大文字山自然観察
−大文字山を歩いて京都盆地の生い立ちを調べよう。−

 京都の東山は「ふとん着て寝たる姿」にたとえられるように200mぐらいの低い山の連なりです。京都市内から眺めると、東山の北にあたる比叡山(848.3m)と大文字山(466.0m)は高いピークとしてとらえることができます。比叡山と大文字山の間では花こう岩を観察することができます。この花こう岩は中生代白亜紀にマグマが上昇し、丹波帯といわれる地層に貫入してできたものだと考えられています。マグマの高熱はまわりの地層を焼き固めました。砂岩や泥岩はホルンフェルスという固い石になり、現在のピークになって残っています。一方花こう岩は雨風に弱く長い年月の間に風化して、削られ谷間になりました。花こう岩が風化してできた白い砂は「白川砂」とよばれ、銀閣寺などの京都の寺院になくてはならない砂になっています。それでは大文字山の山頂まで地層の観察に出かけましょう。

写真@ 「哲学の道」です。   2001年4月 写真A 銀閣寺山門 写真B 銀閣寺山門の石畳ホルンフェルス

@バス停「銀閣寺道」  
集合地として良いと思われます。ここより大文字山を見上げて、五山の送り火について話をします。「大文字」は五山の中でも有名でありますが、弘法大師起源説と足利義政起源説があります。いつ頃、だれが始めたのかははっきりしていません。あるきっかけで「大」の字がつくられ、民衆信仰の行事が京都の町衆によって維持継承されてきました。
A哲学の道
 疎水と白川通りの交差するところにりっぱな石碑「哲学の道」(写真@)が建っています。画家の橋本関雪夫人が寄付したソメイヨシノの桜並木を行くと公衆トイレがあります。この行程唯一のトイレです。
B銀閣寺山門の石畳 
 みやげ物店を通って突き当たりが銀閣寺山門です。山門の石畳(写真A)を観察してみましょう。小豆大の結晶が入っているものがあります。薫青石(きんせいせき)ホルンフェルス(写真B)と呼ばれる石です。産地は銀閣寺裏山だと思われます。
C銀閣寺
 銀閣寺は正確には「慈照寺」といい、そのなかに「銀閣」という建物があります。一時、銀泊が貼られていたか話題になりましたが、検査が行われ、否定されました。足利八代将軍「義政」が東山山荘として造営し、死後寺院化したもので、「銀閣」という名がついたのは江戸時代だそうです。庭の「白川砂」は見事な白さです。この「白川砂」は適度に太陽光線を反射して、建物内部に光を導く働きをしているそうです。
Dチャートの地層の観察
 銀閣寺山門を左に曲がると八神社の鳥居が見えます。鳥居の前を右に曲がって少し進むとフェンスで覆われていますが、丹波帯といわれる約2億年前に海底に堆積してできた赤い地層を観察することができます。この地層は数cmの層が重なっていて、しゅう曲しています。この赤っぽい石をチャートといい、放散虫が堆積したものです。チャートは火打ち石(ひうちいし)の材料として使われてきました。

E登山道右手の川
  現在は河川の改修が行われたため、むずかしくなりましたが、花崗岩の浸食地形の観察、小規模なV字谷、褐簾石や升石(黄鉄鉱の風化したもの)、磁鉄鉱、ジルコンをパンニングをするとでみつけることができました。
パンニング法 
川の砂やレキの堆積している所をさがす。この場所選びが大切で、流れのスピードが落ちて鉱物が下に落ちる所を探します。
堆積物の下の方の砂やレキをシャベルで堀り、ボウルの上にざるを載せて、大きなレキを取り除く。ボウルの中に集まった砂の中から鉱物を取り出すため川の流れを利用して、ボウルを回し軽い砂を捨て、重い鉱物がボウルの中央に残るようにします。採集した鉱物をビニール袋に入れます。


準備物          
料理用ボウル、ざる、鉱物をいれるビニール袋、長靴、シャベル

F登山道の右横砂防ダム
依然は砂防ダムの奥にペグマタイトを観察できた所ですが、現在でははっきり確認できなくなっています。しかし、川の近くでは長石(写真D)、石英、雲母を観察することができます。

  石英   半透明ガラスのような粒
  長石   白色でへき開がある。
  黒ウンモ 砂金のようにキラキラ光っている。本来は黒色で風化している。

G千人塚
  川にそって登っていくと、正面に砂防ダムがあり、その前の小さな橋を渡り、登山道を登っていくと白っぽい花コウ岩と黒っぽい(ホルンフェルス)が混じって見ることができるようになります。やがて千人塚と書かれた石碑(写真F)のある所に着きます。千人塚は応仁の乱のころ大文字山に小城があり、1550年戦火があって、その時人骨を集め、供養した所だとされています。
数は少なくなりましたが、千人塚の黒っぽい石を観察すると六枚の花びらが集まったような結晶になったもの(薫青石ホルンフェルス)と金色の雲母のようなもの(風化の激しい桜石)(写真H)、まれに紅柱石を見つけることができます。

