香り通信16区 香りからカラフル
Home Contact
香りへの想い入れ
特集・トピックス
香りへの招待
香りの豆知識
香りNews
香り関連リンク集
香りの図書
香りの洋書
香りへの想い入れインタビュー

日本人も、もっと香りを上手に使い
'香りのある文化や生活習慣'を

(株)資生堂 研究開発本部 第一開発研究所
 チーフパフューマー 中村 祥二氏

最近の日本においての匂いや香りの傾向や動向について教えて下さい。

2つの傾向があると思います。1つは、「無臭にする」ということ。専門用語では、「ニュートラルにする」と言いますが、これは、「ない、中性の」という意味で、悪い匂いに対してそれを消すというように考える傾向があります。

2つ目は、「匂いを利用し、楽しむ」という傾向があり、その中にも2つの方向があって、(1)アロマテラピー、アロマセラピーという匂いや香りを利用して、健康増進やリラクゼーションなどをしようとするもの。香りを楽しむ。香水やオーデ・コロンなどの香りの商品を使っていくという方向があります。

空間の匂いにおいて、「ニュートラルにする」ということは、どういうことなのでしょうか。

空間の匂いにおいては、(1)居住空間(2)仕事場の空間(3)環境空間の匂いを消す、減らすという場合があります。

例えば、ゴミ焼却場、化学工場なども匂いを出さないように設備を完備をしていますね。

また、パン屋やうなぎ屋の前を通りかかると、ついその匂いに誘われて、店に入ってみようかという気になりますが、これは人を匂いによって誘引しようという効果、PR効果があります。しかし、その近所に棲んでいる人たちいとっては、必ずしもいい匂いとはいえません。というのは、「どんなにいい匂いでも、6時間、もしくはそれ以上ずっとその匂いを嗅げ続けると、‘うんざり’してくる。だんだん、いい匂いとは感じなくなっていきます。

この2つの例は、居住や環境空間における匂いについての話です。

次に、仕事場空間の匂いについてですが、会社でのタバコの脱臭などは、盛んに行われていますね。

生活空間(とくに家庭)の匂いですが、色々な匂いが混じり合っており、ゴミの匂い、玄関の匂い、トイレの匂いなど様々匂いのミックスチャーです。匂いは、1、2種類程の単純な匂いであれば消しやすいのですが、複数混じっていると消臭しにくいという特性があります。

それで、ご存じのように、「トイレ用の消臭」「玄関用の消臭」などと商品がそれぞれ空間、タイプ別などで分かれているわけです。

次に、「消臭」について、お話を聞かせて下さい。

よそのお宅にお伺いすると、その家の匂いがありますね。最近は、そこに、空間芳香などが使用されるようになって来ました。匂いにも色々な化学的性質があり、その匂いを消すにもそれぞれ消し方が違います。

酸にもとずく匂い、すっぱいような匂いや、アミン関連の匂い、硫黄化合物の匂いなどがあり、それぞれ消臭の仕方が違います。

現在、脱臭・消臭商品がたくさん市場に出回っていますが、これについて、お話を聞かせてください。

この脱臭・消臭剤は、場所によって選ばれた消臭がそれぞれあります。例えば、トイレは、アルカリ性の匂いなので、アルカリを中和するような匂いでなければなりませんね。

また、よく魚を食べる時に、レモン汁をかけますが、これは、レモンの酸が、魚の臭さ(アミン系)を中和させる作用があります。同時に、レモンのさわやかな香りで、魚をより美味しく食べさせてくれるというわけです。

また、硫黄化合物が出ると、異常に臭い、悪臭になります。例えば、肉の腐った匂いなどは、アミン系統と硫黄化合物のものです。この他に身の廻りにおいての硫黄化合物の匂いとしては、パーマをかけた後の匂いがそうです。あの匂いは、パーマ液、薬剤の匂いではなく、髪の毛の中に‘システィン’というタンパク質の成分で、硫黄を含むアミノ酸物質があり、そのもの自身は、髪の中で結合しているので匂いはありませんが、そこに硫黄化合物が入って結合が切れてしまい匂いを発するというわけです。

