広瀬光治の「魅惑のニット」


「毛糸だま」という編み物雑誌がある。編み物好きなわたしは結構ヘビーな読者だったりするわけだが、数年前、そのなかのある写真に目が釘付けになった。
「魔法の一本針」という、かぎばりとアフガンと棒針をいっしょくたにしたような新しい編み物があるのだが、その技法を全国に広めている様子を毎号連載しているコーナー。それはいい。あんまりそういう新しい技法には興味がなかったのでよく見てなかったのだ。問題はそれを教えている講師の姿。若いおにいさんだが、なんか変。そう、来ているセーターが思いっきりクロッシェレースなのだ。普通メンズはかっちりしたアラン模様とかで透かし編みなんかは着ない。「なにこいつー」いそいでバックナンバーを広げ、毎号毎号違うけど透かし編みのセーターを着ていることを確認。「へ、変な奴ー」それが広瀬光治という人を認識したはじめであった。
編み物をする男性はけっこう多く、橋本治なんかもものすごい凝った編み込みのセーターの本出してたりする。一時、「男が編んで女に贈る」なんつー本も出ていたが、最近見ないとこをみるとその考えはうけいれられなかったのだろー。でもそれにしたって透かし編みはないぞ。
それはそれきりで終わった話であったが、しばらくあと、たまたま教育テレビの「おしゃれ工房」を見ていると、そのおにいさんが出ているではないか。「あー知ってるー」おかんはすっかり知った顔で「いっつも出たはるよ」とのこと。へーそうなんだーとかいううちに、どうやら世間の人々はみんな「こいつ変ー」と思っているらしいことが判明。ナンシー関女史とかも注目している様子である。

そんなこんなでこの春から機械編みを習いにいっているわたしだが、このヴォーグ学園はありとあらゆる手芸を普及させようとしているので、機械編み以外にもあたらしい手芸が発明(笑)されると材料費のみ(とかいいながらこれが高い)だけで教えてくれたりするのだが、あんまり新しい手芸ってのは表面的で深く面白くないのだな。だから機械編み以外のことには首を突っ込まないようにしようと思ってたんだけど。
機械編みの教室でプリント配られる。
’98NAC ヴォーグ学園秋期支部研修会
「今回は広瀬光治先生をお招きして・・・」
行くぅー、絶対行くぅー!!

テキストとして「魅惑のニット」という本が指定されている。そういえばこの前の「毛糸だま」で広瀬ちゃん本出るって書いてあったよなーチェックするの忘れてた、というわけで学園でさっそく購入。なんていうか。凝っている。とにかくレースが好きらしい。かぎ針編みあり、アフガンあり、機械編みあり、どれもこれも凝っている。なんかわたしの趣味と違うし、という感じ。そこここに広瀬先生セーター姿の写真があって広瀬先生マニアにはたまらん構成。
今度の研修会は教材としてそのなかのマフラーとポシェットが指定されているので、よし、ポシェットくらい編めるでしょ、さっそく挑戦。・・・しかし、かぎ針あみ苦手なんだよなわたし。よくわからないままにモチーフ編み上げる。あってんのかよーこれで。あ、間違えてる、そうかこういうふうに編むんだ。というわけで、機械編みの先生に確認したりなんかして研修会までには適当にポシェットを作ったのだった。

10月には心斎橋大丸で、「おしゃれ工房」の展覧会があり、そこに広瀬先生も出展とセミナー開催てことで来られてたそうで、うちのおばあちゃんはわたしよりも早く、そこで「ナマ広瀬」していたのであった。すばやい、おばあちゃん。

直前に出た「毛糸だま」によって、以下の広瀬ちゃん知識を得る。
1.高校時代、クラスの男子全員が彼の編んだミトンをしていた (手袋じゃないとこが・・・)
2.普段からこんな格好をしているわけではないらしいこと(うそつけ、と思ったよ)

