悪徳商法に御用心 マルチ商法と並んで、悪徳商法というものがある。これは僕がその悪徳商法にひっかかってしまった時の話しである。非常に恥ずかしい話しであるが、これを発表することで被害にあう人が一人でも少なくなればと思い、ここに書いた次第である。それは僕が社会人になってすぐの頃であった。たまたまその日は定時で仕事を終え、寮へ帰りついた。なぜかひどい頭痛がしたので僕は鎮痛剤を飲み横になっていた。すると、そこへ一本の電話が掛かってきた。相手は若い女性であった。彼女は是非会って話したいことがあるからと、僕にある喫茶店で待つように言った。恐らく、何かの勧誘だろうと思ったが、会わなければならないような脅迫観念にかられて30分後に会う約束をした。僕は夕暮れの道を10分以上も歩いて、指定された喫茶店へ行き、彼女を待った。しばらくして彼女が現れた。スマートできれいな女性だった。しばらく世間話をし、僕の警戒心と緊張が緩んだ頃を見計らって彼女は英会話教材の説明をはじめた。最初は彼女の説明を覚めた気分で聞いていたが彼女の一言が僕の心に引っ掛かった。「英会話の勉強をして資格をとれば、会社で認められるの。」工場の隅で歯車として働かされるのは嫌だ。いまのままでは社会に埋もれてしまう。そう常々考えていた僕にとって、渡りに船の話しだと思った。彼女は「これから私と一緒に勉強して行こうよ。」とやさしい眼差しを僕に向けてくれた。何故かこの時、僕には彼女がマリア様のように思えた。孤独で苦しい生活から抜け出すには今しか無いと思った。僕は契約書に判を押してしまった。「また電話するね。」と彼女はやさしい言葉をかけてくれ、笑顔で手を振って別れた。寮へと帰る道で段々と冷静になった僕は少し不安になってきた。寮へ戻り、友達に話すと「馬鹿じゃないの?」と怒られてしまった。「早まったことをしてしまった。」と思った僕は、すぐにクーリングオフの手続きをとった。ところが数日後、相手の会社から電話がかかってきた。それは例の彼女ではなく、その上司からであった。彼は僕が突然解約をしようとしたので、契約を取った彼女はそれがショックで寝込んでしまったと言った。そして一度、事務所へ来てくれるよう言った。後日、何故か僕はわざわざ事務所を尋ねていた。そこには先日の上司がひとりだけいて、もう一度、僕に英会話の重要性を説明し始めた。これがうまいのである。僕はすっかり「英会話を勉強しなきゃ。」という気持ちになってしまった。そして再び契約書に判を押してしまったのである。上司はすぐに彼女へと電話を入れて、僕が契約したことを伝えた。それから上司は僕に受話器を渡した。彼女は「もう、心配したんだから。でも、これから仲良くしようね。」と言ってくれた。数日後、寮へダンボール箱が届けられた。中にはビデオデッキと英会話のビデオが20本ばかし入っていた。僕はさっそく第一巻のビデオをデッキにセットし再生ボタンを押した。そこにはいかにも能天気そうなアメリカンな青年が「ハロー!」というものであった。結局、第二巻以降の封が切られる事はなかった。そして一年半後、このビデオテープ一式は友達へあげてしまった。そうそう、彼女は結局、一本の電話もくれなかった。事務所からは3年に及ぶローンの請求書が送られてきただけであった。「人を信じてはいけない。」ということを僕は学んだ。75万円はちょっと高かったかな。