リオのカーニバル

ブラジルでは、リオのカーニバルのことをポルトガル語で「カルナバル」と呼びます。1996年の2月、真夏のリオで見たカルナバルについて書いてみます。

場所と期間会場と観客サンバチーム得点と順位リンク

場所と時間

 カルナバルは、毎年2月のある週末から、翌週にかけて開催されます。

 ブラジルの人々にとって、カルナバルは正月のようなもの。この時期のリオデジャネイロは観光客ばかりで、普通の商店は店じまいし、また多くの地元の人は避暑で都会を離れます。ですから、カルナバルの数日間だけリオデジャネイロに投宿する人は、ふだんの街の姿を知ることはできません。目抜き通りのヒオ・ブランコすら通る車も少なく、昼間はとても一国の首都とは思えない静けさです。

 カルナバルは夜から明け方にかけて行われます。徹夜でサンバのリズムに乗って踊り、昼は休み、また夜から踊りに出かけるというサイクルです。最終日の月曜日の夜も朝まで踊り、火曜日は一日休み、そして次の日は祭りが終わったことを実感する「暗黒の水曜日」。その翌日、木曜日からはまた来年のカーニバルを待ちながら普段の生活へ戻ってゆくわけです。

 カルナバルが開催される会場は、500mほどの細長いグランドと、それを挟む観客席を持つ小学校です。先述の大通り、ヒオ・ブランコにも、地元の有志が山車を引いて踊る姿が見られますが、ここではいわゆる「リオのカーニバル」、テレビなどで紹介されるこの会場の様子を紹介します。

会場と観客

 カルナバルの観客席は、いくつもの段階に分けられています。これは、席によってサンバの見やすさが大きく違うからです。サンバチームが通る通路のすぐ脇はチケットの値段も高く、白い丸テーブルに白い椅子が並べられてちょっとしたオープンカフェのよう。入り口で協賛ビール会社のTシャツをもらうと、テーブルの上にはすでにカルナバルのパンフレットや各チームの紙うちわが置かれています。さらに、マクドナルド的ファストフードの店員が注文をとりに来てくれ、まさに至れり尽くせり。この席のチケットはR$200。R$はブラジルの通貨 "Real"(ヘアルと発音)で、1ヘアルは1996年当時でほぼ\100でした。つまりこの席は2万円というわけで、ブラジルの経済から考えるとかなり高価です。当然ここの席は白人の観光客が多くを占めており、地元の人はほとんどいないようでした。

 このかぶりつきの後ろは競技場のスタンドと同じで、コンクリートの段が会場の端まで続いています。ここにもサンバの見やすさに応じていくつかのレーティングがあります。たとえばチームが出てきてから、しばらく音しか聞こえない席は30ヘアル。もっと安い席もあります。これはサンバチームが通る通路からも少し離れており、もちろん一番サンバが見づらい席です。この席はわずか5ヘアルで、観客もやっとその値段のチケットを買えるという生活水準の人たちばかり。しかしこの人たちは観光客などと違い、サンバを一番愛しており、カルナバルを一番楽しみにしている人たちです。当然この席の盛り上がりが一番でした。

 実はさらに貧乏な人たちも、カルナバルを見ています。会場のすぐ脇を陸橋が走っており、この欄干に鈴なりになった人たちが見えました。一方で、会場の小学校の教室をまるまる一つ借りる人もいます。この値段は聞きもらしましたが、おそらく数万ヘアルはするのでしょう。地元の金持ちがここに家族や親族一同を集めてサンバを観賞するわけです。貧富の差が大きい国ならではの格づけです。サンバを愛する「サンビスタ」もいろいろなのでした。

サンバチーム

 カルナバルに参加するサンバチームは、楽隊、ダンサー、アレゴリアと呼ばれる山車の3つに分けられます。

 楽隊の人数はチームによってまちまちですが、最低でも100人はいるようです。ボーカル、ギターなどの電気が必要なパートは、アンプを積んだワゴンの上に選挙カーよろしく立っており、なかなか気分よさそう。その回りを打楽器系の人たちが取り囲みます。

 ダンサーたちは人数がとても多く、1チームが10くらいのグループに分けられています。一つのグループが目測で100人から数百人ですから、チーム全体では数千人になる計算です。このグループごとに同じ衣装を着て、会場をねり歩くわけです。こういった「その他大勢」な人たちは、「衣装を買う」という形でお金を払ってチームに参加しています。一方オーディションなどを勝ち抜いて出場するのが、一部のダンサーと山車に乗る人たちです。選抜ダンサーの中でも、チームの旗を持つことができるのはたったひとり。1997年のカルナバルでは、チームの中で最も名誉あるこの役を日本人が勝ち取ったということで、日本のニュースでも取り上げられていました。

 アレゴリア(山車)は、衣装やテーマ曲と並んで、チームをアピールする重要な要素です。各チームとも工夫を凝らしたアレゴリアを10程度製作します。アレゴリアは人力で押されてゆきますが、この操縦もなかなか難しいようで、時にはコースの脇につっかかってしまい、にっちもさっちも行かなくなってしまうものもありました。

 このような構成のサンバチームが、会場のコースを歩いてゆきます。一つのチームの持ち時間は1時間半。コースを歩き終えたらチームはそのまま解散です。このわずかな時を求めて、サンビスタたちは日々の生活を送り、衣装を買うお金を貯め、各チームの今年のテーマ曲を収めたCDやテープを聴いているのでした。

得点と順位

 カルナバルに参加するサンバチームは、AクラスからCクラスまで分けられています。初日の金曜日はCクラス、2日目と3日目は一番盛り上がるAクラス、最終日はBクラスのチームが出てきます。

 各チームの持ち時間は1時間半、一晩に9つのチームが登場します。その日のカルナバルが始まるのが夜の6時ですから、単純に計算してもすべてのチームが出終わるのは翌日の日が上がってからになります。加えてどうしても時間をオーバーしてしまうチームもありますから、ラテン系のスーダラさも手伝ってどんどん時間は延びてゆくのでした。

 さて、実はリオのカーニバルにも審査員がいます。各チームのテーマ、衣装、曲、楽隊のテクニック、アレゴリアの出来ばえなどから総合的に判断されるわけです。時間オーバーは大幅な減点になりますから、各チームともそのあたりは気を配っているはずですが、なかなかうまくいかないところもあるようでした。


ということで、ブラジル旅行の目玉だった「カルナバル」についてでした。地球の裏側で見ることができた、いろいろなcross cultural的ものごとについても、そのうちお話ししたいと思います。