ひとつめのゴミ 48 letters



 「ギネスブック」なるものを、友達が譲ってくれた。暇つぶしに、パラパラと一通り眺めてみた。

 この『世界記録事典 ギネスブック'96』を開くと、まず目次の後に「ギネスブック'96に載った日本関係の記録」の一覧がある。日本は乳児死亡率が最低で、平均寿命が最高なのだそうだ。これでは人口が増えるばかりじゃないか。
 しかし、注目すべきなのはそこではない。
 その一覧の後に、細かく分類された事典の本文がはじまる。写真をパラパラと眺めながら、ここは適当に読み飛ばす。
 そして巻末に「公式ルール集」が掲載されている。このルールに従って、誰でも記録にチャンジできる、というものだ。「牡蠣の殻あけ」から「逆立ちスプリント」まで約100種の競技について細かく規定されていることがわかる。 こんなものまで、という競技もたくさんあり、「公式」なだけにまじめにルール解説がなされているので、かなりおかしなことになっている。
 中でも、僕のちょっとどうかと思うナンバー1に輝くのは「牛糞投げ」である。

牛糞投げ。

 文字どおり、牛の糞を遠くに投げ飛ばす競技なのだが、このたくさの競技の中から「牛糞投げ」に挑戦するのはどんな人なんだろう。
 と思って記録保持者の掲載ページを見てみると、なんと、「牛糞投げ」は カントリー・スポーツとして制定されているしい。カントリー・スポーツとはなんなのか、他にどんなものがあるのか、疑問は残るが、とにかく「制定されている」のだ。 制定されているということはつまり、認められている、ということで、ちょっとどうかと思ってしまったことが申し訳ないような気がしてしまうから不思議だ。
 そしてまた「公式ルール集」に戻ってみる。「牛糞投げ」のルールのまず最初の項にこうある。

 (1)各挑戦者は、2度ずつ牛糞(乾燥したもの)を投げることができる。

 投げることができる。乾燥したものを。これはルールというより、挑戦者の願いではないか。少なとも、僕は乾燥したものであってほしいと願う。さらに言えば、「投げることができる」のは1度だけにしてほしいものだ。
 いや、勘違いしてはいけない。これは罰ではないんだった。スポーツなのだ。
 と考えを改めてふと左側のページに目をやると「水切り」という競技のルールが書かれていた。水切りとは、子供の頃よくやった、水面をスキップするように石を投げる、あれである。
 ここで注目すべきは、次の項だ。

 (4)水切りの挑戦は、国際水切り連盟(PO Box 189,Drifwood,Texas 78619,USA) によって承認された審判員の立会いの下で行われなければならない。

 国際水切り連盟。いったいどういう連盟だろう。水切りイベントの企画などやっているのだろうか。世界各国の水切りチャンピオンが集って、国際水切り競技会なるものが どこかで行われているのかもしれない。日本人の審判員もいるのだろうか。でなければ、日本でこの競技に挑戦しようとすれば、アメリカから審判員を招かなくてはならないことになる。審判員も、やはり水切りがうまいのだろうか。承認された、というくらいだから、承認試験のようなものがあるのだろう。やはり、正確にスキプの数を数えられるかどうかの試験と思われる。そもそも、なぜ彼は、試験を受けまで審判員になろうと思ったのか。「いやぁ、趣味が高じてね」なのか。さか「子供の頃からの夢でね」なのか。「息子がね、お父さんが審判員だったらかっこいい、って言うもんでね」かもしれない。

 『世界記録事典 ギネブック'96』を閉じて、今僕は彼について思いを巡らせている。彼に会うためには、公式ルールに則って、水切りの記録にチャレンジしなければならない。その前に少し、練習しておく必要もあるだろう。いろいろとめんどくさそうなので、もしどなたか水切りのギネスに挑戦する方が居たら、ぜひ観戦させてください。
 連絡お待ちしています。


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