アフタヌーン・ティー

「ねぇ、薫〜!これぇ〜!!」
「はいはい、もうちょっと待っていてくださいね」
手に持つクッキーを櫻井に食べさせようと、まとわりつくこだまを宥めながら、ポットを暖める為やかんを火にかけた。

「…さて、今日のお茶は何にしましょうか」
先ほど焼きあがったばかりのクッキーをお菓子皿に並べながら、何かに気が付いたように手を止めた。
ドアの方…正確にはその先を見つめ、フッと笑みを浮かべると出してあったカップを片付け、種類の違う 細長いガラスのカップを取り出した。
「そろそろお客さんも来る頃ですね。さぁ、こだま、迎えに行ってあげてください」
クッキーを頬張っていた為、口の周りはおかしだらけだったこだまは、櫻井にやさしく拭いてもらうと、うん!と元気よく頷きドアの方へ駆け出していった。
その様子を母親代わりの青年は、暖かな目で見送ったのだった。




今まさにドアをノックしようとしていたキスリィンは、勢いよく開かれたドアにびっくりして一歩後ずさった。
「いらっしゃい!おねえちゃん!」
そのドアから勢いよく飛びついたのは、ピンク色の髪をした、かわいらしい子だった。
「こんにちは、こだまちゃん」
驚きからすぐに立ち直ったキスリィンは、こだまを抱き上げながら言った。
「よくお姉ちゃんが来たの分かったわね」
「うんとねぇ、薫が来るよって言ったの」
こだまは嬉しそうに後ろを振り返ると、ちょうど奥から櫻井が出迎えに来るところであった。
「こんにちは、櫻井さん。今日もよろしくお願いしますね」
キスリィンはこだまを降ろし、櫻井に向かってペコリと頭をさげた。
「えっと、今日はフォートナムメイソンのダージリンとロイヤルブレンドなんですけど…」
そして手に持っていた籠を腕からはずすと櫻井に手渡した。籠には2種類の紅茶とマーマレードのビン が入っている。
「よくいらっしゃいました。いつもすみませんね。せっかくですから、今日はこれでロシアンティーにしましょう。どうぞ」
キスリィンから手土産を受け取ると奥へと促す。
調度良いタイミングでお湯が沸き、櫻井はテキパキと手馴れた様子でお茶の準備を始めた。
ポットとカップにお湯を注ぎ、暖めている間に用意していたお菓子をテーブルに並べる。

「最近はどうですか?」
櫻井は、こだまと遊んでいたキスリィンに向かって微笑みながら聞いた。
「そうですね…何とか落ち着いてきたと言うところでしょうか」
膝にこだまを抱え、じゃんけんをしながら何気なく答えるその様子はなんともほほえましい。
自然と笑みがこぼれる。
「えぇ、その様子も気になるんですけど…」
少し言いにくそうに言葉を濁した時、やっとキスリィンもその質問の内容に気がつき真っ赤になった。
「あ、あの・・・最近は上手になったって誉めていただけました。先生がうまく教えてくれるから…本当はあまり手際のいい生徒ではないですけどね」
顔を真っ赤にしてテレながらも、嬉しそうに櫻井を見て笑った。
「いえ、真面目に受けてもらってますから、教えがいがありますよ」
・・・実は数ヶ月前、キスリィンは眞生から櫻井の料理のはうまいと聞いたのだった。特に煮物が絶品だと。
それ以来、料理が苦手だった彼女は、櫻井に頼み込んで月に一度は料理を教えてもらっている。
誰の為なのかは、言うまでも無かった。
櫻井は話しながら暖めたポットに紅茶葉を入れてお湯を注ぎ、砂時計を逆さにする。
さらさらと落ちる砂が心地よい空間を作り出した。


「・・・それに、あなたや上杉少佐にはご迷惑をお掛けしましたからね・・・」
聞こえないようにつぶやくと、苦笑する様子ではるか遠くを見つめるように目を細めた。
遺跡崩壊の事件から早くも数ヶ月…ようやく世間も遺跡崩壊のショックから立ち直りつつあった。
櫻井にはこうなる事が予測できたが、だからといって自分のしたことが正しかったとは、いえない事も知っている。
事実、キスリィンの力が無ければ、自分は今ここにはいなかったであろう。
そのことに気が付いているのかいないのか・・・彼女は相変わらずこだまとじゃれている。


櫻井は自分の思いに耽っていたが、ふと気が付くと最後の砂が今落ちようとしている所だった。
あわてず紅茶をカップに注ぎ、ジャムをふたさじ入れてかきませる。
すると美しい琥珀色の液体に黄色いコンラストが描き出された。

「さ、冷めないうちにどうぞ」
細長いガラスのカップを彼女に手渡し、こだまの分は少し吹いて冷ましてやる。
「うん、やっぱり櫻井さんの入れた紅茶が一番おいしいわ♪」
キスリィンは嬉しそうにロシアンティーに口をつけた。そして興味深そうに訊ねる。
「今日はどんなお料理を教えていただけるんですか?」
櫻井の料理はお世辞抜きで本当に美味しい。
教えてもらえるようになってから、初めて自分でも手料理を作るようになった。
・・・もちろん自分以外のあの人に喜んでもらうために。
「そうですね、時期的に丁度きのこが美味しいので、味噌仕立てのキノコ鍋にでもしようかと思っているのですが・・・」
「わーい!お鍋だぁ!」
「いいですね。温まりそうだし、おいしそう♪」
やさしく微笑みながら答えると、嬉しそうな声が二人から届いた。
「でも夕食まではまだ時間がありますから、それまでもう少しお茶を楽しみましょう」


窓からさしこむやわらかな光…。
もうしばらくすればお腹を空かせた眞生や那生が、学校が終わった後訪ねて来るだろう。
それまでは、こうやってのんびりとした時間を味わえばいい。
櫻井はそう思う。


それは、とても幸せな午後のひと時だった…。


◆◆言い訳◆◆

これはですね、まだLAST_IONも出してない頃、ずっと前に考えついたものです。
ひたすらラブラブEDしか考えてないしろもの(爆)
もし違うEDだったら、きっと世の中に出てこなかったことでしょう…。幸せになれてよかったねぇ、キスリィン。
上杉少佐ストーリーだった為か、遠乃の中で櫻井さんは結構イイ人なんですョ。
ちなみに櫻井さんの能力が何故無くなっていないのかというのは、ストーリー中に”表に出さなくても使える能力”とあったので、能力がなくなっても”感が鋭い”程度はあるのではないかと思ってそうしました。

殺伐とした生活しか過ごせなかったmyPCは、きっと料理なんて出来ないだろうということで出来ました(笑)

 

2000-11-16