そして、10月31日研修会当日。
10時スタートということで、ほとんど休日出勤状態。早起きして用意して、手編みのセーター着て、行ってきます。一応事前に「みんなサインもらったり写真とらせてもらったりしてるらしい」という情報を得ていたのでデジカメ持参。
・やっぱ化粧してたんだ
10時スタートなのに直前に到着。教材費とか研修会費とかいろいろ払う。教室に入ると、お、すでにセンセイが。白いカーディガンでお顔も白塗り!ファンデーション塗ってるよー。
あんまり前に陣取るのも気がひけたので、うしろのほうに席をとるわたし。そのうちに機械編みのお友達到着。
・よくしゃべる
そして研修会スタート!マイクをにぎった瞬間に堰をきったようにしゃべりだす彼。どうも世間様が自分をどう思っているかがものすごく気になるらしい。小林聡美の本でいろいろ書かれていること、ナンシー関の「ラジオ消灯時間」にも載っていること、そして最新の週刊文春の「ラジオ消灯時間」にもいろいろ書かれてること。
その週刊文春を買いに駅まで行ったら、みんなが振り返った、せっかく編むのだから注目を浴びるようなものを編みたい、とのこと。振り返ったのは編み物のせいではないのでは?と思ったわたしだった。
つかみはok,というところで、そのあとは「魅惑のニット」のなかのほとんどの作品のショーと解説。このニットの特徴はどうだ、とか、本ではこの糸を使っているが実際にはほかのこの糸のほうがいいと思う、とか、色目はもう少しこうしたほうがいい、とかけっこう参考になる話がいっぱい。テキストにメモメモ。
彼は今でも「日本ヴォーグ社」の編集社員であるため、今回の「魅惑のニット」は、当初NHK出版が本を出させてほしいといってきたが、自社から社員の立場で出したとのこと、だから印税が入ってきたりするわけではないらしい。大変だな。アシスタントとかもいなくって、何から何までひとりでやってるらしい。そのショーに出てきたニットとかも自分で荷造りして、運んでるらしいっす。つらいな、サラリーマン。そのあと、学園の先生がたがデザインされたニットの紹介があって、午前の部は終わった。
サインもらった
メシ食って教室に帰ってくると、なんとセンセイはお色直しをされていた。今度は紫のカーディガンだ。パンツもパープル系。みんながテキストにサインしてもらおうと並んでたのでわたしも並ぶ。きゃーどきどき。
わたし「こんにちはー。インターネットでもすごい話題ですよ」
センセイ「えー何言われてるんですかー教えてくださいよー」
それはちょっと教えられないな、とか思う・・・
一部一緒に写真撮らせてもらってる人達もいたけど、内気なわたしはお願いすることができなかったのだった。次回はきっと!
ちなみにサイン、以前のものと変わっているらしいです。
・テクニックの嵐
午後は「魅惑のニット」に使用されているテクニックの実習。「チェーンペトゥールを輪編みにするときのつなぎ方」「かわった縁編みと変わった模様編み」「サクラのモチーフ」のみっつ。だからかぎ針苦手なんだってばぁ、とじたばたするわたし。センセイはさっさと板書して「できましたね?では次の段に行きます」わー待ってくださいー。というわけでめっちゃ疲れたのだった。
結局、買わされた教材は一切使用せず。だまされてるよなぁ。
「おしゃれ工房」に登場するせいで、あちこちで有名人扱いされてしまうという話を披露。飛行機で、隣に俳優さんが座っていて、空港に着いた際に降りようとしたら後から「握手してください」という声が聞こえ、てっきりその俳優さんに言ってるんだと思ったら自分にだった、という話とか。
あと彼はあのややこしいセーターを3日とか4日とかで編み上げるらしい。全員から「おい」というツッコミに似たざわめきがあがっていた。そういうものなのかな、プロって。
・普段着も(以下略)
きょうは以上でお開き。「編み物を趣味として書いてる人が多いですが、編み物はれっきとした特殊技能ですから、特技に書いてくださいね」とのことでした。
「疲れたねー」とか言っているうちに、再度衣装替えしたセンセイが。白のブラウスにフリフリのボウがついてて、その上にモスグリーンのちょっと凝ったデザインのブレザー。パンツもさっきと違って黒のストライプである。もしかして、それが「普段着」なの?やっぱりフツーじゃない気が・・・でっかいスーツケースに、持ってきたニットを詰め込んでいる彼だった。



追記:そのあとの広瀬先生講習会にて、先生がこのページを読まれたことが発覚。びびりまくるわし。かなりお怒りでした・・・
先生はホームページも開設されていて、メール送ると高確率でお返事もらえます。
広瀬光治のニット工房

戻る