この他に硫黄化合物の匂いとしては、‘ゆで卵の匂い’や、硫化水素のような温泉の硫黄泉の匂いなどがあります。

「人の匂い=体臭」についてお聞かせ下さい。

体臭は、とても複雑な要素をもっており、‘人の匂い’であり、犬や猿の匂いとは違います。しかし、猿とは一部重複しているところもありますが、人種や、性別によっても違います。

体臭というのは、人間の免疫をつかさどる遺伝子によって異なるということが発見されており、この免疫というのは、人によってそれぞれ違います。例えば、やけどをした場合、自分の皮膚であれば、移植して付着しますが自分以外の人体(親兄弟などの肉親であっても)の皮膚をもってきても付着しません。

これは、容貌がそれぞれ違うように、遺伝子が違うからです。一卵性双生児は、例外です。

その他に体臭を支配するものとしては‘食事’や‘病気’‘口臭(病気の一種)があり、それには、急性のものと慢性のものがあります。

「メイプルシロップ尿」の匂い
‘病気’による例として、赤ちゃんの病気の一つで、アミノ酸代謝の異常により、特別の匂いのする「尿」を出すことがあります。これを、「メイプルシロップ尿」といいます。この尿は、ホットケーキにかけるメイプルシロップの匂いと同じ匂いがします。
これをほっておくと、赤ちゃんが脳障害を起こしてしまうのです。しかし、母親はその尿の匂いが変だと気がつき、病気であることを発見します。その尿を分析してみると、本物のメイプルシロップと同じ成分が出てくるそうです。他に、糖尿病の人の匂いや、病気をして薬を飲用している時もなども、その薬に基づく匂いなども出てきます。

恐怖・緊張による匂い
人間が、非常に緊張した時に、匂いを出したりします。恐怖や緊張感がある時などです。
例えば、戦争での撃ち合い、レスリングや柔道などの格闘技などの試合の時には、人間は、独特の体臭を発し、その体臭から、いかに早く逃れるかを感じるそうです。
韓国オリンピックに出場した日本のレスリングの選手の話ですが、トルコ選手と対戦したときに、ある男子選手が‘戦いの匂い‘というか独特の匂いを発していたと言っていましたね。
これも、緊張感や精神の高揚によるものなのでしょう。
他に例を上げると、犬が怖い人が、犬を見ると怖いと感じるでしょう。その恐怖感により、体臭を発したりするのです。そして、優れた嗅覚を備えた犬は、敏感にその匂いを嗅ぎとり、感じて吠えたり、噛んだりしてしまうのです。

職業にもとづく匂い…ペストの匂い、アラブの祈祷師の話
職業にもとづく匂いですが、医者の匂い、パン屋さんの匂い、魚屋さんの匂い、肉屋の匂いなどがあります。
この肉屋の匂いは、「ペストの匂い」といわれ、ペストの時にこのような匂いがするそうです。
このように、体臭の上に香りを付けたりすると、香りが混じってしまい、一般の人は、香りの分析が出来なくなってしまいます。
ニンニクの匂いなどは、緊張しているのかどうかわからなくさせてしまいますね。
また、こんなおもしろい話があります。
自然人類学者であり、モンキーセンターの所長の河合雅雄さんから聞いた話ですが、中東のアラブには、本当の犯人を当てる祈祷師のお婆さんがいるそうです。
まず、容疑者を一列に並ばせて、占いをはじめる。すると、本当の犯人は、その恐怖によって体から匂いを発し、その匂いにより、犯人を当ててしまう。「うそのようで、ほんとうの話なんですよ。ぼくも、目の前でそれを見たんですよ。」と河合さんが言ってらっしゃいましたね。
本来は、緊張や恐怖感によって出た体臭により、自分に危害を加えようとするものに対して、‘匂い’で対抗するんです。オーバーに言えば、スカンクのようなものです。それを身をもって強く感じられる環境にいる人もいます。先程の試合中の格闘技の選手もそうです。

