新指導要領批判  理科 中学



物理分野

 重力という言葉がなくなり、重さと質量との区別が高校に追いやられた。また、重力を扱わないことによって、3学年の自由落下運動もなくなった。 斜面に沿った運動が取り上げられているが、力の合成、分解が高校に移行したため、斜面に沿った分力を理解することができなくなっている。力の単位1s重が1N(ニュートン)に変えられた。国際的な単位の統一によるものではあるが、物理学をどう教えるかという視点が欠落し、生徒にとってはわかりにくいものになった。エネルギーの定義に必要な仕事が高校に移行した。したがって、エネルギーの把握とその保存性の理解ができず、自然現象を統一的に扱うことが困難になった。 今回の指導要領は自然を物理学的に見たり、物理現象の本質をつかもうとするのではなく、あくまで現象レベルの理解にとどめている。

化学分野
今回の改訂で中学1年生は物質・物体の学習がないまま、音、光、力、圧力の学習をすることになった。物質の多様性を学ばせるための密度について、数量的に扱ってはいけないということになった。体系的にちぐはぐである。物質を作る原子を早い段階で導入しているのは化学変化を原子・分子論的にとらえやすくなり、前回より進歩している。
イオンの学習が欠落した。物質は分子性物質、金属、イオン性物質からできている。その1つであるイオンの理解がないまま義務教育を終えることになる。酸性雨1つとってもその本質が理解できず、「何となく恐ろしいもの」という認識でしかなくなる。知識が不十分であれば、新聞も理解できず、原因もわからないまま、他人任せになってしまうであろう。イオンの存在がわからないことは物質界を見渡すことができなくなることである。また、化学変化の学習が2年生と3年生に分断され学習しにくくなっている。


生物分野  
進化と遺伝の法則の学習が高校へいった。進化は現代生物学の最も基本的な概念の一つであり、科学的な生物観を養ううえで不可欠である。 今まで扱わなかった減数分裂を中学校で扱うようになったことは、細胞レベルでの遺伝現象の基礎を系統的に教えることが可能になったが、メンデルの法則を学習しないことは親と似て、非なるものが生まれるという変異の現象を理解できなくなったということである。無脊椎動物や種子を作らない植物の学習も高校にいった。生徒の描く植物像や動物像が貧弱になるだけでなく、生物の共通性や多様性が理解できなくなった。その他、自然環境調査や自然の恩恵・災害調査が新設された。生物学の基礎的な法則や概念が削除・移行された一方で、ただの遊びや調査ごっこになってしまう観察・調査が重視されている。

地学分野
1年生で「大地の変化」.2年生で「天気とその変化」、3年生で「地球と宇宙」に変わった。地震の扱いについては現象面を中心に取り扱い、地球内部の働きについてはプレートの動きに触れる程度に制限されている。隆起・沈降を教えないことは断層活動の理解ができず、地震の本質を知ることができなくなった。日本列島の気候の学習をさせないことは問題である。また、天体学習では「月の表面」「惑星の表面」「外惑星の視運動」が高校に統合されまた。壮大な宇宙の広がりと歴史を学ばせなく身近な天体だけを扱うことになっている。科学的な宇宙観を軽視したまま、季節や暦の理解を目標にしている。

(金剛晴彦)
参考文献
 「新学習指導要領の批判と検討」(理科教室1999年6月臨時増刊号)新生出版