写真C 登山道の右横砂防ダム 写真D 長石 写真E 薫青石ホルンフェルス

H大文字 「大」の字の中央 
 千人塚より登りの道を行くと送り火の薪運搬用リフトの下ぐらいから再び花コウ岩地帯に入ります。花コウ岩でできた長い石段を登ると、大文字の「大」の字の中央に到着します。ここから京都市内を一望することができます。(写真G)

京都市内の地形の観察
京都市は三方山に囲まれ、盆地になっています。この地形が山城という名の起こりになっています。京都は山紫水明の都として千年以上栄えてきました。山が紫に煙るためには東山、西山、北山などの豊かな緑がなくてはなりません。また、盆地に空気が澱み、炊事の煙がたなびく必要があります。鴨川や桂川の清水が京都の自然を形成しました。京都の良さ「古都千年」はこの自然の良さがベースにあります。さまざまな自然破壊・街壊しは、やめてほしいものです。
 北山の山並みは高さがほぼそろっていることに気がつきます。今から数百万年前になって、まわりの山々がしだいに隆起し、盆地ができはじめます。その後何度か海が入り込み、退き、大阪層郡という地層ができ、湖や沼が残りました。まわりではシカやゾウが遊んでいたことがわかっています。
比叡山や比良山は現在も隆起しているため山地になっています。この山地と京都盆地との間には断層ができます。昔から若狭から鯖を都に運んだため鯖街道というれた所には現在も動く可能性がある花折れ断層が存在しています。この断層が動けば、京都市内も大きな地震に見舞われることが心配されています。

F 千人塚 写真G 京都市内 写真H 珪岩

I大文字山山頂
 さらに山頂をめざいて、階段を登るとクマ笹の尾根道を歩くことになります。しばらく行くと縞模様の大きな岩が道に露出しています。珪岩といわれるチャートのホルンフェルスでたいへん固い岩(写真H)です。ここまできたら山頂はもう間近かです。山頂には国土地理院の三等三角点(写真I)と六角形をした菱形基線測点(写真I)と呼ばれるコンクリートの柱があります。京都盆地の東・西・南・北に設置されているものの一つで、この上に測量器具を置いて、四地点の間の距離を測り地殻の変形を調べるためのものです。

J太閤岩
 下山途中砂防ダムより左手の細い道を下ると太閤岩に出ます。ここは豊臣秀吉の時代に石を取り出した石切場の跡です。比較的新鮮な花崗岩と褐簾石(写真K)を観察することができます。褐簾石は太さ1mm以下のシャープペンシルの芯のようなものです。明治30年に日本で初めて確認された放射線を出す鉱物です。

大文字山の野外観察コースは古くから京都の地学教育の代表的なフィルドとして、先輩方が築き上げてこられた教材です。小学校、中学校、高等学校、大学の野外での貴重な自然体験の場として捉えられてきました。21世紀も自然に接する大切な教材として、利用していきたいものです。

写真I   三等三角点と菱形基線測点 太閤岩 写真K  褐簾石

                      

 新緑の日曜日、京都パスカルのメンバーが大文字山で珍しい鉱物をさがそうということで銀閣寺山門に集まってきました。講師は鉱物につんてたいへんくわしい高田先生です。先生の話を記録にとろうとテープレコーダやカメラ、ビデオを手に持っています。家族を連れて北人もいます。高田先生の話が始まりました。「石畳の黒い石をよく見てください。白い粒が入っていますね。この粒はキンセイ石といい、泥岩にマグマが地下奥深くから入り込んだ時、泥岩がマグマの熱で焼かれてできたものです。」今まで黒い石にしか見えなかった メンバーは銀閣寺の左側の登山道に向かって歩いていきます。登山道の右側にはきれいな川が流れています。高田先生は料理用ボールとザルを取り出して、川に降りていかれます。ボールの中にザルを入れ、シャベルで川底の砂や小石を入れます。大文字山には花コウ岩というマグマが冷えて固まった石があり、川底の白い砂は花コウ岩がくずれてできた石です。この砂の中には砂鉄やカツレン石といわれる鉱物が含まれています。ザルとボールを使い水の流れによってね重い鉱物を砂とより分けます。残った砂を注意深く観察すると、シャープペンシルの芯のようなカツレン石がのこっています。 みんなは手に手にボールやザルを使って、砂のより分けに夢中になっています。一回のパンニングで1つぐらいのカツレン石を見つけ、「やった」と大きな声を上げています。なかには3mmぐらいの立方体を見つけた人がいます。これは黄鉄鉱という鉱物が風化してできた升石といわれるものです。 しっかりパンニングを楽しんだ後は、さらに登山道を登り、千人塚といわれるところに着きました。ここではキンセイ石や紅柱石と言われる鉱物を観察することができます。その後、少しきついですが、階段を上ると、見晴らしの開けた所にでます。 この夏休みボールとザルを持って鉱物を探しに出かけて見ませんか。

京都パスカル   金剛晴彦
参考文献     京都の地学図鑑  益富寿之助   京都新聞社
         遊々サンエンス   京都パスカル  新生出版