ギャラリー 「れんぎょう」にようこそ!
ご来場ありがとうございます。ここは、「絵一枚、詩一編」のとても小さな私的なギャラ リーで、その他のものは何もありません。今回はその14回展です。
詩について、一、二言します。偶然、ここ何回か朝の詩が続いていることに気がつき、また珍しく、ちょうどそれらしい作品もできたので、今回は「朝」を意識して載せました。
旧友のSが、前回の秩父の詩のことを、「うますぎる、コトバがきれいすぎる、よくない」と言うから、「生まれも育ちも、君とは違って、ちょっとあれだから」と、答えたのですが、少々腑に落ちるので、今度の詩では、所謂「詩的」な言いまわしをし過ぎないよう、凝らない、普段着のコトバを使うよう、気をつけた積りなのですが…さて、どんなものでしょうか? (2000年5月15日 藤川 昶)


紫 蘭
( 藤川久代/
1999.5)
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蓮買いの朝の歌
昔々、中原中也は、目覚めの微妙な感受をコトバに定着しようとして、凝りまくった詩「朝の歌」を書いた。(十九の少年のなかなかの詩。)そして、始めての詩作があまり骨が折れたのに呆れて、アアクタビレタとかいったような感想を洩らした、と記憶している。
だが、目が覚めるとき、ひとは、ごく普通に、ぜんぜん凝らないで、詩を作るとかそんなんじゃなくて、知らず知らずのうちに最低限の創作(?)をすることがよくある。
ほら、例のあれ……
○
素木〈しらき〉の天井の格子模様
(細長い材と杢目の出た薄板が作る―)
障子の薄鼠色の紙の升目
際限もない散漫な気分で
そんな幽かで空ろな目を辿って
とりとめもない幻の図面を引く
眼球だけにしても
それが最低限の移動であるかぎり
旅、と強引にこじつけたところで
むろん普通いう旅行ではない
血の気なく 寝起きが悪く
(半端な夢 斑な睡気)
ふら ふら と 頭ばかりで 朝の旅、かな?
○
中也曰く
「手にてなす なにごともなし。」(「朝の歌」)
それでも 退屈まぎらしで
手帳にメモでもしてみるか
できるだけ 凝らないで
できるだけ 弾まないで
1 この旅には 目的がない
2 この旅には 終わりというものがない
3 この旅は いつでも終わる
4 この旅は 茫漠としている
5 この旅は 常に一人旅である
6 この旅には 情も思いもない
7 この旅には 計画・理論が欠けている(だから楽)
8 この旅には どんな理屈も付けられる(だから面白い)
9 この旅には 要するに何もない
9a 「一切の無常なるものは、ただ影像たるにすぎず」(ファウスト)
9b 「人の生涯は動きまわる影にすぎぬ」(マクベス)
10 こうしてみると、なんか人生によく似ているなあ
心なえ卯の花腐しの朝に発つ
薄闇にカゲロウ落ちて朝帰る
(余白に駄句。埒も無い凝り性。)
○
「8 この旅は どんな理屈も付けられる」、かな?
夜明け 目覚め
退屈よりも底なしの純粋な心
雨滴よりも初々しい虚無の眼
薄暗がりにきちんと浮き出る
天井、障子の冷ややかな升目
今朝もまた いつのまにやら
始まった陣取り
だが、いつも斜交い〈はすかい〉に行くのはなぜだ?
斜線がうまく天井の中心で交わらんぞ
四角四面 五里霧中
出発点を一つっつずらせ
ずらさなくても
全体に模様らしきものはできてるぞ
障子の方はずっとやりやすい
自由自在 お茶の子さいさい
線の矢飛ばせ ダーツの矢
「なぜ 縦横ではなく 斜めなのか?」
縦
御柱 オベリスク 天守閣
強制収容所の高圧電流柵
無音の高層ビル街 パソコンの底を小蟻が歩く
今日び星さえ監視する 「ドノミチダメ」
横
カスバ 「望郷」の迷路はもう遠い昔
なのに、小学校この方どこへ行っても
暑苦しいのに寒気する雑踏
密集の眩暈 目のつんだ格子縞
斜めだけ 我がちのごた交ぜの中
閉じ込められ 立ち塞がられては
なんとか躱わして擦り抜けて行く
………………………………
誰にも出会い 誰にも出会わず
いつも人に疑われ 自分を疑い
はっきりしない ふらふらした
ずっと立っていられない
朝礼で倒れる
泣き虫の
斜交い
でも斜切〈バイヤス〉はけっこう切れない
8a 「わたしの夢は魂の自由 ただそれだけ」
(モリコーネ「ネッラ・ファンタジア」)
(2000.5.15)
注 :
1.「ファウスト」、「マクベス」の訳者…各、森鴎外、福田恒存。
2. 「望郷」…アルジェのカスバを舞台とするフランス映画の名作。(ジュリアン・デュヴィヴィエ監督、ジャン・ギャバン主演。原題「ペペ・ル・モコ」。1937年。)日本封切は1939年。戦後すぐにも広く上映され、当時大評判の、知らぬ者ない映画だった。ある年代から上の人間には説明不要。
3. モリコーネ「ネッラ・ファンタジア」…こちらは逆に年配の人のために注が必要かもしれない。モリコーネは、映画音楽の大物。「ネッラ・ファンタジア」は、「ミッション」の主題歌。テレビの音楽番組を見ていて、偶然、引用のフレーズやこれらの事柄を知った。