ひとつめのゴミ 48 letters


宮沢章夫


また屋へ行ってしまった。

なるべく行かないようにしているのだが

うっかり行ってしまう、つい3時間と2万円を使ってしまう。

でも今日は大変な収穫があった。

僕の人生の師書『牛への道』の続編といえるエッセイが、

知らぬ間に出版されていたのだ。

とりあえず、3冊づつ買った。

そう、『牛への道』を3冊と、『わからなくなってきました』を3冊だ。

『牛への道』の方は、既に3冊買っていたので、

計6冊を購入したことになる。もちろん、枕にするためではない。

枕にするは小さすぎるし、固い。

積み重ねて踏み台にするためでもない。

それにはちょっと不安定だし、作者に失礼だ。

また、冷凍庫に冷凍保存してくわけでもない。

そんなことをしてどうする。

なぜそんなに買うのといえば、これ、おもしろいよ、と言って

友達に貸しては、行方不明になってしまうからだ。

その度に買い直てきたが、今後も同じ事が起こるだろうことを予測して、

3冊ずつ買ってきた。それくらいオススメの本であり、僕の人生の師書なのだ。

だが、ここでもまた、気を付けなければならなことがある。

この2冊の本は、読む場所と状況を考えないと大変なことになる。

ふつう、エッセイと言えば、細かく章が分かれていて、

ちょっとした時間に読むのに丁度いい。

しかし、この2冊をエッセイだからといって甘く見てはいけない。

たとえば、電車に乗って、下りるまでの間に読もう、と考えてはいけない。

読んだら最後、つらい思いをして笑いをこらえるか、

吹き出して周りから変な目で見られるかのどちらかだ。

さらに、宮沢ワールドにはまり込で乗り過ごす可能性も大きい。

同じ理由で、喫茶店でオーーしたものが出てくるまでの間、とか、

公園で一息つく間、とか、病院で名前を呼ばれるまでの間、とか、

ハチ公の前で友達が来るまでの間、とかにも読んではいけい。

ハチ公の前ならまだしも、ハチ公にまたがって、だとかなりまずい

溺れる人を横目に、や、火事のさなか、もやめた方がいい。

そこでは読む以外に、もっと他にするとがあるはずだ。

そう、つまりこの本は、自分の部屋で、ひとり、誰にも見られずに、

読まなけばならないのだ。

そうすれば、プププっと吹きだしても、ニヤリとほくそえんでも、

膝を叩いても、踊り出しても平気だ。

いや、踊り出すのはどうかと思う、それも君の自由だ


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