わたくしの昔の悪事


 もう時効だしいいか、というか、誰もが子供の頃にやったようなイタズラの類の話である。オチもない。
 小学4年の頃だったと思う。近所のスーパーの入り口に、キン肉マン消しゴムなどのガチャガチャと並んで、クレーンゲームが置かれていた。10円入れてボタンを押し、やたら粉っぽいラムネ菓子や、クソくだらねえゴミみてえなおもちゃをクレーンで掴み取るという、UFOキャッチャーの原形みたいなアレである。名称は「チャンスラー」。アムラー・シノラー的ノータリンネーミングの元祖なのかという気もする。ともかく、当時バカガキだった私は、それにたびたび10円をつぎ込んでいた。
 機構はUFOキャッチャーと同じである。クレーンで掴んだ景品は、手前の穴から落とされる仕組みだ。大きさは、幅と奥行きが50センチ、高さが160センチほどだったろうか。子供の手でも動かせる重さだった。不用心なことに、このチャンスラーはスーパー閉店後も出しっぱなしだったのである。

当時、小学生らしく秘密基地を持っていた。空き家の物置である。ブロック造りのしっかりしたもので、広さは3畳ほど。明かり取りの小窓や照明までついており、当時の日本全国のガキどもの秘密基地にランク付けをするなら、あれは特A級、五つ星クラスのものだったろう。新宿地下街のダンボール小屋なぞ、あの秘密基地に比べれば耳クソ同然である。ゴミの日に拾った毛皮が敷き詰められてたり、ヤクザの経営するパチンコ屋裏からかっぱらってきたパチンコ台(今考えると恐ろしい。ってこの後の事はもっと恐ろしいのだが)、下級生から巻き上げたメンコやビー玉などが保管されており、かなり居心地のいい場所で、毎日のように入り浸っていた。仲間に親父のものを持ってこさせ、初めてタバコに火をつけてみたのもここだった。いわば思い出の場所なわけだが、話のメインはこの秘密基地ではない。

 ある日の早朝、隣に住んでいた同じクラスのアホガキと、その秘密基地で待ち合わせた。目的はチャンスラーである。もちろん10円玉を握り締めて遊びに行くわけではない。筐体を倒して、景品をごっそり穴から落としてやろうという計画である。二人は、多くもない小遣いのいくらかを定期的に吸い上げられていたその機械に、魅力と同時に憎悪も感じていたのだ。かくして、スーパー裏口から生鮮食料品を運び込む業者のトラックにおびえつつ、計画は遂行された。成功だった。ごっそりどころか、中の景品はほとんど空になってしまった。景品だけではない。倒した時に、なぜだか10円玉もザラザラと景品取り出し口から出てきてしまったのである。恐くなって逃げた、なんてことはなく、「うおお」と目を輝かせ、キレイに全部いただいてから逃走したのであった。
 秘密基地へ戻り、戦利品を分け合った。ラムネやキャンディなどの菓子は基地の備品に、10円は山分けである。出てきた10円に混じって、5円玉にセロテープを巻いたものも見つかったが、我々がやった悪事に比べれば可愛すぎるほどのもんである。が、当時の自分は「こんなインチキをするなんて!」と怒りを燃やした覚えがある。全くもってバカガキなのだった。
 10円玉は山分けにしても、千円近くあった。10円玉ばかりでは使った時に足がつくのではないか、などと猿知恵を働かせ、銀行で両替することにした。両替に行くことになったのは、私ではなくもう一人のアホガキのほうだ。これも別に失敗するでもなく、無事に両替を終えて戻ってくる。事にあたって、ヤツは聞かれてもいないのに「10円貯金だったんです」とかなんとか言ったらしい。この時自分は、聞いてないのに理由をしゃべるヤツはウソツキだ、ということを悟った。そういう意味では、この一連の行動も多少は実りあるものだったと言えるだろう。

 もうその金をなにに使ったのか覚えていない。チャンスラーも、それから3日と置かずに撤去されてしまった。なんとなく殺風景になってしまったスーパー入り口。自分のせいでそうなったことを自覚した少年の胸はちくりと痛み、またその痛みを誰にも話すことはないのだった。

追伸:もうやってません。反省してます

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