キアゲハの幼虫の匂い
キアゲハの幼虫がだんだん大きくなってくると体の色が緑色になってきます。そして、子供などが、これに触れようとすると、頭からオレンジ色の角を出します。
これを、‘肉芽’といますが、これがものすごくいやな匂いを出すのです。そして、子供はその匂いにたじろいでしまいます。つまり、キアゲハの幼虫は、匂いを発して、身を守ろうとするのです。
人はその状態、基本的に健康な状態の時の体臭は、そんなに悪い匂いではありません。体臭には、とてもいい香りの成分が入っています。
特に人間の場合は、男性の方がいい香りの体臭成分であるアンドロステノ―ルを多くもっています。
それはテストステロンという男性ホルモン(筋肉増強剤などに使われているような)とは化学構成が多少異なっていますが、男性ホルモンと密接な関係があります。このようなものは、サンダルウッド(白檀)の匂いが混じったようないい香りがします。
体臭の成分には、色々な成分が入っていて、その中に、アンドロステノールというものがあり、これは、ムスクや白檀などの感じのいい香りです。これは、男性が出している匂いであり、それがフェロモン様物質といわれており、‘人が人を誘う香り’です。
したがって、体臭はいやものばかりではなくて、そういうフェロモンのようなものが秘められていると思います。 体臭をゼロにすることは、日常生活をにおいて活動し、色々な匂いを発している人間にとっては、非常に難しいことです。
体臭は、‘人のぬくもり’や‘その人らしい匂い’を感じられるとことがあり、一概に‘いやなもの’とは言えないと思います。

文化、人種による匂いに対する考え方の違い
例えば、日本人とフランス人では、体臭に対する考え方が違いますね。フランソワーズ・モレシャンさんが、「恋人と会いに行く時に、シャワーを浴びて行くなんてもったいない。そのまま出かけるのがいいのよ。」「そのほうが、相手にとっても、お互いの匂いを感じられ、魅力的です」とおっしゃっていますね。
これは、文化や歴史の違いなどで、体臭に対する考え方が違ってきているからでしょう。
‘体臭’は、その人の「アイデンティティー」でもありますし、女性とすれ違った時に、まったく匂いがないのは、とても‘何かもの足りない’気がしますね。1つの個性というものが、欠けている感じがするんです。
体臭がゼロということはありえないことですが、人は、好む好まないによらず、‘体臭の薄い膜に覆われている’のです。
それに、香水やオーデ・コロン等の香り製品を付けるわけです。
そして、この体臭と香りには、‘相性’があることも忘れてはいけません。

香りの選び方
よく、デパートなどの店頭では、香り製品を選ぶ時には‘ムイエット (mouillette)’(匂い紙)で嗅いだりしますが、本当は、直接皮膚に付けて時間をおいて、自分の体臭と混じってどういう香りになるのかを確かめて選ぶのが、賢い選び方だと思います。
海外にいくと、いちど直接皮膚に付けてから、他の買い物などをして、時間をおき、気に入ったらまた売場に戻って、買う。という人が多いようです。そして、香り選びも慣れてくれば、わりあい早く判断できるようになるようです。
これも、若い時から、香りを身に付けて楽しむという文化や生活習慣によるものなのでしょう。
日本人も、もっと感受性の豊かな若い年齢から、香りを身に付け、自分に合った香り、賢い香りの選び方、そして、香りを生活の中の様々な場面で活用していけるような文化や生活習慣が定着していってほしいものです。

●●●

中村 祥二氏 プロフィール

(株)資生堂 研究開発本部 第一開発研究所 チーフパフューマー

経歴:
東大農学部農芸化学科卒
仏調香師協会会員
国際香りと文化の会理事

(株)資生堂で、長年にわたり香料・化粧品の香料開発に従事。日本人パヒューマーの第一人者。著書「香りの世界をさぐる」「香りを楽しむ本」など

Back Number
Page Top
 
Copyright 2003 Parfumeur Club Co. Ltd. All Right Reserved. Parfumeur Club