祈られてみた

道ばたで祈られてみました
 駅前や繁華街でよく声をかけられる。ナイスなおねーちゃんのお誘いなら嬉しいのだが、背にデイパック、地味な色のチェックかストライプのシャツにジーンズ、寝グセ頭に銀縁メガネの男に「あなたの健康と幸せを祈らせて下さい」。いらん。不健康で不幸そうに見えるってえのかい? その通りだチクショー!

 なんたら言う新興宗教団体(本人たちに「何教なのか?」と聞いたが忘れた)の布教活動である。割と余計なお世話なのでほっといて欲しいのだが、一度興味本位で祈らせたことがある。虎穴に入らずんば虎児を得ずというではないか。よくわからんが。

 JR水道橋駅から三田線に乗り換えるために橋と横断歩道を渡るのだが、自分はその一帯で奴らとよく遭遇する。関係ないが、胃薬のCMで水道橋→神田→飯田橋とあり得ない駅順をたどるのが気になってしょうがないし、てつ100%の「東京TAKOブルース」を思い出す。さらにそれとも関係なく、祈らせたのは中野駅前だった。
 たまたま来ていた生活圏外の中野。いつもなら声をかけられても通り過ぎるところなのだが、その日は立ち止まって話を聞くことにした。何事も経験である。「祈らせて下さい」と来たので「お願いします」と答えた。

「では私の気を入れますから、目を閉じて下さい」。素直に目を閉じた。すぐ開けた。向こうは目を閉じ、私の頭に手かざしをしていた。このまま逃げたら何もない場所に手かざしを続けるんだろうか、なんて思いながら、とりあえず薄目に切り替えて黙って待った。通り過ぎる人がこちらをジロジロと見ていくのを感じ、密かに頬を染めた。違うんだ、俺はコイツらが何を言ってくるのか興味があるだけなんだ。そんな目で俺を見ないでくれ。
「ハイ、目を開けて下さい」。終わった。ホッとした。

 しかしつかの間の安堵だった。続きがあるんだってよ、おい。「では、胸の前で手のひらを上に向けて合わせて下さい」。手で水を汲むときのようにしろというのだ。なんでも天から振ってくるパワーを受け止めるためらしい。超イヤじゃボケって感じだったが、ここまで来たら引けない。仕方なく従った。はいはい、言う通りにしましたよ。
「私と一緒に3回こう言ってください」。…は?
 言えと言われたフレーズはよく覚えていないが、「天のパパ様、ありがとうございます」とか何とか、そんな感じだった。
 聞いてないぞ。祈らせてやるとは言ったが、俺も祈るなんて話が違うじゃないか。とも言わず、猛烈に後悔しながらヤケクソで言う通りにした。顔から火が出るとはこういう事を言うんだな、と思いながら。さっきまで密かに染めていた頬は、今や全開最高潮らしい。顔が本当に熱い。この時ほど他人の視線の痛さを感じたことはない。

 全てが終わったようである。脈有りと思ったんだろう、「このあと私たちの集まりがあるんですが、一緒にいらっしゃいませんか。とても良いお話が聞けます」ときた。うるせえ、冗談じゃねえ! とは言わず、いやあ急いでますからとか何とかヘラヘラ言いながら、早急にその場を立ち去ろうとした。
 が、知らない間に似たような風体の男女数人に囲まれていた。目が異様な光を放っている。いつの間にか手を握られていた。ここで断わったらVXガスでも吹きかけられるんだろうか? ってそりゃ偏見もいいとこだが、私はちょっとした恐怖を感じていた。
 すみません、この後大事な打ち合わせがあるんです、申し訳ないけどまた次の機会に…。「私も残念です。いつでもお待ちしてます」。彼らは本当に心から残念そうだった。「私も」ってなんだよ、「も」って。

 ちっとも残念じゃない私は、とっとと帰った。人をからかうもんじゃないね。言葉遣いは丁寧だったし、悪い人たちじゃないのかもしれない。でもどこか普通じゃないよ。

 追伸。知ってる人も多いかと思うが、新宿や秋葉原でクリップボード片手に「阪神大震災の被害に遭われた人へ募金を」って寄ってくる連中も宗教かなんかである。震災前にはカンボジアだかの難民を救おうとか言って金を集めてた連中だ。要するに人の不幸をだしにして、自分たちの活動資金を集めているわけね。実は10円だけ払ったことがある。「もっと出せよケチ」みたいなことを言われたが、誰が知ってて得体の知れない団体の活動資金を払うかっての。10円払ったけど。住所氏名電話番号も書かされたが、本当の事なんか書くもんかい。その名簿には、大勢の名前と、5千円とか1万円とか金額が書かれていた。マジなのか? 結構オッさんとか気の弱そうな若者が捕まってるの見かけるからなぁ…。あとで電話来たりするんだろうな。あーこわこわ。安っぽいワープロで打ったような「証明書」のような物を見せられるけど、あんなの信用するなよ。その証拠に、警官が来たらすぐ逃げてるよ、あの連中。

 そんな話題の宗教屋の人たちへ。もしこれを読んでいても、私を捜さないで下さいね。お願いだから。
 


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