリアンプ回路も調べました。
NAIT3にはCDプレーヤー入力がありますが、入力にはフラットアンプがあるのみで、結構ゲインは高目です。
入力インピーダンスは100kΩと高くこれと同様のケーブルが適用できます。

以下は、NAIT3のプリアンプ部です。
(Schematic of NAIT3 pre amplifier for aux, cd, tuner, tape, vcr inputs)







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